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川本眼科だより

川本眼科だより 142黄斑(おうはん)って何? 2011年12月31日

近頃、「黄斑(おうはん)」という言葉をよく耳にしませんか? ノバルティスファーマという会社が加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)という病気についてのキャンペーンを打ったせいで、この言葉も専門家だ けでなく一般の人たちにも知られるようになりました。※ちなみにこの会社、加齢黄斑変性症の治療薬「ルセンティス」を製造販売しています。この薬の値段が 1瓶約18万円もして1年に157億円分売れたそうです。高すぎますね。
今回は眼科に関係する基礎知識として「黄斑」とは何かご説明いたします。

黄斑は網膜の中心部です

眼の基本構造

正常黄斑の断面図(OCT)

正常黄斑の断面図(OCT)

「黄斑」とは場所の名前です。眼をカメラに例えると、レンズに相当するのが角膜・水晶体で、フィルム(デジタルカメラならCCD)に相当するのが網膜です。網膜には視細胞(光を感じる細胞)があって、網膜中心部に密集していて、周辺部ではまばらです。
※眼球断面図はノバルティス社HPより

この「網膜中心部で視細胞が密集している場所」のことを「黄斑」「黄斑部」と 呼んでいます。人間は何かものを見ようとする時はいつも黄斑にピントを合わせています。視力が1.0とか1.2とか言っているのは黄斑の働きを示していま す。網膜は黄斑以外でも光を感じますが、黄斑から少しずれると相当ぼんやりとしか見えません。普通の視力に換算すると0.04程度です。

目を正面に向けた時に横のほうに本を差し出せば、目を動かさなくてもぼんやりと見えます。でも表紙に書いてある文字は読めません。これが黄斑以外の網膜 の見え方です。字を読み取るためには目線をそちらに向ける必要があります。黄斑に焦点を結ぶように目を動かしているのです。

視力は黄斑の働きで決まってし まいます。黄斑に異常があると視力はたちまち低下します。逆に黄斑以外の網膜にトラブルが起きていても視力には影響がありません。患者さん自身は全然気が ついていないという事態はしょっちゅうです。

黄斑の病気はたくさんあります。それぞれ違う病気で原因も異なりますが、視力を出す中心部で起きる病気という 共通点があるため、いずれも「視力が低下する」「見ようとする部位が歪んだり暗くなったりして見えづらい」という症状があります。

黄斑円孔(=黄斑に穴があく病気)

黄斑円孔の断面図(OCT)

黄斑円孔の断面図(OCT)

黄斑円孔(おうはんえんこう)は黄斑に穴があく病気です。原因は「50歳以降に硝子体が縮む時に黄斑を引っ張るため」です。症状は視力低下・中心暗点などです。治療は硝子体手術です。一昔前は治らない病気でしたが、現在は適切な時期に手術をすればほぼ元の視力に戻ることも夢ではありません。

黄斑前膜(=黄斑の前に膜が張る病気)

黄斑前膜の断面図(OCT)

黄斑前膜の断面図(OCT)

黄斑前膜(おうはんぜんまく)は、黄斑の前に線維状の膜が張る病気です。原因は多くの場合不明ですが、何か慢性の炎症が起こっているという説が有力です。症状は視力低下・歪視(直線わいしが歪んで見える)です。よく観察すると軽症の黄斑前膜は意外に多く、たいてい本人は気づいていません。

治療は硝子体手術です。軽症で安定していれば手術の必要はありませんが、進行して視力が低下すると手術してもあまり良い視力にならないので、機を失しないことが大切です。

黄斑変性(=黄斑の組織構造が壊れる病気)

加齢黄斑変性の断面図(OCT)

加齢黄斑変性の断面図(OCT)

黄斑変性(おうはんへんせい)にはいろいろな種類があるのですが、最も頻度が高く重要なのは加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)です。特に新生血管ができるタイプは悪化しやすく危険です。欧米で多く、将来は日本でも失明原因の第一位になるだろうと予想されています。

治療は硝子体注射(ルセンティス等)・光線力学療法(薬を点滴してレーザー)などです。

黄斑○○は混同/混乱しやすいので注意

このように「黄斑○○」はたくさんあります。これは例えば胃の病気には胃炎・胃潰瘍・胃がんなどたくさんあるのと同じです。ただ、黄斑自体がなじみのない言葉なので、違う病気が混同されやすく、患者さん同士の口コミでもとんでもない誤解が伝わっていることもあります。
今回の記事で、「黄斑は場所の名前」ということをご理解いただければ幸いです。