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川本眼科だより

川本眼科だより 185救急車の適正利用 2015年6月30日

救急車の出動件数が増えているそうです。軽症にもかかわらず救急車を呼ぶ人が多いと、本当に緊急度が高い患者さんが救急車を依頼してもなかなか来てくれないという事態が起こります。

そこで「救急車の適正利用」ということが呼びかけられています。軽症や急がない病気の時には救急車を使わないでほしいということです。

そうは言っても、重症か軽症か判断は難しいし、救急車を呼ぶことをためらったために万一手遅れになったら本末転倒です。

救急車をめぐる問題をまとめてみました。

救急車の現場到着が遅れている

119番通報を受けて救急隊が現場に到着する時間は10年前には約6分でしたが、今は約8分かかっているそうです。

心肺停止の場合、蘇生処置を開始するのが1分遅れると救命率が10%低下すると言われていますから、2分救急隊の到着が遅れれば20%救命率が下がることになります。これは大変です。

原 因は救急車の出動回数が大幅に増加しているせいだと言われています。救急車の台数は限られていますから、近くの救急車が既に出動していれば遠くの救急車が 出動するしかないわけで、そのぶん時間がかかります。さらに、地域の救急車がすべて出払っていれば、速やかな出動は不可能で、救急車の順番待ちという事態 もありえる訳です。

消防庁の救急車利用マニュアル

軽い病気のときには救急車を呼ばない、一刻も早く処置を受けたほうがよい病気のときだけ救急車を呼ぶ、というのは常識だと思います。

でも、現実問題として、救急車を呼ぶべきか否か迷うケースはたくさんあります。外見だけでは判断できないことも多いです。脳梗塞・心筋梗塞・大動脈瘤などは時間との勝負になる場合もあります。結果的に軽症だったとしても構いませんので、迷ったときは救急車を呼んだほうが安全です。

消 防庁では「救急車を上手に使いましょう」と題した救急車利用マニュアルを作っています。日本語版のほか英語版・中国語版・韓国語版もあります。インター ネットで「救急車利用」と検索するとトップに表示されます。ここに「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」が列挙されています。
http://www.fdma.go.jp/html/life/kyuukyuusya_manual/pdf/2011/japanese.pdf

迷うときには救急相談窓口に電話してみる方法もあります。愛知県の場合は↓へどうぞ。
愛知県救急医療情報センター 052-263-1133

ズルしたほうが得をする?

救急車の適正利用はマスコミでもたびたび呼びかけられています。真面目な人は「できるだけ救急車は使わないようにしよう」と考え、たとえ体調が悪く相当に重症であっても無理してタクシーで救急病院に出かけます。

と ころが、病院では「自力で来院した人より救急車優先」という取扱いになっていることが多いのです。そうすると、明らかに軽症の人が救急車で運ばれてきて、 重症の自分より先に診察を受けることがあります。順番をとばされ、しかも長時間待たされれば納得がいかないのは当然です。

救急車優先になるのは事情があります。救急隊は搬送した患者について傷病者収容書に 医師の署名をもらう決まりになっています。所見や重症度判定の項目があるので、いったん診察しないと記載ができません。救急隊を早く帰し次の出動に差し支 えないようにするため、救急車を優先する慣行ができた訳です。(後で電話で問い合わせる方法もあるのですが、救急隊も医師もできるだけ仕事を持ち越したく ないのは人情です。)

真面目な人が馬鹿を見てズルした人が得をするのは、正義に反します。解決策を提案します↓
1)救急隊は診察を待たずにすぐ引き揚げる

2)傷病者収容書は後で病院から消防署にFAX

3)救急車優先をやめ重症度を判定して順番決定

ただし、順番については最も不満が出やすい点なので、重症度判定の訓練を受けた専任のスタッフを置くことが不可欠です。

救急車の有料化

救急車を使うのを控えてもらうのに、有料化は効果的です。タクシー代相当額くらいは払うのが当然ではないでしょうか?  タクシーを使ったら自前で、救急車はタダだったら、誰だって救急車のほうを選びたくなります。

もちろん低所得者に対する対策は当然必要だと思います。一度支払って、後で手続きすれば還付されるようにすれば、結果的には無料でも安易な利用に対する歯止めになります。

道徳心に訴えて呼びかけるだけでは、モラルが高い人だけが我慢を強いられ、モラルが低い人が得をする結果になると危惧します。

川本眼科にも救急車

川本眼科でも救急車を呼んだことがあります。20年間で10回くらいあったでしょうか?

眼科の病気の場合、例えば網膜剥離やぶどう膜炎などで大病院に救急として紹介する場合でも、ふつう救急車を呼ぶことはありません。タクシーや家族が運転する車を使っていただきます。命に関わる緊急性はないからです。

心配なのは、院内で意識を失ったとか、ふらふらして歩けないとか、嘔吐しているとか、いつもと様子が違っておかしい場合です。

眼科医は救命救急の訓練を受けているわけでもありませんし、院内には眼科用機器はたくさんありますが、内科で使う診断用具はほとんどないし、薬も用意してありません。診断も治療も無理なので専門施設に搬送するしかありません。

近隣の内科クリニックが開いている時間ならば車いすで移動して診療を依頼することもあります。最初から大病院での治療が必要と判断すれば救急車の出動をお願いします。途中で悪化する危険性を考えるとやっぱり救急車が安全です。

結果的に軽症であっても、仕方がありません。設備の整った施設で、専門医が診察して初めてわかることですから。

Aさんは心不全の既往があります。川本眼科の待合で急な胸痛を訴え苦しそうにされていました。心筋梗塞か?と心配して中京病院に救急車で搬送しましたが、幸い大したことはありませんでした。

B さんは川本眼科の会計待ちをしている間に気分が悪くなりました。しばらく休んでいただいたところ「もう大丈夫」と帰ろうとされましたが、様子がおかしいの で中京病院に救急車で搬送しました。実は心筋梗塞で、さらに名大に搬送され緊急で10時間におよぶ手術を受けられたそうです。

たとえ時に空振りに終わっても、万一の事態を考え、特に専門外の救急疾患への対応は安全第一と考えています。

(2015.6)