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川本眼科だより

川本眼科だより 145白内障を放置すると 2012年2月29日

白内障手術を積極的に希望される方が増えました。でも、今でもやっぱり「手術は嫌だ、受けたくない」と拒否反応を示す方はいらっしゃいます。

白内障の場合、かなり進行するまで待つことは可能です。外から見てもわかるほど真っ白になってしまい、ほとんど見えない状態でも、手術をすればたいてい視力は回復します。

それでも、白内障を長い間放置するといろいろと問題が出てきます。どんな問題が起こるのかを知って、いつ手術を受けるかタイミングを決める参考にして下さい

水晶体(すいしようたい)が融解(ゆうかい)してブドウ膜炎に

水晶体が真っ白になるくらい進行した白内障では、水晶体が溶け出して強い炎症を起こすことがあります。水晶体融解性ぶどう膜炎といい、激しい痛みや充血を伴い、時間が経つほど悪化するので、緊急手術が必要です。癒着や混濁などの後遺症が残ることもあります。

まだ水晶体融解まで起こしていなくても、相当に進行していて融解の危険性が高い場合には急いで手術しなければなりません。

そこまで進んだ白内障だと、水晶体の表面を切開した途端に乳白色の内容物が漏れ出して術野が見えなくなります。また、通常、手術時は照明が網膜で反射した光を頼りに立体感を得るのですが、混濁の強い白内障ではこの反射光が得られず、深さの見極めが困難になります。

つまり、手術が難しくなり、そのぶんトラブルが起こる可能性も増えることになります。

水晶体は年齢とともに固くなる

水晶体は年齢とともにだんだん固くなります。個人差はありますが加齢現象ですから避けられません。視力はそんなに悪くなくとも相当固くなっている場合もあります。

幸い、水晶体が固くても対応できる手術手技が編み出され、たいていはなんとかなるのですが、それでも固いと水晶体の破片が刃物のようになり、手術操作に伴う水流に乗って周囲にぶつかり、角膜を透明に保つための細胞を損傷したり水晶体を包む膜を破ったりするトラブルが発生する恐れがあります。

水晶体が柔らかいうちなら、そういうトラブルの可能性は非常に少ないのです。

水晶体が膨らんで緑内障発作

白内障が進行すると水晶体はだんだん膨らんできます。すると水晶体は虹彩(こうさい)を後ろから押し上げ、眼球内の水(房水=ぼうすい)が排出される下水口(隅角=ぐうかく)が狭くなります。この下水口が完全にふさがると眼圧が一気に上昇します。これが急性緑内障発作です。

緑内障発作を起こすと頭痛・眼痛・吐き気などの症状に襲われ、緊急手術が必要ですし、視野が欠けてしまいます。この視野欠損はもう二度と元には戻りませんし、一生緑内障管理のための検査や治療を受け続けなければなりません。

緑内障発作の危険がある場合には、たとえまだ視力が良くてご本人が困っていなくても、早めに手術したほうが安全だと思います。

眼軸長(がんじくちょう)の測定が不正確になる

眼軸長というのは眼球の奥行きです。白内障手術の時には水晶体を「眼内レンズ」と取り替えます。眼内レンズの度数を決めるために眼軸長を測る必要があります。

眼軸長を最も正確に測定できるのはレーザー光を使う方法です。ただ、白内障が進行するとレーザー光が通らなくなって、この方法が使えなくなります。代わりに超音波を使って測定しますが、どうしてもレーザー光による方法より誤差が大きくなります。(→川本眼科だより106「眼内レンズの度数決め」

つまり、レーザーによる眼軸長測定ができなくなるまで進行した場合、正視を狙ったのに遠視になってしまったり、予定より強い近視になってしまったり、眼内レンズの度数合わせが不正確になりやすいのです。

待ちすぎると不利

白内障手術は「水晶体を人工の眼内レンズに交換する」という手術です。交換ですから、「水晶体の濁りの程度が早期でも進行してからでも、手術結果にあまり差は出ない」と私は患者さんに説明しています。ただ、実はこの説明には前提条件があって、ある程度までは正しいのですが、ある限度を超えて白内障が進行すると、やっぱり早く手術した方がよいのです。

白内障は年齢とともに進行しますから、長生きすればいずれ手術せざるを得ません。手術のリスクはゼロではありませんが、どこかの時点で手術しなければならない訳ですから、早くやるか遅くやるかだけの違いであって、いずれはリスクを取らなければなりません。しかもきわめて安全性の高い手術でリスクは極小と言えます。

以上述べたように、白内障手術のタイミングを待ちすぎるといろいろな不利益を被ります。既に相当見えづらく感じているなら、我慢している意味はほとんどないと言ってよいでしょう。

白内障の進行に伴う問題には、自覚症状でわかることと、自分では判断がつかないことがあります。ですから、トラブルの発生を未然に防ぎ、適切な時期に手術に踏み切るためには、きちんと定期的に受診することをお勧めします。

手術への拒絶反応

白内障手術のメリットは広く知られるようになり、既に手術を受けた方の話を聞く機会も増えて、最近では積極的に手術を受けたいと希望する方が多くなりました。昔は手術を説得するのに時間がかかっていましたから、時代は変わったものです。

とはいえ、手術と聞くだけで怖じ気づく人は今でも結構いらっしゃって、手術の必要性を説いても聞く耳を持たない状態だったり、手術を勧められるのが嫌で受診しなくなってしまったりします。

そういう時、ご本人の心を動かせるのは医師ではなく、家族や友人です。周囲の方が背中を押してあげることが大切だと感じています。

(2012.3)