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川本眼科だより

川本眼科だより 125おくすり受診 2010年7月31日

今日はいわゆる「おくすり受診」の話です。
 
薬がなくなった時に薬だけほしいと頼んでも、医療機関によって出してくれたり断られたり、対応はバラバラです。一度は薬だけ出してくれたクリニックでも、その次にまた頼むと「診察を受けないと出せません」と言われたりします。

「診察を受けろと言われたって、待ち時間が長すぎる。そんなに暇人じゃないぞ」と受付で怒っている光景もよく目にします。
 
なぜ、こういうトラブルがおこるのか、おくすり受診に関する問題点を考えてみます。

 

診察なしの投薬は法律で禁止

医師法第20条は「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方箋を交付(中略)してはならない。」と定めています。
 
診察しなければ、薬が患者さんの病状に適切かどうかわかりません。効かない薬を出していて治るはずがありませんし、仮に心臓の病気に胃薬を出していたら犯罪的です。もし薬に対する過敏症があれば薬が原因で死ぬことさえありえます。そういう意味で当然のことと言えます。
 
必ず1人1人診察が必要なわけですから、テレビやインターネットで宣伝をして薬だけ大々的に販売することはできません。医師は地道に患者を診ていくしかないのです。
 
ですから、初診の患者さんに、診察もしないで薬を出す医師は絶対にいません。もしいれば明確な医師法違反であり、処罰の対象にすらなりうるでしょう。

再診時に薬だけ処方はグレー

しかし、いったん初診で診断をつけ治療計画を立てた患者さんの場合はどうでしょう?
 
少なくとも初診時に診察はしています。再診時にはさすがに診察の必要はないだろうと考えられるケースが出てきます。例えば、1ヶ月後に再診と指示された患者さんが診察の翌日に薬の入ったバッグをひったくられたとしましょう。診察の順番を1時間なり2時間なり待って通常の診察を受けてからでないと薬がもらえないのでは、さすがに過酷すぎるのではないでしょうか。
 
実際、患者さんが「薬がなくなったが、診察を受けている時間がないので薬だけ欲しい」と要求するケースは多く、医師側も必要に迫られてある程度対応してきました。
 
この場合、やはり医師法20条に違反するのではないかという問題がありました。明快な法解釈が示されないまま、違法か適法かグレーゾーンという状態でした。

おくすり受診を認めた厚労省

今年(2010年)4月の診療報酬改定の際に、厚労省は「投薬は本来直接本人を診察した上で適切な薬剤を投与すべきであるが、やむを得ない事情で看護に当たっている者から症状を聞いて薬剤を投与した場合においても、再診料は算定できるが、外来管理加算は算定できない。また、多忙等を理由に、ウに該当する診療行為を行わず、簡単な症状の確認等を行ったのみで継続処方を行った場合にあっては、再診料は算定できるが、外来管理加算は算定できない。」と通知しています。さらに医療機関からの問い合わせに対して、「いわゆるお薬受診では外来管理加算が算定できないことを念入りに表現した。」と回答しています。
 
お役所らしい難解な言い回しではありますが、要するにおくすり受診は厚労省も認めているわけです。しかも本人でなくてもよいのです。ただし、一定の要件を満たす必要があります。

医療機関によって異なる対応

厚労省の見解に異を唱える医師もいます。
医師法20条を厳格に解釈し、しっかり診察を受けない限り薬を処方しません。患者が薬だけ出してくれといくら懇願してもクレームをつけても無駄です。強い信念に基づき断固として拒否します。
 
現実には、たいていの医師は、条件付きながらおくすり受診を容認しています。ただ、その条件は医師によって異なります。
 
私の場合だと、下記の条件を原則にしています。これなら医師法20条に抵触しないと考えます。

(1)安定した慢性疾患である
(2)前回診察からあまり時間が経っていない
(3)自覚症状に変化がないと確認できた
(4)前回処方と同一内容を継続処方
 
(1)と(2)は関連していて、白内障なら3ヶ月くらい間隔があいていても目薬を処方していますし、緑内障では毎月の眼圧測定を最低限の条件にしています。糖尿病網膜症では病状次第です。急性疾患でも、1週間後の受診を指示していて途中で目薬を紛失したような場合は対応しています。
 
おくすり受診は好ましいことではないとは言え、必要悪みたいな面もあります。少なくとも、いっぺんに何ヶ月分も処方してしまうよりは、症状に変化がないことを確認している分だけ医師としての責任を果たしていると考えています。

どこで線を引くか

おくすり受診は絶対に認めないという立場なら問題ないのですが、条件付きでお薬受診を認める場合は、どこで線を引くか悩むことになります。
 
前回受診が1年も前なら、どんな事情があるにせよ、やっぱりきちんと診察を受けていただく必要があるでしょう。これは初診の場合と同じことだと思います。では6ヶ月前なら? 3ヶ月前なら? うーん。はっきりしたきまりはありません。
 
病気の種類、薬の内容、患者さんの事情を考えて判断するしかありません。

やっぱり診察は大切です

患者さんの意識では、医者にかかるのは薬をもらうためのようです。

「面倒くさい検査なんか受けずに薬だけほしい」「いったん診断がついたら後は薬だけ続ければいいだろう」と考える人はたくさんいます。
 
ただ、どんな病気でも時間とともに変化するものです。加齢による変化もあります。自覚症状があれば自分で気づきますが、自覚症状が全くないことも十分ありえます。
 
患者さんは、「変化なし。安定しています」と何回か言われると安心してしまうようです。でも、医師側から見ると、安定していた患者さんの中に必ず悪化する人はいます。また、通院が中断してしまい、何年かぶりに受診した時にはすごく悪くなってしまっていたというケースにもしばしば遭遇します。きちんと通院していればもっと何とかなったのに・・と思うと本当に残念です。
 
多忙な方が受診する暇なんかないと考えるのはよく理解できます。診察待ち時間は長すぎるし。
 
それでもやっぱり、悪くなってからでは遅いのです。定期的に診察を受けることは大切ですよ。

2010.7