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川本眼科だより

川本眼科だより 171スギ舌下免疫療法 2014年4月30日

スギ花粉症に対して「舌下免疫療法」が認可され、近いうちに保険診療が可能になります。

対症療法ではなく、根治的治療になりうるので、大いなる期待を持って発売を心待ちにしていたはずでした・・・

残念ながら、3年も治療を続けなければならず、花粉が飛んでいない時期にも通院が必要ですから、よほど強い意志と覚悟がないと挫折します。対症療法の薬で症状が抑えられる人は、安易に手を出さないほうが無難というのが私の結論です。

アレルゲン免疫療法

アレルゲンとはアレルギーの原因となる物質のことです。例えば、スギ花粉症ならアレルゲンはスギ花粉ということになります。

アレルゲンも微量なら強いアレルギー反応は起こしません。最初は極微量のアレルゲンを投与し、時間をかけて徐々に増量していくと、体がアレルゲンに慣らされ、ついには大量のアレルゲンでも過剰な反応を起こさなくなります。

この治療法をアレルゲン免疫療法と言います。以前は減感作療法と呼んでいました。(川本眼科だより130で取り上げました)

皮下注射で投与する方法

今までは、皮下注射でアレルゲンを投与するしかありませんでした。

私(院長)は20年以上毎年花粉症に悩まされていました。2010年から皮下注射によるスギ花粉のアレルゲン免疫療法を自分自身に試してみました。注射は自院の看護師にしてもらいました。

効果はありました。それまで、外出時にはマスクやゴーグルで完全武装、複数の目薬や点鼻薬を2ヶ月くらい使い続けていた私が、スギ花粉の飛散が多い3月になっても薬を使わず、外出時にマスクをしなくても平気になりました。ヒノキ花粉が飛散し出す4月になると多少症状が出るのですが、今までよりずっと軽くて済んでいます。

ただし、覚悟と忍耐が必要でした。最初の頃は打つたびに注射部位が数日間腫れ上がり、痛がゆくて大変でした。

注射回数は1日おきで始め、だんだん間隔をあけ、3年以上経った今でも効果を維持するために2ヶ月に1回くらい注射しています。3年打てば注射を中止しても7年くらい大丈夫だったという報告はあるものの、永久に効果が持続するわけではありません。

舌下投与が始まる

今年、スギ花粉症に対し、舌下に滴下して使うスギ花粉エキス製剤「シダトレン」が発売されます。舌下に滴下して2分間保持し、その後飲み込みます。そのあと5分間はうがい・飲食禁止です。

舌下投与は欧米では何年も前から実施され、有効性は実証されています。

注射は痛いですし、注射のたびに医療機関を受診するのも大変です。舌下投与なら、自宅でできると期待されました。

覚悟と根気強さが必要

舌下投与は自宅でできるのが利点ですが、期待に反しそんなに手軽ではありません。

初回投与は医師の観察下に実施することになっています。後で述べますがアナフィラキシーを起こす可能性があるからです。

治療開始時期は、花粉飛散期が終わってから次の飛散が始まる3ヶ月前まで、つまり6~10月です。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のが人間の常ですから、症状が全くない時期に治療を始める気になる方は少数だと思います。
 

スギ花粉エキス製剤「シダトレン」は新薬なので1年間は2週間分しか処方できません。症状がないのに、命に関わるわけでもない病気のために2週間ごとに通院し続けることは、普通きわめて難しいでしょう。いったん始めても挫折する人が多いだろうとも予想できます。

アナフィラキシーは少ないが

アレルゲン免疫療法で最も怖い重篤な副作用はアナフィラキシーショックです。急性の激しいアレルギー反応で、血管の浮腫、血圧の低下、呼吸困難を呈し、生命の危険さえ引き起こします。

皮下注射の場合には0.13%、つまり800回に1回起こります。これは無視できない頻度です。ただ注射は病医院でするので、対処は医師がしてくれるでしょう。

舌下投与ではアナフィラキシーは起きないのではないかと当初期待されていましたが、残念ながら皆無ではなく、1億回に1回程度起こると見積もられています。注射と違い毎日投与ですから投与回数ははるかに多いことには注意が必要ですが、そのことを考慮してもきわめてまれです。

ただ、舌下投与は自宅でするわけで、もし1人の時にアナフィラキシーが起きてしまったら大変なことになります。幸い、今までのところ死亡例はありません。

また、喘息発作を誘発することがあります。喘息持ちの方は治療自体を受けられません。まれですが消化器症状やじんましんも報告されています。

口腔や唇のかゆみや腫れ

舌下投与では重篤な副作用は少ないものの、高頻度に舌下、口の中、唇がかゆくなったり腫れたりします。程度は軽いことがほとんどですが、それでも不快なことは間違いありません。

副作用の出現により治療が中断することもあり、しかも注射より舌下のほうが中断する率が高いのです。唇が腫れるより腕が腫れるほうが我慢しやすいということではないでしょうか?

3年間継続できるか

アレルゲン免疫療法はすぐ効果が現れる治療ではありません。長期間にわたり治療を継続することが必要で、安定した十分な効果を得るためには3年間は治療を継続することが勧められています。

正直なところ、3年は長いです。海外の論文では1年継続できた人は44%、3年継続できた人は15%だったそうです。8~9割は途中で中断してしまっていることになります。

しかも3年間継続しても中には十分に効果が出ない人もいるのです。さんざん苦労して報われなかったら・・納得できないですよね。

さらに効果が出ても、3年間で治療を終えた後効果が弱まって再び追加治療が必要になる可能性もあります。仕方ないですがつらいですね。

川本眼科では採用しません

当初私は舌下投与法が使えるようになったら患者さんに積極的にお勧めしようと考え、講習も受けて資格を取ったのですが、いろいろと検討を重ねるうち問題点が多数見つかり、現時点では採用しないことにしました。

実際に臨床で使われるようになって、使用成績調査が発表されたら再検討したいと思います。

軽症~中等症くらいの患者さんは安易に手を出さず今まで通り対症療法を受けるほうが無難だと考えています。重症の花粉症なら舌下免疫療法を受けてみる価値はありますが、問題点をよく理解し相当な覚悟で受けることが必要です。

(2014.4)