川本眼科だより 304日帰り手術の拡大 2025年5月31日
白内障手術はほとんど日帰り
白内障手術も35年前は入院するのがあたりまえでした。手術時の切開も大きく、手術時間も長く、術後の炎症も強く、トラブルの発生も多かったので、入院のほうが安全でした。
その後数年で折りたたみ式の眼内レンズが登場、切開わずか2~3mmという小切開・低侵襲の術式が急速に普及した結果、日帰り白内障手術が始まりました。その後も機械・器具・術式の進歩は続き、日帰り手術の割合がどんどん増えています。
現在、白内障手術はほとんどの場合日帰りをお勧めしています。入院手術にするのは、水晶体が非常に硬い場合、外傷や炎症の既往があるなど手術が難しそうな場合、患者さんが入院手術を強く希望する場合などに限られます。
なお、入院設備がある病院では、ベッドを空床にしておくわけにはいかないという事情があり、今でも入院手術が普通です。
日帰りのメリット
日帰り手術は術後自宅でリラックスして過ごせるのが最大のメリットです。認知症などで環境が変わると問題行動をおこす方もいます。
入院では院内感染のリスクもあります。院内感染は、重症患者が多い大病院で繰り返し起こっています。日帰りならこのリスクはありません。
もちろん入院費用もかかりません。
日帰り硝子体手術が始まった
白内障以外でも日帰り手術が始まっています。特に日帰り硝子体手術は、ここ1~2年、ずいぶん増えたように思います。
硝子体手術は、黄斑前膜、黄斑円孔、硝子体出血、網膜剥離などの病気で行われます。白内障手術よりは大がかりで複雑で、時間もかかります。
ただ、近年、手術機械や器具が著しく進歩し、手術方法の工夫も積み重ねられて、手術時間も格段に短くなり、術後の回復も早くなりました。その結果、日帰り手術が可能となったのです。
従来から川本眼科では、白内障手術を中京眼科と名古屋アイクリニックに依頼していますが、どちらの施設も日帰り硝子体手術を始めています。ご希望の方にはご紹介できます。
ただし、白内障の場合は、川本眼科が手術するかどうか決め、術前検査も川本眼科で行いますが、硝子体手術の場合は、手術する施設にすべてお任せする形になります。その人その人で病状が大きく異なり、どういう手術をするかも事前によく検討する必要があるからです。いろいろ検査した結果、手術は当面見送りということもありえます。
硝子体手術 入院か日帰りか
現時点では、日帰り硝子体手術は比較的短時間で終わりそうなケースに限ってお勧めしています。重症で時間がかかりそうなケースは入院のほうがよいと思います。何かトラブルが起きた時に速やかに対処できるからです。
また、硝子体手術では眼の中にガスを入れることがあり、その場合術後うつぶせ姿勢を取らなければなりません。最近はうつぶせを保つのはそれほど厳格でなくてもよくなっていて、日帰りでも十分対応可能とされますが、それでも入院したほうが何かと安心かもしれません。
将来的には、だんだん日帰り硝子体手術の対象が拡大していくと予想しています。まだ実績が少ないので慎重に考えていますが、日帰りが主流になる日はそんなに遠くない気がします。
日帰り緑内障手術は?
緑内障でも日帰り手術が始まっています。実は東京などではもう何年も前から始めている施設もあるのですが、名古屋ではまだ一般的ではありません。当院の連携施設では術者を確保できないためにまだ日帰り手術を始めていません。
緑内障手術は種類が増え、そもそもどの手術を受けるのかで話は大きく変わっています。
白内障手術の時に「ついでにできる簡易な緑内障手術」もあって、これなら今でも日帰りで手術しています。ただ眼圧はそれほど下がりません。
比較的リスクが少ないとされる手術でも、前房出血(角膜と虹彩の間の出血)をおこして翌日は相当に見えづらかったりします。眼圧が大きく下がる手術だと翌日眼圧が下がりすぎていて処置が必要なこともあります。
結局、ケース・バイ・ケースであり、すべてが日帰りになることはなさそうです。多くの場合は日帰りでできないこともないのですが、術後の管理に注意が必要ですし、まだ今のところは入院のほうが無難かも知れません。
紹介先で日帰りか入院か決まる
川本眼科では他の医療機関に紹介して手術をお願いすることになります。この場合、どこの医療機関に紹介するかによって、既に日帰りか入院かほぼ決まっています。
入院設備がなければ日帰り手術しかできません。当然ですね。難易度が高い手術でも日帰りで対応することになるでしょう。
逆に、入院設備がある場合は入院手術になると思います。ベッドがあるのにあえて日帰り手術をすることはありません。例えば、中京病院に紹介した場合、たとえ白内障であっても全例入院手術になります。
つまり、紹介してもらう時点で、日帰りか入院か決まってしまいます。患者さんの強い希望があればご希望に沿って紹介します。よくわからなければ、医師のお勧めに従うのが無難です。
今後は日帰りが増える
今後の見通しですが、だんだん日帰り手術が増えるのは間違いありません。たとえ日帰りにしない場合でも、従来より入院期間は短くなっています。医療技術の進歩によるもので、こういう変化は眼科に限らず医療の全分野で起こっています。
限られた医療リソースを有効活用できますし、患者さんにもメリットがあります。また、医療費膨張を少しでも抑制するという観点からも時代の要請だと言えるでしょう。
(2025.5)