川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 105ベンザルコニウム 2008年11月30日

ベンザルコニウムは目薬の防腐剤です。眼科の治療上なくてはならないものです。反面、多くの眼科医がベンザルコニウムを目の敵にしています。ベンザルコニウムは必要悪なのです。
 
今回は、ベンザルコニウムを減らし、なくすための取り組みについて取り上げます。

目薬の8割に使われている

塩化ベンザルコニウムは「逆性石けん」として知られています。細菌の細胞膜のタンパク質を変性させることによって殺菌力を発揮します。
 
ベンザルコニウムは目薬の防腐剤として非常によく使われています。目薬の容器中に細菌やカビが繁殖しないように、目薬には防腐剤が添加されているのですが、そのうち8割までがベンザルコニウムです。つまり、5本の目薬があれば、そのうち4本に入っているわけですね。
 
それだけ防腐剤としての効果は強力で、目薬の保存性を高めるためにベンザルコニウムはなくてはならないものと言えるでしょう。

角膜上皮障害をおこす

ベンザルコニウムは、細菌の細胞膜だけでなく、角膜の細胞の細胞膜にも作用し、タンパク質を変性させてしまいます。その結果おこるのが角膜上皮障害です。患者さんに説明するときは普通「角膜のキズ」と呼んでいます。
 
角膜が健康な若くて元気な人では、防腐剤として添加されているベンザルコニウムの濃度では問題を起こしません。
 
しかし、目薬をさすのは、高齢者だったり、糖尿病患者だったり、ドライアイ患者だったり、角膜がもともと弱い人が多いのです。しかも、目薬は長期間さし続けなければならないことが多いし、1種類だけでなく何種類もささなければならないことも多いのです。
そういう場合はそれだけベンザルコニウムの影響も出やすくなります。
 
また、角膜上皮障害の治療に使われる目薬にもベンザルコニウムが使われていることが多いのは厄介な問題です。治療しているつもりがかえって悪化させていた、なんてことになりかねません。
 
ですから、ベンザルコニウムなんて本当は添加していないほうが角膜のためにはよいのです。

防腐剤濃度を薄くすると

最近の目薬は、角膜上皮障害を少なくするため、ベンザルコニウムの濃度を薄くする傾向があります。新しく発売される目薬ではぎりぎりまで薄くしてあります。昔からある目薬でも、防腐剤濃度だけ半減させたりすることがあります。
 
ベンザルコニウム以外の、「殺菌効果は低いが角膜障害は少ない」防腐剤を使うことも多くなっています。
 
これは望ましいことなのですが、一方で殺菌力は悪くなることは避けられません。1ヶ月間使った目薬には高率で細菌が見つかります。
 
1ヶ月経ったら目薬は捨てる必要があります。最近出た防腐剤濃度の薄い目薬ほど、1ヶ月で廃棄の原則をしっかり守っていただく必要があります。

防腐剤無添加だと

世の中には防腐剤が全く入っていない目薬も存在します。ベンザルコニウムによる副作用が生じたときは、そういう目薬を上手に使う必要があります。
 
しかしながら、防腐剤が入っていないと一般に目薬をしての使い勝手は悪くなります。
 
例えばソフトサンティアという目薬があります。ドライアイに使われています。防腐剤が全く使われていないのが利点ですが、反面使用中に点眼びんが細菌で汚染される危険があります。
製薬会社では「1週間から10日で使い切ること」とただし書きをつけています。10日過ぎたら余っていても捨てなければなりません。
 
1回使い切りの容器に入った目薬もあります。防腐剤が入っていない上に清潔なので理想的ではありますが、どうしても割高で、金銭的負担が馬鹿になりません。
その上、1回使い切りの目薬を使いたくても、保険診療ではいろいろやかましい制限がついていて、簡単には使えないのです。

フィルター付きの目薬

数年前から、防腐剤をなくし、しかも汚染されにくいという容器が出現しました。内部を二重構造にしてあって、フィルターを内蔵し、細菌をこし取ります。
 
考え方としてはまことに正しく、私も大賛成なのですが、実際に使ってみると夢の容器とはいきませんでした。
 
構造が複雑なために、点眼びんが固く、高齢者からさしにくいという苦情が多く寄せられたのです。歳を取ると指先の力をコントロールするのが難しくなるため、点眼びんが固いとうまくさせないのです。
 
さらに、エアーロックという現象も出ました。泡が発生し、複雑な構造の途中に引っかかるために目薬が出なくなってしまうのです。最初のうちはよいのですが、目薬の内容量が少なくなると起こりやすくなります。

そんなわけで、結局、普通の目薬に戻した人が続出しました。
アイデアは秀逸だったのですが、それを実現する技術がいまいちだったというところでしょうか。

防腐剤なしを普通にしたい

現時点ではベンザルコニウムを追放するのはまだまだ夢です。眼科医は当分この”必要悪”に悩まされ続けることでしょう。
 
しかし、明らかに悪影響があるものを使い続けたくはありません。
技術革新により、細菌を中に入れず、しかも高齢者にも使いやすい容器が発明されることを期待しています。そうなれば、すべての目薬でその容器が使われるようになり、「ベンザルコニウムなし」があたりまえになるでしょう。

2008.11