川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 71縁起かつぎ 2006年1月31日

縁起をかつぐことは、誰しもある程度はしていることです。「勝ったからヒゲを剃らない」「この服を着ていくと仕事が成功する」のたぐいのゲンかつぎは害がないのですが、大安や仏滅のようにみんなが一斉に同じ行動をとると、いろいろ弊害が出てきます。
 
縁起をかつぐのは個人の範囲にとどめ、何事も科学的に、合理的に考えたいものです。

大安・仏滅

昔、勤務医時代にベッド係になり、入退院の管理をさせられたことがあります。仏滅はいやだ、大安がいい、という患者さんが多く、苦労した思い出があります。 
 
大安とか仏滅とかいうのは「六曜」といいます。もともとは「りくよう」と読んだらしいのですが、今は「ろくよう」のほうが一般的です。
 
六曜はずいぶん昔からあったような気がしますが、実は江戸時代には全く使われていませんでした。もともとは中国宋の時代の「時刻に関する吉凶占い」で、時代を経て小吉→泰安→大安とか物滅→仏滅などと変化し、中国清の時代に「日に関する吉凶占い」に変わったそうです。
 
日本では、昔から暦には「暦注」がつきもので、どの日にも暦注が書かれていました。六曜のほうは、明治になるまで暦に記されたことは一度もありませんでした。ところが、明治新政府が太陽暦を採用した際に、従来の暦注は迷信だからと禁止しました。そのため、昔ながらの「暦注」は絶滅し、代わりに新参者の「六曜」が書き込まれるようになったのだそうです。
 
しかも、六曜というのは旧暦によって自動的に計算されるのですが、旧暦といっても何度も改暦されていて、実はどの暦を使うかによって六曜は変わってしまうのです。ある暦では大安のはずが、ある暦では仏滅になってしまいます。一応最後の天保暦を便宜的に延長して使っているのですが、欠陥が多くて本当は改暦が必要だそうです。
 
うーん、どうみても六曜はそれほど由緒正しい由来のものではありませんね。こんなことに生活を束縛されるのは実に不合理です。
 
こんなものはわざわざ書いてあるから気になるのです。暦注だって、書いていなければ誰も気にしないじゃありませんか。六曜の書いていないカレンダーを使うことをお勧めいたします。
 
ちなみに、白内障日帰り手術は仏滅でも関係なく行っていますが、仏滅の日にトラブルが多いなんていうことはもちろんありません。

縁起の良い数字・悪い数字

数字に関してゲンをかつぐ人も多いようです。
 
一般に、日本では4や9が嫌われます。「死」や「苦」に通じるというのです。でも、4人がけの座席や4人家族を「死人」に通ずるとして嫌う人はいません。ご都合主義ですね。それに、所変われば品変わり、中国では9が縁起の良い数字とされ、9が多いほうが喜ばれるのです。
 
川本眼科の番号札にも、クレームがついたことがあります。42番はいやだというのです。患者さんの気持ちを考慮するのは当然なので、一時は4や9の番号を全部外すことも検討しましたが、患者さんの数が何人だかわからなくなってしまいます。結局42番だけ外すことにしました。
 
余談ですが、私が前に乗っていた車のナンバープレートは4219(死に行く)でした。川本眼科のエレベーターの保守料金は毎月42,000円です。 もちろん、事故などおこったことはありません。それから、42nd street と言えば、多くの人に愛される傑作ミュージカルです・・・
 
キリスト教国では13という数字が嫌われます。日本でキリスト教を信じている人は少ないはずですが(教会で結婚式を挙げる人は多い)、13日の金曜日は縁起が悪いという人が多いのは映画の影響でしょうか。私はミッションスクール出身で、小学校の頃出席番号は13でしたが、別に悪いことなど起こりませんでした。

厄年(やくどし)
 

厄年(やくどし)というのもあります。 陰陽道(おんみょうどう)によって説かれた考え方で、男の場合、ふつう数え年で25歳、42歳、61歳が厄年とされ、とくに42歳は本厄(ほんやく)といって一番危険だそうです。ただし、厄年が何歳かは時代や地方によって異なります。それも変な話ですけれど。さらに前厄(まえやく)とか後厄(あとやく)とかいうのもあるそうです。宝くじの前後賞みたいですね。
 
厄年には大きな仕事をしてはいけないんだそうです。厄年に新築するのは避けたほうがよいと言われています。
 
けれども、川本眼科の今の建物は、私が厄年の時に建てました。もちろん、厄払いになど行っていません。新築以来数年経ちますが、災いは別におこらなかったようです。
 
陰陽道を本気で信じるなら、平安時代のように方違え(かたたがえ)(悪い方角に直接行くことを避けていったん別の家に泊まること)をしなければならないはずですが・・・ 

風水(ふうすい)の再流行?
 

風水も最近流行するきざしをみせています。風水は中国でおこり、元来は日照・大気・水などに関する環境学と占いの合いの子みたいなものでした。日本にも、中国から文物の流入が盛んだったころ輸入され、昔は盛んだったようです。平安京が今の京都の地に定められたのも、風水思想に基づいていると言われています。
 
中国では今でも墓地の選定などに風水が欠かせません。日本では墓地選びで風水を気にする人はほとんどいないようですが、家を建てる時だけは突然「家相」が問題になり、風水(を日本的に変えたもの)が登場してきます。
 
しかし、そもそも土地が余っていて家と家の間が遠く離れていた時代にできた風水思想を、人口が爆発的に増え家々が密集する現代日本に持ち出すのは、滑稽と言わざるを得ません。

やはり何事も合理的に

縁起をかつぐことは、個人の問題にとどまっている限りその人の勝手ですが、他人まで巻き込むのは良くないのではないでしょうか。
 
退院は大安にしたいなどと無理を言うのはやめましょう。緊急入院のときには誰も六曜なんて気にしないでしょう?
 
六曜にせよ厄年にせよ、もともとどういう根拠なのかと突き詰めていくと信憑性はなくなってしまいます。古くからの習俗や言い伝えの中には昔の人の知恵が隠されていることもある反面、たくさんの迷信も含まれているのです。
 
人間はいつも合理的な判断をするわけではありません。ある意味で、人間は迷信のかたまりです。だからこそ、努力して、何事も科学的に、合理的に考え、迷信は迷信として笑い飛ばす勇気を持ちたいものです。

2006.1