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川本眼科だより

川本眼科だより 169家庭で使える消毒薬 2014年2月28日

感染防止のために、家庭でも消毒が必要になることがあります。ただ、多くの人にとっては消毒のやり方がわからないのではないでしょうか?

今回は、薬局で簡単に手に入る消毒薬の選び方と使い方をお話しします。なお、私は眼科医で、消毒に関しては「医師としての基本常識」程度しか知識がないことはご了解ください。

煮沸消毒は強力だが

家庭でできる消毒法として誰でも知っているのは煮沸消毒だと思います。100℃で5分間煮沸すれば、ほとんどすべての細菌・ウイルスを死滅させることができます。1分間でも9割方は死滅するでしょう。

ただ、煮沸が可能なのは、比較的小さめで熱に強いものだけです。例えば嘔吐物で汚れた衣類を煮沸できるような大きな鍋なんて普通は持っていないでしょう。熱に弱い樹脂の容器なんかだったら煮沸は不可能です。

煮沸は強力ではあるのですが、適用範囲が狭いので、多くの場合は他の消毒方法を考えなければなりません。

家庭で使うには安全性が大事

いくら消毒力が強力でも、毒性が強くて危険な物質は、家庭で使うには不向きです。皮膚に微量付着したらただれてしまうようでは、怖くて使えません。

触ったり吸い込んだりしても重大な健康被害が生じないこと、短時間で消失し残留しないことが、望ましい家庭用消毒薬の必須条件です。

色が付いて落ちないのも困ります。例えばポピドンヨードは強力な消毒薬ですが、茶色い色が付くので、家具など普段使うものには使えません。できれば無色透明がよいですね。

臭いのも困ります。昔、病院ではクレゾールという消毒薬が使われましたが、独特の強い刺激臭があるため、今ではほとんど使われなくなりました。不快なにおいがないのも大切な条件です。

そういう条件を満たす消毒薬は限られています。よく使われているのはエタノール次亜塩素酸です。蒸発したり分解したりして残留性がきわめて低いのが特徴です。

エタノールによる消毒

エタノールとはエチル・アルコールのことです。つまりお酒ですね。注射をするとき皮膚の消毒によく使われます。安全性が高く、すぐに蒸発して残留しないので、後から拭き取ったりする必要がありません。とても使いやすい消毒薬です。

ただ、エタノールは一部の細菌・ウイルスには効果が弱いので、用途によって次亜塩素酸と使い分ける必要があります。

消毒用エタノールIPがお勧め

薬局では「無水エタノール」「消毒用エタノール」「消毒用エタノールIP」が売られています。どれを買えばよいのでしょうか? 濃度が高いほうがよいのか、値段が高いほうがよいのか?

結論から言えば「消毒用エタノールIP」をお勧めします。

無水エタノールは濃度100%の純エタノールです。濃度が濃いほど効くような気がしますが、実際にはエタノールの消毒効果は濃度80%前後が最も高いのです。(理由は省略) ですから、無水エタノールを消毒に使うためには水で薄める必要があります。これは面倒ですね。

消毒用エタノールと消毒用エタノールIPはどちらもエタノール濃度約80%に調整されていて、原液のまま消毒に使えるようになっています。

IPはイソプロパノール(=イソプロピル・アルコール)を少量混ぜてあることを意味します。エタノールと同様の消毒効果がある物質ですが、これを混ぜると飲めなくなるので、エタノールは酒税がかかるのに対し、エタノールIPは酒税がかからず安価です。消毒効果はほぼ同等ですので、IPのほうが間違いなくお得です。

次亜塩素酸は強力だが希釈必要

次亜塩素酸ナトリウムは、強力な消毒薬です。ほとんどの細菌やウイルスに有効です。

 いろいろな商品名で売られていて、しかも商品によって濃度が異なるので注意が必要です。
   濃度1% ミルトン
   濃度5% ハイター、ブリーチ
   濃度6% ピューラックス、アサヒラック

使うときには希釈する(薄める)必要があります。嘔吐物や便が付着した場合には 濃度0.1%に希釈しますし、便座、ドアノブ、衣類のつけ置きなら濃度0.02%に希釈します。希釈方法は説明書やインターネットをご覧下さい。例えば 500mlのペットボトルを使い、ハイター(5%)をキャップ2杯分(=約10ml)入れ、水を加えて全体を500mlにすれば濃度0.1%になります。厳密でなくて大丈夫です。

作り置きはできません。希釈して時間が経つと効果がなくなります。面倒でも、使用直前に希釈して下さい。

次亜塩素酸の欠点

次亜塩素酸の消毒力は強く、エタノールをすべて次亜塩素酸に置き換えることも可能です。

しかし、次亜塩素酸には皮膚が荒れたり、金属を腐食させたりする欠点があります。また、漂白作用があるので、ものによっては変色します。

しかも、エタノールと違い、すぐに蒸発してなくなるわけではありません。そのため、使用して10分後くらいに水拭きして取り除くことが推奨されています。ちょっと厄介です。

上手に使い分けを

次亜塩素酸は希釈と水拭きが面倒です。そこで、エタノールで済む場合はエタノールを優先して使い、次亜塩素酸でなければ効かない場面だけ次亜塩素酸にすることをお勧めします。

ウイルス性結膜炎(はやり目)では、エタノールの効果は十分とは言えません。ただ、家中ありとあらゆるものを触っている可能性があり、そのすべてに次亜塩素酸を使うのは無理があります。消毒後にまた触る可能性もあり、何度も繰り返し消毒することが望ましいのですが、そのためにはエタノールのほうがはるかに手軽です。「完全な消毒」はあきらめて、感染リスクを減らせればよい、と考え、エタノールの使用をお勧めしています。

感染性胃腸炎の原因となるノロウイルスの場合、エタノールはほとんど無効です。感染力も強く、症状も激しいので、面倒でも次亜塩素酸ナトリウムを使わざるを得ません。

手洗いを忘れずに

家庭での感染防止には、手洗いの励行が非常に重要です。たぶん、消毒薬よりも大事だと思います。手洗いをまともにしないで、消毒薬だけ使っているのは片手落ちです。

手を洗った後の手拭きにも気をつけましょう。タオルならこまめに替えることが大切です。

(2014.2)