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川本眼科だより

川本眼科だより 211片目だけ近視が進む 2017年8月31日

もともと左右とも同じ屈折状態の眼だったのに、ある時から急に片目だけ近視が進むことがあります。なぜ左右差が起きるのでしょうか?

環境因子や生活習慣などが原因であれば、右目も左目も条件は同じはずです。不思議ですね。

今回は、片目だけ近視が進むメカニズムについて一部仮説も交えて原因を考えてみます。その上で対策も検討します。

こどもの近視で片目だけ

一般に、こどもの近視は小学生~中学生の間に進みやすいことが知られています。特に小学校高学年くらいの背が伸びる時期に近視が進行しやすいのです。

近視がなぜ進むのかは未だ完全に解明されたわけではありませんが、大規模な疫学調査の結果、近業(近くを見る作業)を続けると進むとか、太陽光のもとで1日1時間以上活動すると近視になりにくいとか、環境因子生活習慣の影響が大きいことが判明しています。

ふつう、こどもの近視は右目も左目も同じように進行します。当然ですね。遺伝も環境も左右でそれほど差があるはずがありません。

ところが、最初は両眼ともほぼ正視だった方で、片目は正視のままなのに、片目だけ近視化することがあります。いったん片目だけ近視になると、そちらの目だけどんどん近視が進行してしまいます。反対側は何年経っても正視のままだったりします。片目だけ近視化した方で反対眼も遅れて近視化して最終的に左右同程度の近視になることはあります。でも、左右差が固定してしまうことのほうが多い印象です。

左右で分業をはじめる

偶然「右目が正視のまま、左目は近視」という状態になったとします。(最初のきっかけが何なのかはよくわかっていません)

その状態では、遠くを見る場合、右目で見たほうがピントが合ってくっきり見え、左目は近視のぶんだけぼけて見えます。無理に両目で見るより右目だけで見たほうが鮮明なのです。

近くを見る場合、正視だと毛様体筋を収縮させてピント合わせをする必要がありますが、近視なら毛様体筋をあまり使わなくてもピントが合います。つまり近視の左目で見たほうが楽をすることができます。正視の右目でも頑張ればピントを合わせられるのですが、人間の身体は楽ができると楽なほうを選ぶのです。

こうして、「右目は遠く、左目は近く」という分業を始めます。そうなると左目では近くばかり見続けることになるため、ますます近視が進みます。右目は遠くばかり見ているので正視のままです。正のフィードバックが働き、ますます分業が有利な状況になって、分業が固定します。

両眼視を犠牲にして楽をする

人間には2つの眼で見た情報を脳で統合して処理する高度な働きがあります。これを両眼視と言います。例えば立体的にものを見ることができるのは両眼視しているからで、両眼視機能が全くない人は3D映画を楽しめません。

左右で遠近分業をしている状態は、余分なピント合わせをする必要もないだけ楽ですし、日常生活ではさほど不自由するわけでもなく、普通に生活ができます。45歳を過ぎて老眼になったとき、両目とも正視の人は近くが見えなくて老眼鏡のお世話になりますが、片目が正視で片目が近視の人は老眼鏡を使う必要がなく便利です。

しかし、分業している時には、当然両眼視はできていません。片目ずつ交代して見ているのです。長い人類進化の過程で獲得した両眼視という高度な機能を犠牲にしていることになります。

対策は早めにメガネ/CL

経験上、いったん左右の度に違いが出て分業が始まると、数年でさらに左右差が大きくなって固定する傾向があります。分業体制が固定してから直すのはほとんど不可能です。

対策としては「左右差が大きくならないうちにメガネやコンタクトを常用する」しかないように思います。放っておくと分業して楽をするので、それを妨害するわけです。

具体的には、左右差が-2ディオプターを超えると食い止めるのが困難になるので、その前にメガネ/コンタクトにしたほうがよいでしょう。

ただ、この場合、片目はほぼ正視で裸眼視力も良好なため、本人は生活に全く困っていなくて、メガネをかける必要性を感じず、メガネを嫌がるのが普通です。親御さんも子供にメガネをかけさせることに抵抗することが多いですね。説得して半ば無理やりメガネを作っても、結局、本人も親も真に納得していないことが多く、「メガネをかけてもかけなくてもあまり見え方が変わらない」と言われてしまい、ほとんど掛けてもらえず失敗することもよくあります。

50歳以降で片目近視進行

50歳以降で片目だけ近視が進む場合は、たいてい白内障が原因です。

白内障では水晶体(レンズ)が濁るとともに厚みを増すことが多く、凸レンズの度が強くなるので近視化するのです。(もっとも白内障では遠視も乱視もありえます)

白内障が原因で近視化が進んで左右差が大きくなった場合、矯正視力が良ければまずはメガネで対処することを考えます。しかし白内障の進行につれてまた度が変わるため、メガネを短期間でたびたび更新する必要があるかも知れません。また、左右差があまりに開きすぎた場合、もはやメガネでは対処できません。近視だけでなく水晶体の混濁が強くなって矯正視力も低下した場合も、メガネではどうにもなりません。

白内障が原因なら白内障手術

白内障は加齢に伴い進行する病気なので、片目近視進行の原因が白内障なら、完全に解決するには白内障手術をするしかありません。

とりあえずメガネを作っても、結局数年で手術になることが多いでしょう。たいてい、いずれは手術せざるを得なくなります。合併症が少なく手術成績が抜群に良い手術であることを考慮すると、早めに手術に踏み切ることが得策だと思います。

左右差がある人の白内障手術

近視の度に左右差がある患者さんの白内障手術をする場合、白内障による近視化が原因なのか、それとも小児期から左右差がある分業型なのか、判断しにくいことがあります。

白内障による近視化なら、手術によって左右差は極力なくします。そのほうが両眼視が回復して遠近感や距離感も改善し、目が疲れにくいのです。

分業型のときは迷います。両眼視機能が十分あるなら、術後の眼鏡処方のしやすさも考えて左右差はなくすことを原則にしています。両眼視が悪い場合、左右分業の便利さを長年享受していた場合には、左右差を残す方法(=モノビジョン※)も選択肢となります。事前によく検討する必要があります。  ※川本眼科だより122参照

(2017.8)