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川本眼科だより

川本眼科だより 129アカントアメーバ角膜炎 ~正しいソフト・コンタクトのケア~ 2010年11月30日

アカントアメーバ角膜炎の感染者はほとんどがコンタクト使用者です。普通の抗生物質が効かず、治療が困難な病気です。重症化しやすく、時には何ヶ月も治療を続ける必要があり、ひどい角膜の混濁を残して角膜移植以外に治療法がないなどという羽目に陥ります。失明もありえます。
 
かつてはきわめてまれな病気だったのに、ここ20年くらいでどんどん増え、最近では年に何十例も報告されています。未報告例も相当あるはずで実数はずっと多いでしょう。
 
増えた原因はコンタクトの不適切なケアによると考えられています。正しいケアで大半は防げるはずなのに、現実にはコンタクト使用者の多くがケアに無頓着で指導を守っていません。
 
今回は特にこすり洗いとケース交換がなぜ必要なのか詳しく説明いたします。
 
なお、アカントアメーバ対策をきちんとすれば他の角膜感染症に対しても万全です。

 

アカントアメーバは水道水にも

アカントアメーバは土の中にも、水の中にも、ごく普通にいる原生生物です。家の中のほこりにも、水道水の中にも存在しています。つまりどこにでもいるので根絶することは不可能です。
 
幸い通常は無害です。人間には免疫システムがあって簡単には侵入できないのです。
 
ところが角膜にキズがつくとアカントアメーバが侵入する可能性が生じます。感染を起こす確率はかなり低くて、アカントアメーバの数が何十万、何百万と増えたとき初めて感染の危険が問題になる程度と考えられています。

良く効く薬がない!

アカントアメーバ角膜炎を起こす確率は相当に低いのですが、いったん感染が成立すると厄介です。良く効く薬がないのです。目薬やのみぐすりが使われていますが効果は不十分です。
 
病巣掻爬が治療の中心になります。感染を起こした角膜を削る治療を根気よく繰り返すのです。入院して何ヶ月も治療を続けることもあります。
 
何とか感染そのものは落ち着いても角膜が白く濁り、血管が入り込み、表面がでこぼこになり、視力が大幅に低下してしまいます。
 
つまり、治療は難しいので、予防に力を注ぐべきです。しかも適切なコンタクトのケアを心がけることで予防は十分可能です。

細菌を食べて増殖する

アカントアメーバは細菌を食べて増殖します。
 
ですから塩素消毒した水道水の中では、アカントアメーバの栄養源となる細菌がいないので増殖できません。つまり水道水で目を洗ってもアカントアメーバ角膜炎を起こす心配はありません。
 
しかし、容器に水道水を入れて時間が経つと、塩素が抜けて細菌が増え、その細菌を食べてアカントアメーバが増えます。以前、水道水で溶かすコンタクト保存液があったのですが、アカントアメーバ角膜炎が多発して発売中止になりました。

MPSは消毒力が弱い

現在、ソフトCLのケア用品はMPS(マルチ・パーパス・ソリューション)が主流です。商品名はコンプリート、オプティフリー、レニューなどです。使い捨てコンタクト使用者の8~9割がMPSを使っているという印象です。1剤で洗浄もすすぎも保存もできて便利ですし、何より安価なのが最大の魅力です。
 
欠点は消毒力が弱いことです。消毒力は一般に煮沸>ヨード>過酸化水素>MPS  の順です。MPSは細菌に対しても弱いし、アカントアメーバに対してはほとんど無効です。

こすり洗いが大切

実はMPSの使用はこすり洗いが前提になっています。十分なこすり洗いとすすぎによって細菌数は100分の1~1万分の1にまで減ります
 
MPSはアカントアメーバに対する消毒効果がきわめて弱いのですが、アカントアメーバは細菌を貪食して増殖するので、細菌さえいなければアカントアメーバも増殖できないのです。
 
石けんでよく洗った手で20回以上こすり洗いして下さい。手は細菌だらけですから手洗いしないのは論外。コンタクトをさわる前には必ず手洗いを。また、こすり洗いしないでケースに入れるのはケースに細菌を持ち込んでアカントアメーバにエサやりしているようなものです。
 
こすり洗いが面倒でできない人は、ケア用品をヨードに代えるか、1日タイプの使い捨てコンタクトを使うべきです。
 
なお、「こすり洗いしなくても大丈夫」と無責任なことを言うコンタクト販売店があります。大嘘です。そういう店は信用ができませんから縁を切りましょう。

MPSのつぎ足しは厳禁

ケースに入れたMPSを捨てず、継ぎ足して使うのは大変危険です。ケース中に細菌とアカントアメーバが生き残っている可能性が高く、しかも古いMPSの消毒力は低下しています。食器を洗わずに使い続けて食中毒をおこすようなもの。
 
毎回MPSは捨て、ケースを洗って乾燥させて下さい。乾燥は重要です。水分がいるところには微生物もいるのです。
 
コンタクトを外しケースに入れて消毒する時にMPSを注ぎ入れるようにして下さい。
 
外出先でコンタクトを外したい時も、乾燥させたケースとMPSを別々に持って、必要なときにMPSを入れるのが正しいのです。洗って乾燥させたケースに新しいMPSを入れて持ち歩くなら許容範囲でしょうか。

バイオフィルムの恐怖

コンタクトのケースに取れにくい汚れやしみやぬめりが生じていませんか? これは細菌が作る糖タンパクでバイオフィルムと言います。この中には細菌がうようよいます。消毒薬などから細菌が身を守る外壁になっていて、いったんこれができるとMPSでは全然消毒できません。
 
バイオフィルムがあるということはレンズケースに細菌を飼っていることと同じです。細菌がいれば細菌をエサにするアカントアメーバも増殖します。消毒しているつもりのコンタクトケースで危険なアカントアメーバを培養して増やしている結果になっているのです。何たること!
 
対策はケースの交換です。コンタクトレンズ学会と眼感染症学会は3ヶ月ごとにケースを交換するよう呼びかけています。

安全性を優先しよう

人間誰しも面倒なことはしたくないもの。手洗いもこすり洗いも毎回ケース乾燥も大変面倒です。自己流ケアでもめったにトラブルは起こらないので、「これでいいじゃん」とルーズになりがち。
 
けれども、それは地雷原を無防備に歩いているみたいなもの。甘い考えのために一生視力が戻らなかったら取り返しがつきません。

正しいソフトCLケア

1.コンタクトにさわる前に手洗い
(細菌を外から持ち込まない)
2.こすり洗い20回以上+すすぎ【重要】
(細菌数を1万分の1に減らす)
3.MPSは毎回捨てる。つぎ足し厳禁
(古いMPSは汚いし消毒効果低下)
4.ケースは毎回洗って乾燥
(水分中にアカントアメーバが生き残る)
5.ケースは3ヶ月ごとに交換
(バイオフィルム対策)

2010.11