川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 44「名医紹介」の真実 2003年10月31日

名医を紹介する本がたくさん出版されています。
 
雑誌などでも、「○○の名医100人」などといった記事の広告が目に付きます。
 
患者さんにしてみれば、良い医者にめぐりあいたいのは人情で、「名医紹介」には確実に需要があり、だからこそこういう本が売れるわけです。
 
しかし、こういうたぐいの情報って、どこまで信用できるんでしょうか? あてにしてよいんでしょうか?

企画先行の本づくり

名医紹介といっても、いろいろな本がありますから、みんな同じと決めてかかるわけにはいきません。
 
医療問題について十分予備知識のあるジャーナリストが、時間とお金をかけてきちんと取材をするなら、きっと実用性の高いガイドができるのではないかと思います。
 
しかしながら、私の知る限り、現実に出版されている本や雑誌の記事は、実に安直に作られています。「○○についての名医を紹介する」という本を出せばそこそこ売れるだろう、と企画を立て、あとは大病院の医師や専門医をピックアップして適当に体裁を整え、はい一丁上がり、という感じです。
 
企画だけが先行して、中身が伴っていないのです。利益を上げるために、取材にはそれほどお金をかけていられないという現実があり、きわめて短時間のうちに作り上げられます。

アンケートでつくる本

この手の本を作るのに、よく使われるのがアンケートです。適当にピックアップした医療機関にアンケートを送り、自院の紹介を書いてもらうのです。
 
当然、医療機関側としては、なんとか自院のことをよく思われたい、できれば患者さんを集めたい、と考えます。一所懸命に自院をPRするわけです。その結果、「患者様中心の医療」とか「丁寧で詳しい説明」とか「親切で優しい」とかいった言葉が踊ることになりますが、それに内実が伴っているかどうかは別問題です。
 
そういうアンケートの結果を、内容が正しいかどうかを検証することなしに、体裁だけ整えて編集して本にするわけです。したがって、内容の正確さは保証されてはいません。控えめに遠慮深く書いた医療機関よりも、嘘でもいいから美辞麗句を並べて自慢をした医療機関のほうが、優秀だと錯覚させることにもなります。
 
私自身、そういうアンケートをもらって書いたことがあります。アンケートに答えても、せいぜい出版されたあと本を1冊送ってくるだけですが、自院の宣伝になるならと協力するわけです。医師は、医療内容まで立ち入って広告することを禁じられていますから、自院を紹介するチャンスではあるのです。
 
しかし、これをもって「名医を紹介」したというのはおこがましいでしょう。第三者の目による評価は全くされていないのです。正直言って、これで医療機関の良し悪しがわかるとはとても思えません。

有料掲載(=事実上の広告)

ただのアンケートならお金は関係ありませんが、お金を払って自院の紹介記事を載せてもらうという方式もあります。これを有料掲載と言います。
 
有料掲載は、事実上の広告です。本や雑誌を作る側が医療機関を取材した体裁をとっていますが、結局、お金を払って自院の宣伝をしてもらっているわけです。
 
名医紹介の本では、有名病院の記事は無料で載せ、開業医を紹介する部分が有料掲載になっていたりします。
 
有料掲載は本より雑誌の場合に多いようです。あまり名前が知られていない地域限定のミニコミ誌などに、俳優との対談形式でクリニックを紹介する記事が載っていることがありますが、ほとんどが有料掲載です。
 
川本眼科にも、過去に何度か有料掲載しないかという話がきましたが、うさんくさく感じて、すべてお断りしています。
 
有料掲載の場合は、お金をたくさん払うほど大きなスペースで紹介してもらえることになります。これでは広告を読んでいるのと同じです。医療機関の紹介として、あまり役に立つものとは言えません。

有名な先生の紹介にも問題あり

ある分野の名医紹介をするというなら、その分野を専門的に手がけている医療機関の名前は欠かせません。多少ともまじめに作っているなら、本を執筆しているような有名な先生に取材するくらいのことはしているでしょう。
 
ただ、本を書いているような医師は、実際には診療の第一線からは退いていることもありますし、もっと若い医師のほうが手術は上手なんてことも結構あります。研究者としては一流でも、患者さん相手では愛想が悪く説明もろくにしないというケースもあります。
 
また、本を執筆しているような医師に依頼して名医を紹介してもらう、ということもあります。この場合も、知り合いだからとか、よく患者さんを紹介してくれるからとか、実際の腕とは別の理由で名前を出すことが多いのでそんなにあてになるものではありません。

内容を鵜呑みにせず参考程度に

そんなわけで、こういう「名医紹介」の本に過度な期待をいだかないほうがよいでしょう。せいぜい、医療機関の場所の確認くらいにしか使えないと考えておきましょう。
 
記載内容は鵜呑みにしないことです。広告と同じで、キャッチフレーズは眉に唾つけて読み流しましょう。ただ、どんな機械が置いてあるか、どんな手術を手がけているかなどは、参考になるでしょう。
 
そもそも、何をもって「名医」というのかは難しい問題です。患者さんと医師の相性の問題も大きいでしょうから、万人にとっての名医などありえないような気がします。
 
情報過多の時代ですから、賢い情報の受け手となって、いつも批判的に情報に接することが大事だと思います。

2003.10