川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 148視覚障害認定の不合理 2012年5月31日

視力が大幅に低下したり視野が大きく欠けたりすると、申請→審査を経て身体障害者に認定され、身障者手帳をもらうことができます。

ところがこの審査のやり方が変なのです。知り合いの眼科医もみんな「変だ、変だ」と言います。厚生労働省にFAXで質問しましたが、なしのつぶてで黙殺されています。

視覚障害は視力と視野で認定

身体障害者の認定は視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、腎臓機能障害・・など、12種類に分かれています。

視覚障害は、障害の程度に応じて1級~6級と判定されます。視力が悪い場合の認定基準、視野が欠けている場合の認定基準があり、視力も視野も悪い場合は、両方を総合して級を認定します。

1級=18点、2級=11点、3級=7点、4級=4点、5級=2点、6級=1点  と換算して足し算。

例えば視力障害3級(7点)、視野障害4級(4点)ならば、足して11点になるので、総合して視覚障害2級に認定します。

視野認定基準が緩和

身障者の認定基準は何度も改正され、徐々に認定される範囲が広がってきました。

視覚障害の場合、最初はほとんど視力だけで認定していたのですが、1995年に身体障害者福祉法施行規則が改正され、視野障害が従来よりずっと広く認定されるようになりました。視野の悪い患者さんには朗報でした。

通達による解釈変更で厳格化

ところが、この新基準により視覚障害を認定される人数が増えすぎたため、厚生労働省は判定をもっと厳しくして身障者認定の数を制限しようとしたらしいのです。(このあたりは推測であって確証はありません。誰か心あるジャーナリストがしっかり取材してくれるといいのですが)

基準自体をまた改正するのは大変ですし、時代に逆行するという批判も免れません。そこで、厚労省は「通達による解釈変更」という手法を採りました。身障者認定基準の文面自体はそのままに、解釈だけ変更して実質的に基準を厳しくしたのです。官僚らしい姑息なやり方は”見事”です。

解釈変更の通達は2004年に出されています。内容は相当に専門的で説明しにくいのですが、要するに、視野を測定するときに今までより明るくて見やすい光を使え、ということです。この変更で認定される人数はかなり絞られることになります。

これだけなら「福祉政策にどの程度お金をかけるか」という政治経済の問題もからむし、仕方ないことだと思っていました。

孤立した周辺残存視野の取扱い

問題は、この通達以後、身障者認定審査の際に通達自体には書かれていない解釈変更が行われ、それまでなら当然身障者認定を受けられたはずの緑内障患者さんが申請を却下されていることです。

認定基準では「中心視野が10度以内」が大事なポイントなのですが、「周辺部に孤立した視野が残存しているとき」の取扱いが変わったのです。

緑内障の場合、一見中心視野だけ残存していると思われる患者さんでも、熟練した検査員が手間暇かけて検査すると、たいてい周辺部に孤立した視野が残存しています。(不慣れな検査員だと見落とすので問題にならないのはおかしな話です)この周辺残存視野は実生活上は役に立ちません

 この「ないも同然の周辺視野が残存する」ことを盾に「認定できない」と身体障害者更生相談所が言い出したのです。

これはそれまで主流の解釈を覆すものです。例えば眼科医向けに身障者診断書作成の仕方を解説したガイドブックには「中心の視野が10度以内なら、周辺部にこれと連続しない視野が残存していても問題はない」と明記されています。

それに、実はそもそも視覚障害認定基準自体に『輪状暗点があるものについて中心の残存視野がそれぞれ10度以内のものを含む』という注記があります。輪状暗点とは「中心視野と周辺視野の境界付近に生ずる輪状の視野欠損」です。定義からして周辺視野の存在が前提になっています。この注記は「輪状暗点によって周辺視野と中心視野が切り離されているときは、中心視野だけをみて10度以内ならば認定対象とする」という意味だと解釈しなければ辻褄が合いません。

周辺視野が少しでも残存していたら認定対象にしないという解釈はおかしいし、間違っています。間違った解釈への変更が、眼科医にも周知されぬまま水面下で行われるのは大問題だと思います。

解釈変更は曖昧で恣意的

こういう解釈変更は明文化されていないだけに曖昧で困るのです。問い合わせしてみると「少しでも周辺視野が残っていれば認めない」「わずかに残っているぐらいなら認める」「数度程度の周辺視野残存ならば認めることがある」などと違い、まちまちで統一されていないことがわかりました。

文書にもなっていないような曖昧な基準を示されても困惑するばかりです。認定業務が恣意的に運用されている実態は、どう考えても好ましくないはずです。審査員や地域によって身障者の認定結果が異なるのでは、不公平と批判されても仕方ないでしょう。 

視野5級からいきなり2級へ

現在のような運用だと、視野の3級、4級はほとんど認定できなくなります。「視野が10度以内」が判定の前提条件になっているので、周辺視野が残っている限り5級のままです。

5級のままずっと続き、末期まで進行して周辺残存視野が失われた途端、4級、3級を飛び越えていきなり2級になるのです。

これは、相当にいびつな認定だと言わざるを得ません。5級→4級→3級→2級と順番に級が上がり、上の級ほど人数が少なくなるのが自然で無理のない制度でしょう。身障者と認定する人数を制限したいのなら、もっとほかにやり方があるはずで、一部の末期緑内障患者にばかりしわ寄せがくるような手法は、とうてい容認できるものではありません。

疑義照会は1年以上放置

私は以上の点について、2011年1月13日に厚労省へFAXで疑義照会いたしました。1年4ヶ月が過ぎましたが、いまだに返答はありません。途中に東日本大震災がおこったという事情を考慮しても、完全に黙殺されたと判断せざるを得ません。

事は日本全国の大勢の緑内障患者さんに関わるのですが、市井の眼科医の意見なんかに聞く耳は持ち合わせていないということなのか、無視するというのは遺憾です。真摯な提言に対しては、きちんと検討し、その結果を知らせて欲しいという希望は、高望みなのでしょうか?

なお、私の疑義照会の内容は川本眼科のホームページからご覧いただけるようにいたしました。興味ある方はお訪ね下さい。

>>~周辺孤立暗点の取扱い 2011. 1.13

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最近、マイナスイメージがある「障害」という表記を避けて元々の「障碍」に戻そうという動きがあります。私も賛成ですが、まず「碍」を当用漢字にし、法律や公的書類をすべて「障碍」と改めるのが先で、表記がバラバラでは混乱します。

なお、一部の人たちが使う「障がい者」というかなまじり表記は日本語の破壊で許せないと感じており、大嫌いなので私は絶対に使いません。
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(2012.5)