川本眼科だより 300後発品事情 2025年1月31日
国はできるだけ後発医薬品を使ってもらおうとやっきになっています。一方、患者さんの中には先発品にこだわる方もいらっしゃいます。
今回は後発品に関する現状を考えてみたいと思います。
後発品(ジェネリック)とは
新薬を開発するには莫大な時間と費用がかかります。その開発者の権利として特許が与えられ、独占的に製造・販売することができます。特許の期間は出願から20年ですが、出願は普通臨床試験の前で、臨床試験に時間がかかるために実際に独占販売できるのはかなり短くなります。そこで開発メーカーは製法・製剤・用途など何段階にも分けて特許を取得し、できるだけ独占販売できる期間を延ばそうとします。
特許が切れると、他のメーカーが同じ成分の薬を製造・販売することができます。これが後発医薬品、後発品、ジェネリックなどと呼ばれている薬です。同等性試験だけ実施すればよく、莫大な開発費がかからないので、後発品はかなり安く供給することが可能です。
国が薬価を決めますが、普通先発品の70%とか50%とか相当安くなり、患者さんの自己負担額もその分減ります。
先発品と後発品の中身は同じか
有効成分は同じです。ただ、添加物まで同一でなくてもよいので、後発品に「防腐剤無添加」など付加価値を付けることがあります。逆に先発品メーカーが添加物の違いを強調することがあります。医師もある程度使い分けはしますが、効き目に大きな差を感じたことはありません。
国は医療費を抑制したい
人口が高齢化するとともに、医療費はうなぎ登りに増加しています。2023年に47兆円、2040年には79兆円になると予測されています。健康保険の保険料を上げるのも税金を上げるのも反発が大きいので、国は何とか医療費を抑制したいのです。
薬価が高い先発品が後発品に置き換われば、その分医療費は削減されます。国は、後発品を使わなければ医療機関も調剤薬局も診療報酬を減らすというルールを導入、年々締め付けを厳しくしてきました。そのせいで大病院でも後発品への変更が進んでおり、現在薬剤費は約2兆円削減されたそうです。もし先発品がすべて後発品に置き換わればさらに1兆円削減されると試算されています。
先発品を使う人に特別料金
後発品への移行は徐々に進んできましたが、先発品にこだわる患者さんもいらっしゃいます。
後発品への移行が減速しているため、国はついに昨年10月、「後発品があるのにあえて先発品を使う人には特別料金を課す」という制度を発足させました。薬価の差以上に先発品は大幅に高くつくことになります。
川本眼科でも、これを機に、先発品を使っていた方を説得し、後発品に変更するようにしました。自己負担も減りますし、国の方針に逆らって意地を張っても仕方がないと思います。
後発品の品質問題
2021年、後発品メーカーの小林化工は抗真菌薬に睡眠薬が混入するという事件を起こしました。日医工では品質の不備を理由に75品目を自主回収しました。長生堂製薬は承認書と異なる方法で医薬品を製造したとして業務停止命令を受けました。
こういう事件で後発品への信頼が損なわれたことは否定できません。ただ、目薬に限れば不祥事の報告はありません。薬局から後発品を選ぶ際に相談を受けたときには、なるべく品質管理がしっかりしたメーカーの製品をお願いしています。
先発品メーカーが後発品を販売
従来、先発品メーカーと後発品メーカーははっきり分かれていました。しかし、国が後発品シフトを強力に進めたことで先発品が売れなくなってきました。このままでは先発品メーカーはシェアを落とすばかりです。そこで、先発品メーカーも後発品を販売するようになりました。
目薬の製薬業者1位の参天製薬、2位の千寿製薬とも、今ではたくさんの後発品を販売しています。こういう大手の製薬会社の製品は、同じ後発品でも品質管理がしっかりしていると期待できますし、安心感があります。
オーソライズド・ジェネリック
さらに、先発品メーカーに特許料を支払って先発品とまったく同じ有効成分、添加物、製造法で作る後発品が登場しました。これをオーソライズド・ジェネリック(AG)と言います。
時には先発品メーカー自身が自社工場で作る場合もあり、こうなると値段が安いだけで事実上先発品と完全に同一の製品ですね。当然先発品より儲けは少なくなりますが、他社にシェアを奪われるのを防ぐ戦略です。
AGは内服薬がほとんどで目薬にはまだ少ないのですが、エピナスチンLXという抗アレルギー点眼薬が先月発売されました。よく使われてきたアレジオンLXのAGです。参天製薬の子会社がAGを発売するので、中身はまったく同じで薬価だけ下がるわけで、ありがたいです。
薬局の在庫も後発品主体に
今までは、薬局には先発品が置いてあるのが普通でした。しかし、後発品へのシフトが進み、先発品は売れなくなっているので、薬局も後発品しか置かなくなっています。先発品にこだわると、「卸に注文するので1日待って下さい」と言われてしまう時代になっています。
慣れた薬を変えるのは抵抗感があるかも知れませんが、後発品への切り替えをお勧めします。
おまけ
年末年始、エジプト旅行に行って参りました。昔から訪れてみたかった地です。念願を果たしました。何千年も前の文明に驚嘆しました。
例年より2日長くお休みしてご迷惑をおかけしましたが、代替日として本来休診の水曜や成人の日に診療いたしましたので、お許し下さい。
(2025.1)