川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 149車の運転と眼科受診 2012年6月30日

眼科を受診するときご自分で車を運転する方が増えました。高齢化で膝・腰・心臓などに問題をかかえると車のほうが楽なようです。

車を運転して眼科受診した場合、問題になるのは『散瞳(さんどう)』『眼帯(がんたい)』だと思います。診療後に車の運転がしにくくなってしまいます。

今回は、眼科診療時の運転について現状を述べ、どんな時に運転してはいけないのか、なぜ運転しないほうがよいのか、ご説明いたします。

駐車場の確保

1994年(17年前)に川本眼科は開業しましたが、当初駐車場が確保できませんでした。私は、通院に車を使う人が多いだろうと予想し、駐車場がないのはまずいだろうと心配していました。家内は「眼科は目の悪い人が受診するわけだから、車に乗ってくる人はそんなにいないよ。それに地下鉄の駅に近いし」と言って楽観視していました。

開業当初は家内が正しく、駐車場がなくてもなんとかなりました。患者さんが少なかったせいもありますし、アンケートで調べたら、徒歩か自転車で受診される方が大半だったのです。

そのうちにだんだん診療所の存在が人に知られるようになり、かなり遠方からも受診する方が増えました。そういう方の多くは車で来院されます。必要に迫られて、ここに1台、別にまた1台、と少しずつ駐車場を確保しましたが、あちこちに分散していてはどうにも使い勝手が悪くて患者さんにはご不便をおかけしました。その頃には駐車場のことで苦情が多かったと記憶しています。

幸い、今はクリニックの裏手に11台分の駐車場を確保しました。従業員の駐車場は別に確保しましたから、普通は十分なはずですが、土曜日など、満車になって苦情を言われることもあります。(なお、駐車場の隣にコインパーキングがあります。駐車料金がかかるのはご了承下さい)

車で来院する方の増加

最近は、眼科を受診するときご自分で車を運転する方が増えたと感じます。若い方はむしろ車離れの傾向があり、高齢者で車の利用率が高くなっている印象があります。

理由は「高齢者には車のほうが楽だから」だと考えています。

歳を取ると腰・膝・心臓などが悪くなる人が増えます。病気でなくても若い時に比べれば少し動くだけで疲れやすくなります。地下鉄やバスに乗るためには、それなりの距離を歩かねばなりませんし、階段の昇降もあります。席に座れるかどうかもわかりません。車の運転に慣れていれば車のほうが楽で、どうしても車に頼りたくなります。

散瞳(さんどう)すると運転はできない

患者さんが車を運転して来院された場合、一番問題になるのは「散瞳(さんどう)した後は運転して帰ることができない」という点です。

「散瞳」は「瞳孔を開く」「ひとみを開く」とも言い、水晶体・硝子体・網膜・視神経などを観察するために必要です。60歳以上の方では、白内障も網膜・視神経の病気も増えますから、1年に1回は散瞳することをお勧めしています。

散瞳後はピントが合いづらくなりますし、瞳孔が開きっぱなしになってまぶしいため、原則として車の運転はやめていただいています

ただ、運転が全くできないかというと議論の余地はあります。散瞳後の見え方には相当に個人差があって「散瞳してもほとんど変わらない」という人もいるのです。実際に、散瞳したにもかかわらず車を運転して帰ってしまう人はいるようです。

例えば、車を置いて帰るという約束で散瞳したはずなのに駐車場に車が残っていなかったりするわけです。(家族を呼び出して家族が運転して帰った可能性はありますが、たぶん・・)

散瞳後の運転能力についての実証的研究は私の知る限りありません。また、飲酒運転と違って法律で明確に禁止されているわけでもありません。ですから、患者さんが自己責任で散瞳後に運転するのを強制的に禁止する根拠は薄弱です。

それでも慎重を期すに越したことはないと私は考えています。万が一にも事故を起こして他人を傷つけてしまったら大変です。患者さんから面と向かって「散瞳後に運転しても大丈夫ですか」と尋ねられれば、NOとお答えするしかありません。医師としての保証はできないのです。

なお、片目だけの散瞳ならそれほど運転能力は落ちないのは事実です。そもそも片目失明でも運転免許は取得できます。それでも、できるだけ運転は避けたほうが無難です。

次回散瞳をお願いしても

いつも車の方には「次回は散瞳しますから車の運転は控えて下さい」と申し上げるのですが、次もやっぱり車でいらっしゃる方が多いですね。忘れてしまう方もいれば、聞く耳を持たない方もいますし、「運転してきたと言えば嫌いな散瞳をしなくて済むからわざと車で受診する」という確信犯みたいな方もいるようです。

医師にきちんと診てもらわなければ医療機関に通う意味はありません。事情に応じて散瞳の回数をなるべく減らすなどの対応は取っておりますので、「散瞳予定の時はタクシーを使う」などのご協力をよろしくお願いいたします。

手術当日にも運転する人

白内障手術は今は日帰りが一般的になりました。驚いたことに、あらかじめ車の運転はダメですと申し上げているのに、それでも手術当日車に乗ってきて、車で帰ろうとする方がいらっしゃいます。

手術直後の運転はさすがに絶対禁止です。手術時には何度も散瞳剤をさして念入りに散瞳させますから、ピントの調節力は完全に麻痺しています。さらに、白内障で濁った水晶体を透明なレンズに替えることで眼内に入る光の量が増えますから、まぶしくてたまらないはずです。そして、運転中はまばたきが減って角膜の表面が乾き、手術で切開した傷口がゴロゴロしたり痛くなったりします。感染をおこす危険性も増えます。

眼帯をすれば運転はしにくい

眼科受診時には眼帯をすることがあります。眼帯の影響は頭で想像するより相当に大きく、視野が狭くなりますし、立体感がなくなります。

 外来手術の後にはたいてい眼帯をします。出血するので必要です。ものもらいの切開やまぶたの手術などです。車での来院は避けて下さい。

角膜異物を除去した後も眼帯をします。仕事中に鉄粉が入ったというケースが多く、大半の人が車です。すぐ除去しないわけにもいかず、眼軟膏だけ入れて、眼帯は手渡しして「車から降りたら眼帯をつけて下さい」とお願いしています。

そのほか、角膜びらん、角膜潰瘍などでも眼帯が必要になります。

眼帯の装着が予想される時は、車を運転して受診することは避けていただきたいと思います

 (2012.6)