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川本眼科だより

川本眼科だより 143配合剤(1つの目薬に2つの成分) 2012年1月28日

配合剤というのは1つの薬に複数の有効成分が混ぜてある薬です。数年前から内服薬を中心 に急に増えてきました。厚労省が認可の基準を緩和したからだと言われています。
昨年、緑内障の目薬に配合剤が相ついで登場しました。現在、3種類の配合剤を使うことが できます。(ザラカム、デュオトラバ、コソプト)
なぜ配合剤が登場したのか、問題点はないのか、緑内障の目薬を中心にお話いたします。

配合剤の目薬はさすのが楽

ザラカムという目薬を例にご説明します。
もともとキサラタンチモという2種類の目薬があって緑内障によく使われていました。
キサラタンは1日1回(夜)、チモは1日2回さす目薬です。
※チモは略称で正式には商品名チモプトール®、一般 名チモロールです。ただし、眼科医もチモと呼びます。

両方の目薬を使っている人もたくさんいます。その場合、夜は2種類の目薬をさすことになりますが、この場合5分以上間隔を開けなければなりません。立て続けにさすと目薬が流れてしまいます。

ところがこの5分が結構面倒です。ついつい後のほうの目薬をさし忘れてしまったり、 さしたかどうかわからなくなったり、失敗の原因になりやすいのです。

そこで誰しも考えます。両方の目薬の有効成分を1つの目薬に混ぜて入れてしまえば、さす手間暇が少なくて済む、と。ザラカムはまさにそういう発想で作られた薬です。
ザラカムは1日1回させばよいので、患者さんにはとても喜ばれます。やはり複数の目薬をさすのは面倒なのです。さし忘れも少なくなります。

本当に効果は同じなのか?

ここまでで、「ちょっとこの話おかしくないか」と気づいた方はいらっしゃいますか?

最大の問題はチモの回数です。1日2回さすはずの目薬がいつのまにか1回になっています。当然効き目は弱くなるはずです。

ところが、臨床試験では「ザラカム1日1回」「キサラタン 1日1回+チモ1日2回」の効果は同等と判定されました。それどころか、ザラカムに変更したら眼圧が下がったという報告は珍しくないのです。不思議ですよね。

こんなことが起こる原因は、ザラカムのほうがさし忘れが少ないからです。「目薬の種類や点 眼回数が増えるほどさし方がいい加減になる」という傾向は実証されていて、「医師が説明をし た直後はちゃんとさすようになるが、時間が経つとまたいい加減になる」ということまで証明さ れています。まあ、わざわざ調べなくたって予想はつきますが。

余談 ちなみに「緑内障以外の目薬をさしていると緑内障の目薬のさしかたがいい加減になる」と私は予想しています。調べてはいませんが。そのため、緑内障の患者さんには、白内障の目薬をなるべく出しません。

さらに、2種類の目薬をさす時に「5分以上あける」を守っていない可能性があります。すぐ次の目薬をさすと前の目薬が流れてしまって効き目が弱くなるのです。そういう『人間の弱さに 起因する問題』を回避できるのが配合剤の利点だと思います。

別の組み合わせの配合剤

コソプトという緑内障薬の配合剤もあります。チモ(1日2回)とトルソプト(1日3回)の有効 成分を混ぜた薬で1日2回点眼になっています。

おや?ここにもチモが登場しましたね。

チモは 混ぜるのに適した薬のようで、もう1つの配合剤 デュオトラバもトラバタンズとチモを混ぜた薬になっています。

キサラタン(PG)チモ(β遮断剤)トルソプト(CAI)はそれぞれ作用機序が異なり、 以前から組み合わせて使われてきました。3種類をすべて使っている緑内障患者さんも多いので、 配合剤を利用すれば点眼回数を減らすことができ、その結果さし忘れも減るはずです。

その場合、 [キサラタン+チモ+トルソプト][ザラカム+トルソプト]にするか[キサラタン+コソプト]に するか、2つの選択肢があることになります。

医師によって考え方は異なりますが、私はなるべくコソプトを使った組み合わせにしています。

理由は3つあります。

(1)チモを1日1回点眼にすることに納得していない

(2)キサラタンは夜 点眼が望ましくチモは朝点眼のほうが効くはずで点眼時間に問題がある

(3)キサラタンと同じ仲 間(PG)にルミガン/タプロス/トラバタンズという優れた目薬があり、使い分けをしたい

配合剤を選べば薬の選択肢は減ってしまう

配合剤には確かに利点が多いのですが、残念ながら、ありとあらゆる種類の配合剤を作るわけ にはいきません。そんなことをしたら薬の数が増えすぎて収拾がつきません。製薬会社もあまり 売れない配合剤を作るメリットはありません。よく使われ、配合に適した薬だけが選ばれます。

先程出てきたチモの仲間(β遮断剤)で、同じくらいよく使われていたミケランという優れた目薬が あるのですが、配合剤としては全く使われていません。ミケランのほうが角膜障害が少ないので 私は好んで使っていました。でも、配合剤が登場してから、点眼回数を減らすことを優先した結 果、ミケランの処方は激減しました。

ある意味、薬の選択の幅を狭めたわけです。内服薬にも同じようなことがあるでしょう。

配合剤では1人1人に合わせ薬の種類を選んだり 量を加減するのは難しくなります。それは利便性との引き替えであり、仕方のないことです。

(2012/01)