川本眼科

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院長のつぶやき

院長のつぶやき 「異常」「障害」を「多様性」に置き換える弊害 2017年10月29日

「色覚異常」から「色覚多様性」に用語変更する問題の続き。

「多様性」という言葉は「生物多様性」「人種的多様性」のように使われる。
いろいろな種類があるよ、いろいろなグループがあるよ、という意味だ。
そして、そこにはそれぞれのグループを比較して優劣をつけるという意識はない。

それに対し、「異常」「障害」は「正常」の存在が前提になっている。
そして、「正常」に比べ、困った状態、不自由な状態と扱われている。
言葉自体に優劣の意識が入り込み、差別につながりやすい。

それゆえ言葉を言い換えよう、というわけだ。

しかし、そういう考え方なら、色覚に限らずあらゆる場面で
「異常」「障害」という用語は排除されるべきだということになる。
身体障害は身体多様性に、視覚障害は視覚多様性に、聴覚障害は聴覚多様性に、
それぞれ言い換えるべきだということになる。
実際に、似たような言い換えは歴史をひもとけばいくらでもあった。

もし、それが実現したら何が起こるか。
あら不思議、今までニュートラルな意味合いだった「多様性」という用語に
優劣の意識、不自由な状態という意識が既に芽生えてしまう。

「便所」を「化粧室」と言い換えても、内実が変わらなければ、
「化粧室」にも「臭い」「汚い」というマイナスイメージが付与されるだけだ。
「雪隠」「ご不浄」「お手洗い」など、いくら言い換えても同じである。
今、「トイレ」に悪いイメージが少ないのは言い換えが成功したからではない。
トイレ自体が昔に比べて格段に清潔で快適になったからだ。

色覚の場合はどうか。
人間にはふつう色覚センサーが3種類ある。
3種類とも十分機能している場合が正常3色覚だ。
1種類しか機能していなければ1色覚、
2種類しか機能していなければ2色覚、
3種類のうち働きが悪いセンサーがあれば異常3色覚。
95%の人にはあるセンサーが働いていないわけだ。

当然、色覚を識別する能力は悪い。当然だ。
それを「異常」「障害」と呼ぶのは自然だと思う。
「多様性」と呼ぶのは無理がある。

異常や障害があっても、社会が受け入れる。
障害を気にしなくてよいバリアフリーの社会を目指す。
異常や障害の有無で人間の優劣を判断しない。
そのことで差別しない。
それは当たり前のことだ。

それは、言葉を隠すことでは解決しない。
黒人差別をなくすのは、肌を白く見せることではないはずだ。
かつて米国ではBlackをColoredと言い換えた。
でも、そういうことでは差別は解消しなかった。
むしろ、今黒人はColoredなる用語は拒否していると聞く。

色覚異常への差別や偏見をなくすのは地道な意識改革しかない。
用語の変更は問題を隠そうとする姑息な手段だと私は思う。

追記:「障害」→「障碍」に戻そうとする動きは知っている。
   碍の字が当用漢字になれば私もそうする。
   ただ、この言葉が差別的というのは言いがかりだと思う。

(2017.10.29)

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