川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 186心の問題と眼 2015年7月31日

眼科領域でも心の問題がかかわってくる場合があります。

子供では「心因性視力障害」という精神的問題が原因と言われている病気があります。大人では不安やストレスが眼の症状として現れます。

心の問題と無縁に見える病気でも、患者さんの不安を取り除き、精神的にサポートすることは、治療の重要な一部です。

うつ病や統合失調症の患者さんが眼科を受診される場合、眼科的な診断治療の方法は基本的には通常と変わりません。ただいくつか考慮しなければならない点があります。

心因性視力障害とは

学校健診で裸眼視力が悪い場合、大半は屈折異常(近視・遠視・乱視)で、適切な矯正レンズをはめて矯正視力を測れば良い視力が出ます。

矯正視力が悪い場合は角膜・水晶体・網膜等の病気を疑って調べます。診察しても何も異常がない場合に心因性視力障害を疑います。

屈折異常ならば適切な矯正レンズをはめた時に最高視力となり、そこからレンズ度数がずれるほど見えづらくなるはずです。ところが心因性視力障害ではこの当然の関係が成立しません。視力の出方が不安定で、素通しのガラスでも良い視力が出たりします。従って、メガネを作ってもやっぱり視力が不安定で困ることが多いのです。

原因は何らかの精神的ストレスだと考えられています。親子関係、学校での人間関係、塾通いなど比較的原因がわかりやすいこともありますが、眼科外来で短時間話を聞く程度では原因の特定はまず無理です。

心因性視力障害の治療

原因となっている精神的ストレスを取り除けばよいわけですが、実際には原因不明の場合が多く、言うは易く行うは難しです。

幸い、時間が解決することが多く、成長とともに自然に視力が回復することが期待できます。あまり神経質にならず、周囲が愛情を持って温かく見守るのが正解だと思います。

不安やストレスが眼に影響

不安やストレスは自覚症状を悪化させます。

仮面うつ病は精神症状よりも身体症状が主となるうつ病です。内科等でいくら検査しても異常が見つからないのに、疲労感・頭痛・下痢・呼吸困難・腰痛など様々な症状を訴え、内科の治療では改善しません。

眼にも仮面うつ病は現れます。ただ「眼疾患が全くない」と証明することが難しく、疑いは持っても確定診断はなかなかできません。

緑内障などで「失明もありうる」と聞いて不安を募らせ、ものすごく神経質になって次から次に様々な眼症状を訴える方もいらっしゃいます。これも仮面うつ病に近い病態です。

眼の病気が存在しても、自覚症状が他覚所見に比べて強すぎることもあります。やはり心の問題が関係しているのだと思います。特に、ドライアイ、眼精疲労、眼瞼けいれん、閃輝暗点などではストレスなどの精神的影響が強いようです。

不安を取り除くことが治療

白内障の手術などでは心の問題は無縁なように見えますが、やはり不安が強い方は痛み・異物感・違和感などが強い傾向があります。医師が一言「順調です」「うまくいきました」などと声をかけるだけで症状が緩和されることを経験します。

緑内障なども時間をかけてどんな病気か詳しく説明することで愁訴は明らかに減ります。納得し安心していただくことは、目薬を処方するのと同じくらい大切だと思います。

精神疾患がある患者さん

うつ病の患者さんは増えていますが、うつ病でも眼科では普通に診療できます。過剰な心配で自覚症状が強い方はいますが、丁寧に病気の説明をして目薬を出すこと自体が精神的サポートになっているので問題になりません。

統合失調症では意思の疎通ができるかどうかがポイントです。幻覚や妄想があって会話にも支障があるようだと診断も治療も困難になります。

高齢者では、明確に分類しにくい精神疾患が増えてきます。認知症も増えます。理解力、決断力、判断力が悪くなり、自分で決断することが難しくなります。手術が必要になっても、なかなか同意していただけないので困ります。

家族などのサポートが重要です。同居している家族の全面的な支援が得られれば理想的ですが、今日の社会状況では難しくなっています。私は、必要があればご家族に電話したり手紙を書いたりして協力をお願いしています。患者さんを通して連絡をお願いしても話が伝わらないことが多いので、医療側が積極的に動くことが大事だと考えています。

向精神薬と緑内障

精神疾患に対する薬の多くは抗コリン作用(アセチルコリンという神経伝達物質の働きを妨害)を持っていて、急性緑内障発作を起こす心配があるので閉塞隅角緑内障や狭隅角眼には禁忌です。

幸い、ほとんどの緑内障は開放隅角なので、たいていは服用できますが、念のため確認することは必要です。眼科に既にかかっている場合は対策を取るのでたいていは大丈夫です。
(川本眼科だより67参照)

本当は、眼科にかかっていない方のほうが心配です。隅角の広い狭いを確認していないからです。

なお、以前は抗うつ薬が危ないと言われていましたが、最近の抗うつ薬はSSRI、SNRIというタイプが主流となっていて、抗コリン作用はすごく少なくなっているそうです。

(2015.8)