川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 119子宮がんのワクチン 2010年1月31日

年の初めは明るいニュースで迎えたいと思っていました。眼科の話ではありませんが、とびきり素晴らしい朗報です。特に女性には。

子宮頚癌(しきゅうけいがん)に対するワクチンが昨年末に発売されたのです。とうとう、がんがワクチンで予防できる時代がやってきました。

12歳の女の子全員にワクチンを接種すれば、子宮頚癌にかかる人を7~8割減らせるそうです。がん死する人もそれだけ減ります。

がんの悲劇を避けるためには、集団接種や公費負担を導入し、接種率を早く100%に近づけることが大切です。

子宮頚癌はウイルスが原因

子宮頚癌(しきゅうけいがん)はヒトパピローマウイルスが原因です。この名前は長いので普通HPVと呼んでいます。HPVはありふれたウイルスで100種類以上あります。がんをおこすのはそのうち13種類ほどです。

HPVは性交渉で感染しますが感染しても9割は排除されます。しかし、表面だけの感染なので免疫は獲得できず、繰り返し感染することになります。約1割でウイルスが排除されず持続感染という状態になり、前癌病変をおこし、さらにその一部が癌化します。がんになるにはHPV感染から数年~十数年かかると考えられています。

ほとんどの女性がHPVには感染するわけですが、そのうち子宮頚癌になるのは1%未満です。ただ、なるかならないかは確率の問題で、要するに運不運です。すべての女性に起こりうることとお考え下さい。

HPV16型・18型に対するワクチン

今回発売されたのはHPV16型・18型に対するワクチンです。この2つの型が子宮頚癌の原因になることが多いからです。16型・18型に対する高い抗体価を20年以上(恐らくもっと)維持すると予測されていて、感染予防効果はほぼ100%です。 http://allwomen.jp/

残念ながら、子宮頚癌の原因となるのは16型と18型だけではなく、52型・58型などもあるので、子宮頚癌のすべてを予防できるわけではありません。将来すべての原因ウイルスに効果があるワクチンが登場してほしいものです。

幸い、16型・18型が原因の7~8割を占める(国・地域・年齢層によって異なる)ので、今回発売されたワクチンが普及すれば子宮頚癌は激減すると期待されています。

11~14歳に優先的接種

ワクチンは一度成立した持続感染には効果がないそうです。また、ワクチンの効果は長期間続くと予測されています。

したがって、「なるべく若いうちに、感染機会が生ずる前の年齢で」接種することが望ましいと考えられます。すでに多くの国で接種が始まっていますが、9~14歳が最優先の接種対象になっています。日本でも産科婦人科学会・婦人科腫瘍学会・小児科学会が、11~14歳に優先的に接種することを強く推奨する声明を出しました。

産婦人科だけでなく、小児科などで接種が受けられます。内診の必要はありません。(20歳以上では子宮がん検診も推奨されていますが)

この年齢では親も子も子宮がんのことなど念頭にないでしょうから、接種率を上げるには学校で小6か中1を対象に集団接種するのが最善の方策だと思います。接種時期を失念する心配もありません。3回接種なのですが「2回目は1ヶ月後、3回目は6ヶ月後」と言われても忘れてしまう人が必ず出てきますよね。

15歳~45歳も接種を

もちろん、15歳以上の女性も積極的にワクチンを接種すべきです。既に起きてしまったHPV持続感染には無効ですが、これから起こるかも知れないHPV感染には有効だからです。

感染機会やホルモン動態を考慮して、接種年齢の上限は45歳くらいと考えられています。

副反応

予防接種には副反応がつきものです。接種部位が腫れたり、疲労・筋肉痛・関節痛・胃腸症状・発熱・発疹などが報告されていますが重篤なものはきわめてまれです。

子宮頚癌になれば、生命の危険もありますし、少なくとも子宮を失うことになるわけですから、多少の副反応は許容範囲だと思います。

価格の問題と公費負担

HPVワクチンは3~4万円かかります。がんにかかった時の医療費を考えれば決して高くはないのですが、なにしろ問題になるのは10年以上先のことですから、価格が高いと受けない人も増えてしまうでしょう。人間誰しも「自分は子宮がんにならない」と根拠のない信念を持っていたりするものです。

接種率を100%近くにするためにはワクチン費用を公費負担にして無料化しなければなりません。短期的には確かに支出が増えますが、しかし、子宮頚癌患者への医療費が将来減るほうがはるかに大きく、医療経済的にはすごく得をします。

今は子宮頚癌で年間2400人くらい死亡していますが、12歳の女の子全員に接種すれば20年後には600人くらいに減るはずです。目先のお金をケチってはいけません。大勢の女性の命を救った上に、医療費抑制にもなるのです。

多くの国でHPVワクチンは公費で無料化・負担軽減されています。

人類とがんの長き戦い

がんは正常な細胞の遺伝子が傷ついておこります。元々は自分の細胞なのです。ですから、がん細胞と正常細胞はよく似ていて、抗癌剤は正常細胞にも悪影響を与えます。副作用がなくて良く効く抗癌剤など実現しそうにありません。

どうやら、がんができてしまってからの治療は難しいのです。がんを減らすにはがんにならないよう予防することが最善策のようです。

肺癌をはじめ多くのがんの原因はタバコですから、タバコを吸う人を減らせば確実に減ります。タバコ対策こそが最大のがん対策です。皮膚癌の主因は紫外線ですから紫外線対策で減らせます。食道癌では熱いものを食べる習慣が原因になることがあり、習慣を変えることが対策になります。

いろいろな予防策をとればがんを半減させることはできそうです。

子宮頚癌の原因はウイルスです。これに対してワクチン開発が成功したのは画期的な出来事でした。ウイルスで起こるがんにはワクチンが有効と証明できたことになります。

人類はがんとの戦いに負け続けてきました。子宮頚癌ワクチンの開発は、人類を勇気づける久しぶりの勝利です。まずは祝杯を挙げて喜びましょう。戦いはまだまだ続きますが。

※この項の執筆に際し、筑波大吉川裕之教授のご講演を参考にさせていただきました。記して謝意を表します。

2010.1