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川本眼科だより

川本眼科だより 122遠くは右目、近くは左目~モノビジョンで老眼対策~ 2010年4月30日

コンタクトでも、レーシック(近視手術)でも、白内障手術でも、普通は左右あまり度が違わないように合わせます。つまり、右目を正視に合わせるなら左目も正視に、右目を近視にするなら左目も近視にするのが一般的です。
 
左右とも度がそろっていたほうがバランスが良く、違和感も少なく、ものを立体的に見るにも好都合で、メガネも作りやすいからです。
 
ところが、わざと左右の度を変え、右目は正視、左目は近視にしてしまうことがあります。(もちろん右目は近視、左目は正視でもよい)
 
この方法をモノビジョンと言います。なんでわざわざそんなことをするのでしょうか? そんなことをして大丈夫なんでしょうか? この方法の利点と欠点をご紹介いたします。

 

老眼とはピント調節力の衰え

ピントを調節する力は歳を取ると衰えます。このことを老眼と言います。
 
正視の人は若い時は遠くも近くも見えますが、老眼になると近くが見えなくなり、45歳頃から老眼鏡が必要になります。
 
近視の人は若い時から遠くは見えませんが、近くはメガネなしでよく見え、老眼年齢になっても近くは老眼鏡を使う必要がありません。
 
ふつう人間の左右の目はよく似ていて、たいていは右目が正視なら左目も正視、右目が近視なら左目も近視です。必要に応じて近視のメガネをかけたり、老眼鏡をかけたり、遠近両用メガネをかけたりして対応します。

自然に成立したモノビジョン

左右の度が違うこともあります。たまに、片目は正視で反対の目は近視という人がいます。
 
右目が正視で左目がほどほどの近視だと、若い時には右目で遠方が見えるのでメガネがなくてもさほど困りません。もちろん両目とも正視のほうがもっとよく見えますし、厳密に言えば立体的にものを見る力には多少問題があります。でも、きわめて特殊な状況(例えば3D映画を見る時)を除けば日常生活にはあまり不自由しないのです。
 
この方が歳を取り、50歳くらいになれば当然老眼にはなっています。ただ、近くは近視の左目で見ることができるので老眼鏡をかけなくても平気です。遠くは正視の右目で見るので裸眼で平気です。結局、メガネなしで済んでしまうのです。
 
この状態では両目で同時に見ているのではなく、片目ずつを器用に使い分けていると考えられます。この状態をモノビジョンと呼んでいます。
 
このように自然に成立したモノビジョンでは脳が既に適応していて、すばやく切り替えてくれますし、本人も便利に感じていることが多いため、そのままにしておきます。メガネやコンタクトを使用するとかえって「見えづらい」「不便」「頭が痛くなる」など問題が起こりやすいのです。長年の適応で微妙に成立していた安定を崩してしまうからでしょう。

わざとモノビジョンにする

老眼になっても遠くも近くも見たいと誰しも考えます。そこで、昔からわざとモノビジョンの状態にするというアイデアが試みられてきました。
 
メガネだとうまくいきません
凹レンズ(近視のメガネ)は物体が小さく見え、凸レンズ(遠視のメガネ)は物体が大きく見えます。大きさの違いはある程度までは脳がなんとか処理できますが、左右の度が大きく異なると脳の処理能力を超えてしまい、眼精疲労になったり頭痛がしたり長時間目を使うことができなくなります。
 
コンタクトならモノビジョンにすることが可能です。左右の度が違っても見える大きさは変わらないからです。老眼になった方がコンタクトを使う場合、左右とも正視にすると手元を見るのに老眼鏡が必要になります。片目(ふつう利き目)は正視、反対側の目は近視にしておけば、遠くも近くも見えて便利なはずです。
 
残念ながら、実際にはなかなかうまくいきません。左右を使い分けるためには脳がその状態に慣れて適応しなければならないのですが、それには時間がかかるのです。しかもコンタクトを外せばモノビジョンではなくなり、元の状態に戻ってしまうので、慣れにくいのです。
 
ただ、コンタクトならダメで元々、ダメなら普通のやり方に変更すればよいので気が楽です。

白内障手術でモノビジョン

白内障手術では目の中に「眼内レンズ」を入れます。
眼内レンズの度はある程度事前に選べるので、望めばモノビジョンにすることが可能です。片目は正視を狙い、反対側の目は近視狙いとし、うまくいけばメガネなしの生活を享受できます。
 
ただ、理屈では可能でも、実際にはほとんどやりません。患者さんに積極的にお勧めもしていません。
 
理由は、眼内レンズの度は事前の狙い通りぴったりとはなかなかいかず、誤差が出ることです。乱視も残ってしまいます。モノビジョンにする目的はメガネなしで生活することですから、誤差が出たり乱視が残ったりしててメガネが必要になったら意味がないのです。しかも、左右の度が異なるとメガネは合わせにくく、メガネをかけても満足のいく見え方にならないという困った事態もありえます。
 
現在、私は術前からもともとモノビジョン状態で、術後も同じ状態を希望された方に限り、モノビジョンを試みることにしています。既に慣れた状態なので適応しやすいからです。

不成功の場合の対処が困難

モノビジョンは必ずうまくいくという保証がありません。手術の場合は誤差の問題がありますし、誤差なく完璧に狙い通りの度にできたとしても、脳が適応できず左右が切り替えられないと遠くも近くも何となくぼけていて見え方に不満が残ることになります。
 
うまくいかなかった時に対処が困難なのが最大の問題です。
 
左右の度が違いすぎるとメガネで完全矯正するのは無理です。片側の矯正は弱めにして妥協するしかありません。コンタクトなら大丈夫ですが面倒くさくてかなわないという人が多いでしょう。レーシックのような手術で近視を正視に直すことはできますが、お金も時間もかかり大変です。

得失を納得した上で受ける

モノビジョンには長い歴史があり、いろいろ工夫を重ねながら繰り返し試みられてきました。積極的に取り組んでいる医師もいます。成功すれば患者さんの満足が大きいのも確かです。
 
しかし、いまだに主流の方法となっていないのは問題点が現在でも解決できていないからです。
 
患者さんが利点・欠点・問題点をよく理解し納得した上でなら、試してみる価値はあります。

2010.4