川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 102まぶたがピクピクする 2008年8月31日

まぶたがピクピクする経験はありませんか?
 
目のまわりの筋肉が勝手に動いてしまい、気持ちが悪いものです。このように自分の意志とはかかわりなく筋肉が勝手に動くことを不随意運動といいます。
 
まぶたの筋肉が不随意運動をおこす病気はいくつかあって、放置してよいものもあれば手術が必要な場合もあります。今回はそのうち比較的よくみられる3種類の病気について解説いたします。

眼瞼ミオキミア

目のまわりには眼輪筋(がんりんきん)という筋肉があります。眼輪筋が勝手にピクピクと痙攣する病気が眼瞼ミオキミアeyelid myokimiaです。下まぶたにおこるのが特徴とされています。
 
ピクピクはふつう短時間で収まります。たいていは数秒です。ただ、1日のうちに何度もおこることが多いですね。
 
一度症状が出るとしばらくは続くことが多く、数日から数週間悩まされます。でも、いつのまにかおこらなくなります。
 
再発は多く、何度も繰り返す人もいます。
原因はストレスとか過労とか言われていますが、本当のところはよくわかりません。ストレスなんて無縁の人にもおきるし、無茶苦茶ストレスがかかっていれば必ずおこるわけでもありません。
 
自然に収まるので、とくに治療の必要はないと考えられています。精神安定剤など使うこともありますがさほど効果は望めません。休息や睡眠を取ることが推奨されていますが、本当に有効なのか証明はされていないと思います。

顔面スパスム

顔面スパスム hemifacial spasm には顔面けいれん、片側顔面痙攣などの別名もあります。
 
最初は眼輪筋がピクピクし、それから口元へとピクピクする動きが広がっていきます。範囲が広いわけですね。顔が引きつられるような感じになります。数秒~数十秒続きます。
 
典型的な症状が出ていれば診断しやすいのですが、軽症だと眼輪筋だけがピクピクするため、眼瞼ミオキミアとよく似ていて見分けにくいことがあります。
 
顔の表情は目・頬・口のまわりの筋肉によって作られます。これらの表情筋を動かす命令を伝えるのが顔面神経です。
 
顔面神経は脳から出て耳の後ろあたりを通り、枝分かれして顔全体に分布します。脳~耳のあたりでは血管と一緒に並んでいます。顔面スパスムは動脈硬化などで血管が顔面神経を圧迫するためにおこるとされています。
 
治療は、軽症なら抗けいれん薬の内服、ひどくなればボツリヌス毒素の注射(後述)か手術をします。注射は3ヶ月くらいで効果が切れるので、繰り返し定期的に注射しなければなりません。
 
手術は「神経血管減圧術」といって顔面神経を圧迫している血管を離して圧迫を解除する方法で、脳外科で行います。8~9割は治ります。ただ、聴神経や内耳動脈が走っているところを手術するので、術後難聴になるリスクがあります。

眼瞼ジストニア

従来は眼瞼けいれんblepharospasm と呼ばれていました。しかし、けいれんと言うとまぶたがピクピク動く状態をイメージしてしまいますが、実際にはけいれんらしいけいれんはおきません。眼瞼ミオキミアでまぶたのピクピクする動きをけいれんと説明しているために混同されがちです。
 
誤解を避けるために、眼瞼ジストニアと言い換えることが提唱されています。
 
眼瞼ジストニアは、眼輪筋の不随意運動のため意図せず目を閉じようとする力が働く病気で、重症だと目を開けることができません。
 
重症だと診断は容易ですが、実際には軽症の人が多く、軽症だと努力して目を開けていることができるので外見上は正常に見えます。でも本人はつらくて 「目を開けているとつらい」「目をつぶっていたほうが楽」「目が自然に閉じてしまう」「目が細くなった」「目を開けるのに指の助けがいる」などと訴えます。
 
治療はボツリヌス毒素の注射(後述)が一般的です。ごく軽症ならのみぐすりも使われますが、効果はあまり期待できません。手術はかなり特殊な場合しかしないので省略します。

ボツリヌス毒素の注射

ボツリヌス毒素は神経が筋肉を動かす指令を遮断し、筋肉の動きを止めてしまいます。この作用を利用して不随意運動がおこらないようにするわけです。
 
注射する上で難しいのは量の加減で、量が少ないと予定通りの治療効果が得られませんし、量が多すぎるとまぶたが下がったり下まぶたがアカンベをしたようになったりすることがあります。効き目には個人差もあります。
 
注射の効果は3日くらいで現れ、約2週間で最大となり、徐々に効果は薄れます。3~4ヶ月でほぼ元の状態に戻ってしまうので、3ヶ月ごとに注射を繰り返します。
 
なお、保険は利きますがなにしろ1瓶が10万円もする高価な薬なので、3割負担だと薬剤費だけでも1回3万円くらいかかります。
 
川本眼科ではボツリヌス療法を行っていないので、実施している病院に紹介します。注射部位や量の加減などで手技の巧拙があると考えられますから、なるべく治療例の多い病院がよいでしょう。当院ではふつう連携している社会保険中京病院に紹介しております。

2008.8