川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 201色覚異常への対応 2016年10月31日

色覚異常は遺伝子で決まります。大多数は軽症で本人も自覚していないことも多く、きちんと検査しないと発見できません。

色覚異常に対する学校での検査は10年以上実質的に中止され、最近再開されましたが、地域によって状況が違います。

今回はいったい現状がどうなっているのかをお話しし、同時に色覚異常者にも生活しやすい社会を実現するために1人1人が気をつけていきたいことを提言してみます。

3錐体のうち1つが欠損/異常

網膜で光を感じるセンサーが杆体・錐体です。杆体(かんたい)は白黒のみのセンサーですが超高感度です。これに対し、錐体(すいたい)は暗所では見えませんが色を感じることができます。錐体にはL錐体(黄橙赤)・M錐体(緑)・S錐体(青)の3種類があります。

L錐体が欠けた場合を1型2色覚、L錐体が異常な場合を1型(異常)3色覚と言います。M錐体が欠けた場合を2型2色覚、M錐体が異常な場合を2型(異常)3色覚と呼びます。色盲=2色覚、色弱=異常3色覚、ですが、「色盲」という言葉は、色が全く分からないという誤解を生むため、今日では使われなくなりました。この4タイプで先天色覚異常の99%以上を占めます。私はそれ以外のタイプを診たことがありません。

4タイプとも赤と緑を判別しづらいという共通点があります。そのほかに見分けにくい色として、黄緑と橙、茶と緑、ピンクと灰色、青と紫などがあります。暗かったり面積が小さかったりすると特に見えづらくなります。

1型色覚では赤が見えづらい

1型2色覚、1型3色覚では、長い波長の光を感じるL錐体が欠けていたり機能が悪かったりするので、赤が見えづらいという問題があります。

赤は一般的に危険を知らせるのに使われる色で、交通信号では「止まれ」のサインになります。信号の場合には左から緑・黄・赤と並んでいるので位置情報から判断することができ、それほど困りません。運転免許も取得できます。

しかし、1型色覚の方は、悪条件下では赤色を見逃したり見間違えたりすることが増えます。多くの人命を預かるパイロットや電車の運転手では非常に高いレベルの安全性を要求されるわけで、1型色覚の方は適性がないと言わざるを得ません。

自覚はしにくいので検査を

色覚異常でも3つの色センサー「錐体」のうち2つは機能している訳ですから、色の弁別は結構できます。決してモノクロの世界ではありません。

しかも、比較的軽度の色覚異常者は日常生活でたいていの場合正しい色を言い当てることが可能です。もちろん正常色覚とかなり見え方が異なるはずなのですが、例えば日の丸の赤も植物の緑も同じように見えていても、経験によって日の丸なら赤、植物なら緑と言えるわけです。色以外に得られる情報を利用すれば、そんなに困りません。

もちろん時には色を間違えることもあるでしょうが、周囲も本人も不注意だとか早とちりだとか判断し、深刻には考えません。

その結果、大人になるまで自分が色覚異常だと気づかないことになります。受験や就職の際に色覚検査を受けて初めて色覚異常を指摘されるという事態が実際に起こっています。それまでの努力が無駄になる恐れもありますし、覚悟のないまま苦労を背負い込む可能性もあります。自分の進路を決める前に色覚検査を受けておくべきです。
【色覚の異常の程度による業務への支障の目安】
http://www.gankaikai.or.jp/colorvision/20151005_poster.pdf

色覚検査の廃止と再開

色覚検査は1958年から学校健診の中で実施されましたが、「色盲・色弱」という用語の語感から軽症で生活・業務に支障ない人まで排除するという結果を招きました。また、学校での検査が全くプライバシーを考慮しない形で行われた結果、色覚異常の子供に不必要な劣等感を持たせ、いじめの原因にもなりました。

名古屋市の眼科医高柳先生はライフワークとして色覚異常の差別問題に取り組み、名古屋市学校医会会長、厚生省色覚問題検討会委員などを務め、2001年に雇入時健康診断での色覚検査を廃止させ、2003年には学校での色覚検査を廃止させました。

「色覚検査を全くしない」という大胆な方策は差別撤廃には功を奏しました。ただ、色覚異常があるのに自覚がないまま大人になる人が増えた結果、業務で色間違いによるミスを繰り返したり、パイロットになろうと長年努力してきた人が試験を受ける段になって夢を絶たれるという、色覚障害者自身が不利益を被る事例が出てきました。

やはり、本人が色覚異常を自覚し、そのことを進路選択の際に活かすことは大事なことだと思います。色覚異常でも困らない職業を選ぶか、色覚異常がハンディキャップになることが分かっていても熱意で困難を乗り越える道を選ぶか、最終的には本人が決めるべき選択ですが、その決断には色覚検査を受けることが前提になります。

2016年から希望者には積極的に色覚検査をするよう文部科学省から通知がありました。そのため全国的には学校での色覚検査が再開されています。

しかし名古屋市では、高柳先生が再開に強硬に反対され、その影響により教育委員会も色覚検査にきわめて消極的です。文科省の通知に反し、名古屋市では生徒全員に色覚検査希望の有無のアンケートを取っていません。さらに愛知県全体では養護教諭が色覚検査をしているのに、名古屋市では学校医が学校か自院で検査するよう求めていて、そのため名古屋市での色覚検査の実施率は非常に低くなっています。

男性の5%は色覚異常

男性の性染色体はXY、女性の性染色体はXXで、色覚に関する遺伝子はX染色体上にあります。色覚異常のX染色体をx’と表すと、x’Yの男性とx’x'の女性が色覚異常になり、x’Xの女性は保因者(自分は色覚異常ではないが子供が色覚異常になる可能性がある人)になります。

日本では、男性の5%が色覚異常です。学校で1クラスに平均1~2人の色覚異常者がいる計算になります。女性の色覚異常は0.02%とまれですが、保因者は10%もいます。

色覚異常は珍しいことではありません。友人や親族も実は色覚異常かも知れません。

色覚異常と言われたら

日本眼科医会のホームページには「色覚異常といわれたら」という項目があります。
http://www.gankaikai.or.jp/health/50/

非常によくできていて、色覚異常を理解するのに必要な知識や情報が網羅されています。ご一読をお勧めいたします。

色覚バリアフリー

どんな場面でも相手(読者・生徒・視聴者)が色覚異常かも知れないと考えて下さい。

学校の先生は黒板に赤チョークを使わないで下さい。色覚異常だと全く見えません。

カラー印刷のチラシ・ポスター・文書等は色覚異常者にも見やすいよう、区別しにくい色の組み合わせを避け、明度を変えてコントラストを付けて下さい。モノクロでコピーして見やすければ大丈夫。正常色覚の人にも見やすくなりますよ。

(2016.10)