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川本眼科だより

川本眼科だより 217薬をためこむ人 2018年2月28日

薬をたくさん欲しがる患者さんは多く、その気持ちはわからなくはないので、できるだけご希望に添って処方量を決めています。

しかし、その中には薬をたくさんご自宅にためこんでいる方もいらっしゃいます。私が経験した様々なケースをご紹介しながら、薬をためこむことの弊害を考えてみたいと思います。

目薬を1年分ためこんだ人

緑内障で通院中のAさん、いつも目薬を多めに欲しがります。目薬をさすのが下手でこぼすから足りなくなる、と繰り返し、いつも最大限の量を処方して欲しいと希望されました。ご希望に応じて多すぎると思われる本数を処方していました。

1年くらいそういう状態が続いた後、Aさんはぱったり受診しなくなりました。さらに約1年後、久しぶりに現れたAさんに訳を伺うと、「目薬が余っていたから来なかった」とのこと。ええっ?確か足りなかったはずでは??

「目薬が足りない」というのは、目薬をたくさんもらうための口実だったのでしょう。

これほど極端でなくても、多少たりとも薬をたくさんためこんでいる人は多いと思います。眼科だけでなく、内科から出されるのみぐすりでも、同様に薬をためこんでいる人は多いでしょう。

理由は、薬を切らすことへの不安だと推察されます。もちろん、多少の在庫を持つことは、何か問題が起きて受診できなくなってしまった時への備えとして必要だと思います。そのことを咎めるつもりはありません。

しかし、あまりにも多い在庫を抱え込むのは問題が多く、弊害があります。

期限の管理はできていますか

大量の薬をためこんだ場合に、まず心配になるのは「古い薬と新しい薬がごっちゃになってしまい、期限の切れた古い薬を使ってはいないか」ということです。

幸い、目薬であれば点眼瓶1本1本に使用期限が印字してあります。ですから、その気になれば使用期限を確認することが可能です。でも、実際にそんな面倒くさいことができるでしょうか。使用期限の印字は非常に小さな文字で読みづらく、老眼だとルーペを使わないと読み取れません。恐らく期限は無視されていると推察されます。

のみぐすりだと錠剤の1つ1つに使用期限が記載されているわけではありません。恐らくいつもらったか分からなくなっているでしょう。期限が切れた薬も後生大事にためこんであるのではないでしょうか。食品なら賞味期限を気にする人が、なぜか薬の場合は気にしないというのはおかしなことです。

のみきらずに余った薬をためこんで、しかもその薬の使用期限を守るのは、きわめて困難です。

残った薬を適当に使うリスク

薬を使い切らずに余ったとき、「もったいないから取っておこう」という気持ちはとても良く理解できます。しかし、その薬を、いつ、どんな形で使うのでしょうか?

医療機関に受診すれば、そのときの病状に合わせて薬が処方されます。新しい薬をもらったら、家にある古い薬の出番はありません。

予想される使い方は、何か症状が出たときに、受診する時間が取れなくて、手近にある薬を適当に使ってしまう、というものです。いや、これは危ない使い方です。止めて下さい。もちろん、何も問題は起きないかも知れませんし、薬が効くこともありえます。でも、病気が悪化することもありえます。大変なことが起こるかも知れません。

なまじ薬が残っているから使いたい誘惑にかられるのです。残薬は捨ててしまいましょう。

薬を人にあげるのは絶対ダメ

ためこんだ薬を人にあげるという人もいます。

これは絶対に止めて下さい。もし何か問題が起きたら対処できますか?責任が取れますか?

薬によっては病気を悪化させる危険があります。どんな場合に悪化するのか知っていなくてはいけませんし、検査が必要になるかも知れません。

頻度は低くても薬には副作用が出ることがあります。ですから経過観察も必要です。副作用への対処法も知っておく必要があります。

薬を人にあげるのは医療行為そのものであり、責任を伴います。専門知識がなければ怖くてそんなことはできないはずです。

薬は変更されることがある

あたりまえのことですが、薬は病状に応じて変更されるかも知れません。たとえ何年か同じ薬を使っていたとしても、ある日変更されることがあるのです。

例えば緑内障の場合を考えてみましょう。眼圧を下げる目薬を使って治療します。目薬がきちんと効いていればあえて変更することはしません。何年も同じ薬を出し続けることもよくあります。

でも、急に眼圧が上がったり視野が悪化したりすれば、目薬の変更を検討します。その時点で最善を追求するのは当然です。あるいはアレルギーなどの副作用が出現して使い続けることができなくなることもありえます。

目薬を変更しようとすると、「先生、前の目薬がたくさん残っているんだけど」と言われて困惑することがあります。患者さんは目薬が変わることなど全く念頭になくて、せっせとためこんでいたのですね。なるべく患者さんの事情は配慮いたしますが、それで病気が悪化しては本末転倒です。結局、その方は大量の目薬を廃棄する羽目に陥りました。

いざという時のために予備をもつことは構いませんが、薬が変われば無駄になることは覚悟しておいて下さい。

薬が残っていても受診は必要

冒頭で紹介したAさん、薬をいったんためこんだあと、今度は全然通院しませんでした。通院しない間に緑内障が悪化してしまいました。

定期的な通院は薬のあるなしにかかわらず必要です。薬がなくなったから受診するのではなく、受診間隔を先に設定し、それに合わせて必要な量の薬を出すのが本来の姿です。

思い切って薬を処分しよう

薬箱を確認してみましょう。何の薬だか分からなくなった薬はありませんか? いつもらったか不明の薬はありませんか?

そういう薬を適当に使うのは危険です。人にあげるのもダメです。要するに使える場面がありません。捨てるしかないと思います。

自分で何の薬でいつ頃もらったかわかっている薬だけ残し、後は全部処分しましょう。断捨離です。不要な薬を捨てて、すっきりしましょう。

もったいないと思うなら、最初から余分な薬はもらわないようにして下さい。

(2018.2)