川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 13白内障Q&A(2) 2001年3月31日

注)多焦点眼内レンズや乱視入り眼内レンズの登場でこの項の記述は一部古くなっています。

眼内レンズを入れたあと、今までのメガネは使えますか?

私は本が好きで本を読むときメガネなしにしたいのですが、眼内レンズを入れるときにそういう風に合わせていただけないでしょうか。

手術をすると屈折度数は変わる

白内障手術のときには水晶体をとってしまいます。水晶体はもともとレンズの働きをしているので、水晶体のかわりになる人工のレンズを眼球内に入れるという手術をします。この人工のレンズを「眼内レンズ」と言います。
 
眼内レンズの度は自由に決めることができます。ですから、術後なるべく生活が便利になるように度を決めればいいわけです。この度が手術前と正確に同じということはほとんどありません。
 
つまり、ほとんどの場合、手術前とは屈折度数が変わります。したがって、ふつうは「今までのメガネは使えない」とお考え下さい。ごくまれに、術前のメガネがそのまま使えることもあります。

ピントが合うのは1点 

眼内レンズは、ピント合わせをすることはできません。基本的にピントが合うのは一点です。その一点の前後は、ボケてはいてもボケ方が少ないので許容範囲ということになります。
 
遠くでピントが合うようにすれば近くは見えにくくなりますし、近くにピントが合うようにすれば遠くは見えづらくなります。遠くも近くも見える、というのが理想ですが、今のところまだ実現していません。一時遠近両用の眼内レンズが試験的に用いられましたが、欠点が多く、廃れてしまいました。
 
最近はピント合わせができる眼内レンズの研究がされており、将来はピント合わせができるようになるのかも知れません。ただ、実現するにはまだ10年以上かかりそうです。

1~2mに合わせるのが無難

そこで、どのくらいの距離にピントが合うようにするかという問題が出てきます。
 
私のお勧めは、1~2mくらいにピントが合うようにする、というものです。これは、正視に近いがわずかに近視、という度数です。
 
このぐらいにピントが合うようにしておけば、テレビを見るなどの家の中の生活が裸眼でできる可能性が大きいのです。また、無限遠を見るときでもそれほどボケは大きくなく、明るいところなら十分裸眼で見ることができます。近くのものも、大きな活字ならメガネなしで読むことが可能です。つまり、生活上便利だと思います。
 
1~2mに合わせた場合、字の読み書きなど手元の作業にはメガネが必要だとお考え下さい。そのかわり、日常生活のほとんどをメガネなしで過ごすことが可能です。
 
もっと遠くにピントが合うようにすることもできます。例えば夜間も車の運転をすることが多いなら、遠くが見えたほうが便利です。この場合、完全に正視をねらうことになりますが、それだけ近くは見えづらくなりますから、老眼鏡のお世話になる場面は増えることになります。
 
遠視にすることはできるだけ避けます。遠視は無限遠を見るときでもピント合わせをしなければならない目で、眼内レンズの場合遠くも近くもはっきり見えないことになり、全くメリットがないのです。

近視が強い場合は近視を残す

近くが見えるようにすることもできます。30㎝にピントが合うようにすれば、本を読むとき老眼鏡が要らなくなります。
 
ただ、この場合、近視になるので、ふだんの生活でメガネを常用しなければなりません。もともとメガネを常用する習慣のない方にはお勧めできません。
 
もともと近視の方なら違和感がなく、メガネをかけるのに抵抗がありません。もともと近視の方を正視にしてしまうと、「今までメガネをはずせば近くのものは見えていたのに見えなくなった」という苦情が出ることが多いのです。
 
一般に、ものは近づければ近づけるほど大きく見えるわけですから、10㎝の距離でピントを合わせることができるというのは、結構メリットのあることなのです。小さな子供はそういうことができますが、大人になってからは高度近視の方だけに許された特権になるわけです。
 
しかしながら、10㎝にピントが合うのはド近眼です。やはり、もう少し近視を軽くしたほうが生活上便利です。もともとかなり近視が強い方の場合でも、50㎝くらいに合わせることをお勧めします。本を読むことが多ければ30㎝くらいでもいいでしょう。これ以上近視にすると遠くが完全にボケてしまうのでお勧めできません。
 
近視の方ではピントが合う範囲が狭く、正視の方のほうが広い範囲にピントが合います。近視でも矯正のためにコンタクトやメガネをした状態ではやっぱり近くは見えないわけで、近視のメリットと言っても、裸眼のときに限られます。

誤差はやむを得ない

眼内レンズの度は、眼球の奥行きを超音波で測定し、角膜のカーブを測って、計算によって求めます。これらの測定自体誤差が出ますし、計算式も完全なものではなく、どうしても誤差が生じることは避けられません。
 
メガネを合わせる場合なら、機械で測ったあと、実際にレンズを装着して見え方を確認し、微調整を加えることができます。しかし、眼内レンズは、入れたり出したりすることはできず、基本的に一発勝負です。多少狙いとずれたとしてもやむを得ないので、誤差の点は御了承下さい。
 
とくに、高度近視の方では、誤差が大きくなる傾向があります。

乱視は矯正できない

眼内レンズで合わせることができるのは、近視や遠視だけです。乱視は矯正できません。今日の白内障手術では、手術が原因で乱視になることは大変少なくなりましたが、術前の乱視はそのまま残ります。
 
したがって、眼内レンズの度が完全に狙い通りに合わせられたとしても、乱視のために裸眼視力が出にくいことはあります。この場合、ふつうはメガネをかければいいわけですが、乱視が非常に強くてメガネがうまくかけられない場合は、乱視矯正の手術をすることがあります。

メガネは術後1ヶ月後に

1~2mに合わせた方は近用メガネ(老眼鏡)が必要になります。度が予定よりずれたり、もともと乱視が強い方は遠用メガネも必要です。
 
メガネは、白内障手術後すぐ作っても目に悪いということはありませんが、度がずれることがあるので、通常手術の1ヶ月後にお合わせします。急ぐ事情がある方は御相談下さい。

2001.3