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川本眼科だより

川本眼科だより 239最新の老視対処法 2019年12月31日

45歳を過ぎるとそれまで裸眼で良く見えた人たちでも手元が見えづらくなってきます。これが老視(老眼)です。

川本眼科だより 31「老視への対処法」168「老眼と付き合う」で取り上げていますが、最近いろいろと新しい治療法が出てきているので、ここで各治療法をご紹介するとともに私なりに評価してみたいと思います。

遠近両用コンタクトの今

近視の人も、メガネやコンタクトを使う場合は、正視の人と同じように老視に悩まされます。若いうちはメガネのまま近くが見えますが、40歳代後半になるとメガネを外さないと見えなくなり、遠近両用メガネを使う人が増えます。

コンタクトだと簡単に外せないので、コンタクトを装用したまま老眼鏡をかける人が多くなります。コンタクトにも遠近両用があり、コンタクト・メーカーは、近視用コンタクトを使ってきた人たちに遠近両用コンタクトに乗り換えてもらおうと考え、盛んに宣伝しています。

遠近両用コンタクトでは、遠方にピントが合った像と近方にピントが合った像が同時に見えてしまいますが、脳が見たい距離の像を選んで認識するのです。「同時視」と言い、慣れが必要ですし、鮮明さも落ちます。※交代視型という原理の遠近両用ソフトコンタクトは現在販売されていません。

確かに、遠近両用コンタクトは種類が増え、性能も昔より向上していますが、見え方の質の点ではやはり遠近両用メガネに劣ります。つまり「見え方の点で妥協してもよいからメガネは絶対かけたくない」という方に適しています。

モノビジョン法

手術やコンタクト合わせの際に、わざと左右で度を変え、片目は遠くが見えるように、反対側の目は近くが見えるようにする方法です。

老視でもピントが合う範囲が広がるので上手くいくと便利ですが、左右の見え方の違いに違和感を訴えて満足いただけない場合があります。

レーシック・白内障手術などでモノビジョンが試みられていますが、見え方に満足できないときメガネ合わせが難しいことが問題です。手術前から左右差がある場合は成功しやすいです。

メガネでも試みられていますが、メガネで左右の度が違うとものの大きさが違って見えるので、大きな左右差はつけられません。

コンタクトが一番適していますが、遠方の見え方はどうしても悪くなるので、妥協が必要です。

遠近両用の眼内レンズ

白内障手術では濁った水晶体を人工のレンズに取り替えます。これを遠近両用にできれば術後に老視から解放されることになります。

現在は多焦点眼内レンズが一般的です。これは遠近両用コンタクトと同じく同時視型で、多少の欠点はあるものの裸眼で遠くも近くもある程度見えるようになるため、「見え方の点で若干妥協してもよいからメガネはかけたくない」という方に喜ばれています。

調節眼内レンズという、水晶体が本来持っているピント調節機能を持たせた眼内レンズは眼科医の夢です。以前登場した製品は性能が悪く、姿を消しました。しかし最近海外では各社からいくつも試作品が登場し、臨床試験も始まり、学会発表もされているそうです。近い将来日本でも使えるようになるのではないでしょうか。

将来遠近両用眼内レンズの性能が向上すれば、白内障が軽くても、あるいはまだ白内障になっていなくても、老視対策として手術する時代が到来するかも知れません。将来、老視対策の決め手となる可能性を持った方法だと言えるでしょう。

角膜手術で老視を軽くする

眼にはもともと角膜・水晶体という2枚のレンズがあります。角膜を手術して老視を治せないかと様々な方法が試みられてきました。

老視レーシックは、角膜をレーザーで削る際の照射方法を工夫することで 遠近両用コンタクトと同じように遠方と近方の両方にピントを合わせようという方法です。同時視になるので、遠方の見え方は通常のレーシックより落ちます。

角膜を電気で凝固し、角膜形状を変化させて近方の見え方を改善させる方法もあります。米国ではFDAが認可したそうです。

角膜にインレーという黒いリング状の器具を埋め込み、ピンホール効果で近方視を改善させる試みもあります。効果は弱く、お勧めしません。

いずれの方法も日本では普及していません。

サプリメントの効果は?

最近、「えんきん」という名前の機能性表示食品が売り出されています。二重盲検による臨床試験もして効果を確認したそうです。

しかし、配合されているのはルテイン・アスタキサンチン・DHA等で私も健康に良いと知っている成分ですが、これでなぜ老視に効くのか私には納得がいきません。広告では黄斑色素を増やすからぼやけを緩和するというのですが、老視の主原因は毛様体筋の衰えや水晶体の弾性低下とされていて、黄斑の問題ではないというのが一般的な考え方です。

そもそも機能性表示食品というのは、あくまでも食品で薬ではありません。特定保健用食品(トクホ)には厳しい認定基準があって、国が食品ごとに効果や安全性を審査していますが、機能性表示食品は必要な書類を消費者庁に届ければ審査はありません。つまり、一般論として、薬としてはもちろんトクホとしても認可されそうもないものが、機能性表示食品として世に出ている可能性が高いことに注意する必要があるでしょう。

今でも王道はメガネ

いろいろな方法をご紹介してきましたが、やはり今でも老視にはメガネで対処するのが一般的だと思います。

メガネの利点は、最も精密に度を合わせることができること、屈折度数の変化があっても簡単に対処できることです。手術ではメガネほど正確に合わせられないし、度が変わっても再手術というわけにはいかないのが普通です。

メガネは煩わしいと感じるかも知れませんが、使っていくうちに慣れるものです。メガネを上手に使いこなしましょう。

(2019.12)