川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 193不得意分野 2016年2月29日

内科だと呼吸器内科・消化器内科・内分泌内科などと分かれているのは当たり前です。眼科にも同様に様々な分野があって、大学病院などではそれぞれ専門外来があって担当が分かれています。

眼科の開業医は「何でも屋」で、すべての分野をそれなりにこなす訳ですが、当然のことながら得意・不得意はあります。

今回は正直に私(院長)の得意分野・不得意分野をお話したいと思います。受診の参考にしていただければ幸いです。

川本眼科の得意分野は

勤務医の場合、大学にいれば専門外来に所属しますが、外の病院にいるとそういう贅沢は許されず、どんな病気でも診ざるを得ません。私(院長)は研修医時代を除いてほとんど大学外の一般病院に在籍していたので、眼科全般にわたり一通りのことは経験できたと思います。

ですから、白内障、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症など、頻度が高い病気については、それなりのレベルの診療はできると自負しています。川本眼科だよりでも、こういう分野の記事が多くなります。やっぱり自信を持っているからですね。

斜視・弱視は苦手

一番苦手な分野というと斜視・弱視です。

斜視・弱視については「視能訓練士」という専門家がいて検査します。医師は最終的にチェックをしますが、自分で検査している訳ではないので、現場担当者と管理職の上司みたいな感じになって、細かな点が把握できないことがあります。

斜視・弱視は眼科の中でも特殊な領域で、早めに専門家にお任せすることが多いので、一般の眼科医にとっては自分で診察する機会が少なく、訓練を受けたり、経験を積むことが難しいのです。

これは私に限りません。同様の理由で、眼科医の中でこの分野が得意な人は少ないと思います。

余談ですが、斜視患者さんが藤田保険衛生大の内科に通院中だったので同じ病院の眼科に紹介したところ、斜視弱視の専門家がいないからという理由で断られたことがあります。大学病院でさえそうなのです。しかもその大学が斜視弱視を扱わないのなら、そこに何年在籍しても斜視弱視の経験を積むことはできない訳です。

斜視弱視外来はパンク状態

斜視・弱視については、なるべく専門家に紹介することにしています。しかし、専門家が少ないために斜視弱視外来はどこもパンク状態なのが実情です。愛知県には4大学ありますが、名市大、愛知医大、藤田大の3大学は網膜硝子体を得意としていて斜視弱視分野は弱体と言わざるを得ません。斜視弱視の患者さんを紹介できるのは事実上名大だけです。そして名大の斜視弱視外来は混みすぎていてなかなか予約が取れません。

中京病院は川本眼科と関係が深く、斜視弱視も安心して任せることができますが、斜視弱視外来は患者さんが多すぎて予約が取れない状況にあり、初診の予約が6ヶ月も先になったりします。

このような状況下では、開業医も苦手だなどと言ってはいられず、できる範囲で斜視弱視診療を分担せざるを得ません。そこで私は自院で診る範囲を「メガネとアイパッチだけで治療できる屈折異常弱視と不同視弱視だけ」と決めています。治療法が比較的ルーティン化されていて、専門外の医師でも間違えのない治療ができるからです。

これ以外はなるべく手出しをしないようにしているのですが、土曜日しか受診できないので川本眼科で診て欲しいという依頼もたびたびあり、正直なところ困っています。

ものもらいの手術も不得意

ものもらい(めんぼ)では、まず薬(目薬/内服薬/軟膏)などによる治療をしますが、薬の効果が不十分で腫れてしまった場合は手術(切開/排膿/摘除)をすることもあります。

実を言うと私は勤務医時代にはものもらいの手術をめったにしませんでした。こういう病気で大学病院や大病院を受診する人は少なく、開業医で診てもらうのが普通だからです。大学の研修ではきちんとした訓練を受ける機会は全くなかったと記憶しています。

開業してから必要に迫られて外来手術をするようになりました。手術書やビデオによる独学です。とんでもない失敗をしたことはありませんが、腫れやしこりが残って今ひとつ綺麗に取り切れないことは結構ありました。すべて同じやり方で処理できる訳でもなく、病状に応じて工夫が必要です。結構奥が深く、難しいのです。

もちろん問題なく治るものが大半ですが、患者さんは短期間で簡単に治ると期待しているので、術後もしこりが長期間残ったりすると相当に苦情を言われます。女性の場合には美容的観点からのクレームもあります。完璧を期待されると相当につらいものがあり、正直苦手意識を持っていて、できることなら一切手術せずにすませたいぐらいです。

もっとも事情は他の眼科医にとっても同じらしく、川本眼科には「他院でものもらいを切ってもらったが良くならない」という患者さんが時折り受診されます。再手術して必ず満足できる結果が得られる保証はないので、その旨を十分に説明した上で、どうしても再手術を強く希望される方だけやむを得ず切っています。

紹介できるなら話は簡単

医師の側からすれば、不得意分野には手を出さないほうが楽です。当然のことながら、自分の手に負えないならさっさと紹介してしまいますから話は簡単です。でも紹介できるとは限りません。

実際には、大病院は忙しすぎ、どんな患者でも引き受けるという訳にはいきません。軽症患者や治療が一段落した患者は、開業医で経過観察をするのがお約束です。

そんなわけで、たぶん今後も、不得意分野でも診療に携わるしかないのだと思います。できる限り患者さんにご迷惑がかからないように、無理をしない、早めに専門施設に紹介する、等を心がけて参ります。よろしくお願いいたします。

(2016.2)