川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 3視野の島 2000年5月31日

Q:視野が狭いと言われていますが、不自由を感じません。視野が狭いと何か支障はありますか。

Q:視野検査は疲れるのでやりたくありません。測らなくてはいけませんか。

Q:視野検査のとき、「目が動かさないように」とやかましく言われるのはなぜですか。

中心は感度がよく周辺は悪い

まっすぐ前を見ていても、横で何か動けば気がつきます。人間の場合は、最大で180度近くの範囲を見ることができます。これが視野です。
しかし、前を見ているとき、横にあるものはそんなにはっきりとは見えません。つまり、視野の周辺は感度が悪いのです。
逆に、まん前にあるものはよく見えます。
つまり、視野の中心は感度がよいのです。

感度を高さで表せば、中心は高い山となり、周辺に行くにしたがってなだらかに低くなる地形になります。これを「視野の島」と呼んでいます。
視力というのは、「視野の島」の中心にある山の高さだと考えて下さい。
島がおおむねなだらかな地形であれば、中心の山の高さ(=視力)を測るだけで、だいたいのことがわかります。

しかし、この島に、穴があいていたり、切り立った崖があったりしたら、中心の山の高さを測るだけでなく、詳細な地図を作る必要があります。
視野検査というのは、「視野の島」の地図を作る作業なのです。

視野検査でわかること

眼に入った光は網膜で像を結びます。
網膜には神経線維が張り巡らされていて、その神経線維が集まって視神経となり、脳の側方を通って後頭葉に到達します。この全走行のどこかに問題があれば視野障害となります。

例えば、網膜に何か病気があると、それに対応した視野が障害されます。
視神経の病気の代表は緑内障です。緑内障は視野障害がだんだん進行する病気で、視野検査は最重要の検査になります。

脳梗塞・脳腫瘍・脳内の動脈瘤などで視野に変化が出ることもあります。
視野の形で、脳内の病変の部位を推定することができます。
つまり、視野は、網膜・視神経・脳の総合評価なのです。

視野障害が進行すると

人間は、両目でものを見るので、片目だけ視野障害があっても、ほとんど意識することはありません。

たとえ両目ともに視野障害がかなりあっても、ものを見るときには、目も顔も動かして、できるだけ感度の高い中心で見ようとしますから、それほど困らないのです。患者さん本人は視野障害を全く自覚していないこともよくあります。

まあ不自由がなければよいようなものですが、困ったことに視野障害は進行することが多いのです。緑内障でも、網膜の変性疾患でも、視野はだんだん狭くなっていきます。ある限度を超えると、急に見えづらく感じるようになるのです。

さらに視野障害が進むと、中心の感度が高い部分だけ孤立してしまいます。
「視野の島」で言うと、中心の山は残っているけれど、山のすぐそばまで崖が迫っているという状況です。こうなると、いつ山が崩れてくるかわかりません。山が崩れるとは、視力が急激に低下することです。眼科医は 「中心視野がとんだ」などと言います。

緑内障や網膜の変性疾患では、視野障害が進行した結果として視力が下がるのは、最後の最後です。こういう病気の場合は、いくら視力がよくても安心できません。どうしても視野検査をする必要があるのです。本当は毎回でも検査したいぐらいですが、実際には不可能なので、病状に応じて1~6ヶ月に1回くらい調べています。

視野の測り方

視野を測る方法はいくつかあります。
それぞれ特徴がありますが、 詳細は省略します。

川本眼科で使っているのは、コンピュータを利用して1点1点の感度を測っていく方法です。

ある点の感度を測るには、まず強めの光を出して見えることを確認し、次に弱い光を出して見えないことを確認、さらに中間の光を出して見えるか見えないか調べる・・・ ということを繰り返せばよいわけです。

問題はこれでは時間がかかりすぎることです。そこで隣同士の点の感度は近いことなどを利用して統計学的に推測する方式により、時間が短縮できるようになりました。

現在川本眼科で使っている視野計は、数年前まで従来片目20分程度かかっていた検査が3~4分ですんでしまう、院長自慢のすぐれものです。
ただし、視野異常があると最長で7分くらいまでかかることがあります。

視野検査には集中力が必要なため、疲れることは間違いありません。
とくに、感度を詳しく調べる検査(専門的にはいきち閾値検査といいます)
では、見えるか見えないかの弱い光で検査することになるため、結構大変です。

感度までは調べず、「おおむねどの範囲が見えているか」を調べる検査(専門的にはスクリーニング検査といいます)もあります。比較的強い光で検査するので、患者さんにはこのほうが楽ですが、得られる情報量は大違いで、詳細な地形図と案内看板の簡易な地図くらいの差があります。

川本眼科でも、以前は感度まで調べない簡易な方式で視野検査をしていましたが、「感度を短い時間で調べる機械」が登場した際に新しい機械に取り替えました。以前の機械のほうが強い光が出て見やすかったと思いますが、「より詳しいことがわかる」ということで御了承いただきたいと
思います。

目を動かさないことが大事

視野検査では、目を動かさないことがとても大切です。
たとえ視野が欠けていても、目を動かせば見えてしまいます。
目が動くと、測りたいところとは別の場所の感度を測っていることになり、検査の意味がなくなってしまいます。

視野のプログラムには、目がどれだけ動いたかチェックする項目があります。本来見えないはずのところで見えたり、2回同じ場所の感度を測って大きく違ったりするとカウントされ、検査結果に添えて表示されます。この回数を見れば、どのくらい目が動いていたか判断できるわけです。

目が動いていると、検査結果の信頼性が落ちてしまいます。要するに、あてにならないわけです。そこで、「後日また検査してみましょう」ということになるのです。正確を期すならすぐに再検査したほうがよいのですが、実際には患者さんの疲労を考え、ある程度間隔をあけて再検査するのが普通です。

疲れますが御協力を

患者さんが相当頑張らないと検査ができないというのは、視野検査の欠点です。患者さんが努力しなくても、写真を撮るように、一瞬で視野が測定できたら、どんなに素晴らしいだろうかと思いますが、今のところ夢物語です。

どうか視野検査の重要性をご理解いただき、検査に御協力をお願い申し上げます。