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川本眼科だより

川本眼科だより 17気になる言葉づかい 2001年7月31日

言葉づかいが気になるのは歳を取ったせいでしょうか。

言葉は生きていますから、だんだん変わっていくのは当然です。しかし、それでもその時々の規範意識というものがあり、その規範からはずれていると不愉快に感じるのは当然です。

私が最近気になっている言葉づかいを取りあげてみます。みなさんは気になりませんか?

医療機関では「様」づけが流行

最近、医療機関の間で「様」づけが流行しています。従来、患者さんを「○○さん」と呼んでいたものを、「○○様」に変更するわけです。
 
医療機関でも最近は「接客のプロ」に指導を受けることが多くなり、その際に「様」づけへの変更を勧められるケースが多いようです。
 
確かに、医療機関自身の意識改革という面では一定の効果があると思います。従来、ともすればサービス業であるという自覚に乏しく偉そうにしている病院・診療所が多かったからです。
 
しかし、「様」づけになじめない患者さんもいらっしゃるようです。それというのも、「様」づけには相手との距離を置く感じが強く、どうしてもよそよそしく感じられてしまうからです。慇懃無礼な感じがするわけです。
 
川本眼科でも、患者さんの呼称についてはいろいろ検討しましたが、人によって「様」づけを好ましく感じるかどうかに個人差が大きく、現時点では「さん」づけのほうが無難と判断いたしました。「さん」づけでも、きちんとした敬語を使用すれば十分敬意を表したことになると考えます。
 
みなさんは、「様」と「さん」とどちらの呼称がよいとお考えですか?

「いただく」の乱発

最近気になるのが「いただく」の乱発です。
 
「こちらに手を置いていただいて、しばらく息を止めていただいて、合図があるまでじっとしていただいて、終わったらそこの席でしばらくお待ちいただきます。」という感じです。
 
あたかも尊敬語のように使われているのですが、もともと「いただく」は謙譲語です。「明日訪問させていただきます」のように、自分のことに使ってへりくだるのが本来の用法です。「してもらう」の丁寧語として「していただく」ということはありますが、尊敬語の代用にしているのは誤用でしょう。
 
しかし、既に相当広まっており、天下のNHKでさえ結構多用しています。
 
本来は「お待ち下さい」とか「御覧下さい」と言うべきところで、「お待ちいただいて」「御覧いただいて」のように言い切らない形にするのが好まれているようです。「~下さい」という命令文には結構きつい語感があるので、何とか命令口調を和らげたいという意識が働くのでしょう。正しい尊敬語で言い切らない形にするのが難しいという事情もからんでいます。
 
私自身、誤用ではないかと気にしていながら、便利なので結構使ってしまいます。「いただく」自体は尊敬語ではないので、ほかに何か尊敬表現を入れるようにしています。
 
それから、誤用ではないのですが、最近何でもかんでも「させていただきます」という言い方が多用されるのもどうかと思います。自分の行為の責任を他人に転嫁しているように感じられるのです。たいていは「いたします」でよいのではないでしょうか。

5千円からお預かりいたします

当院の受付スタッフがこの言い回しを使っているのに気づき、違和感を覚えたため注意しました。しかし、その後気をつけていると、多くのお店で使われており、ごく一般的になっているようです。念のため、他のスタッフや知人に確認してみるとほとんどの人が気にならない、と言います。
 
「代金は4800円です」「5千円(を)お預かりいたします」「5千円から代金の4800円をいただいて、おつりの200円をお返しいたします」というのを短くした言い方なのでしょうか。感覚的にはわからないでもないですが、文法的には間違っていると思います。
 
もっとも、みんなが使い出せば、正しい言い方として認められていくのかも知れません。

よろしかったでしょうか

これも最初私は変な気がしました。良いか悪いか今尋ねているのに、どうして過去形を使うのかわからなかったのです。東京では「よろしいでしょうか」と言っていました。
 
しかし、調べてみるとこれは誤用ではないそうです。念を入れて確認する気持ちを表し、全国的にも「よろしい」と「よろしかった」は拮抗しているのだそうです。なるほど、そう言えば「これでよいかな?」を「これでよかった?」と過去形で言いますものね。
 
最近では慣れてしまい、気にならなくなりました。ふと気づくと自分でも使ってしまっていました。

お大事に

医療機関で患者さんがお帰りになる際に必ず使われるのが「お大事に」という言葉で、定番中の定番となっている表現です。
 
別に「お大事に」だけでよいわけですが、これは省略形だという感覚は残っていますから、患者さんを「様」づけにし、「御覧になる」「おいでになる」というクラスの敬語を使うようになると、もう少し丁寧な言葉づかいをしたい、と誰しも考えるわけです。
 
「おはよう」なら「おはようございます」に、「ありがとう」なら「ありがとうございます」にすればいいわけですが、「お大事に」はどうもぴったりした表現がありません。
 
多くの施設で使われているのは「お大事にどうぞ」ですが、なお省略形という感じが残ります。当院では「お大事にして下さい」「お大事になさって下さい」としていますが、どうもすわりがよくない気がします。
 
患者さんが帰り際にいろいろ丁寧な挨拶をなさった場合、「お大事に」を何度も繰り返すのも芸がないので、何か気の利いたことを言いたいのですが、どうもうまい表現を思いつきません。
 
いくらなんでも「ご来院ありがとうございました」は変ですし、「お疲れさまでした」は時々使っているのですが、「やっぱりおかしいよ」と言われてしまっています。「お気をつけてお帰り下さい」は散瞳後で見えづらいときにはいいかも知れません。いろいろ使い分けるよりしかたなさそうです。

2001.7