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川本眼科だより 252眼内レンズを選ぶ   ~保険で使える多焦点レンズ~ 2021年1月31日

白内障手術では、濁った水晶体を眼内レンズに取り替えます。種類がたくさんあり、手術前に患者さんのご希望を伺った上で、様々な条件を勘案して最適なレンズを医師が選んでいます。

昨年1年間で私が一番多く選んだ眼内レンズはレンティス・コンフォートという眼内レンズです。このレンズの長所と短所をご紹介いたします。

正視にするか近視にするか

白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、その代わりに人工の眼内レンズを挿入します。眼内レンズの度数を手術前に決めます。患者さんは希望を訊かれます。「遠くが見えるようにしますか、近くが見えるようにしますか」と。

遠くに合わせる=ほぼ正視を狙う です。もともと正視や遠視の方は正視を狙うことをお勧めします。

正視なら、1mより遠くはメガネなしでよく見えます。2mも10mも1km先もすべて大丈夫です。読書や事務作業以外は、テレビを見るにも、壁のカレンダーを見るにも、階段で足元を見るにも、正視が便利です。50cmより短い距離は見えないので、老眼鏡が必要になります。

近くに合わせる=近視を狙う です。もともと強い近視の方は弱い近視にすることをお勧めします。そのほうが便利に感じるようです。

近視はデスクワークには便利です。ただ近視の場合、20cm, 30cm, 40cmで度が違います。針に糸を通すのと本を読むのとパソコンを使うのは同じ度ではありません。近視を狙う時にはどの程度近視にするか考えなければなりません。

私は近視狙いの場合でも、比較的弱めの近視を狙うことをお勧めしています。40~50cmくらいにピントが合う程度です。現在の新聞は活字が大きくなっているのでそれで十分読めますし、遠くはぼやけてはいますが、家の中くらいならメガネを外していても日常生活を送ることができます。多くの人で無難な選択になります。

遠視を狙うことは原則としてありません。高齢者や手術後は調節力がなく、遠視では近くも遠くも見えづらくなり、利点がないからです。

なお、眼内レンズは度数を狙った通りにぴったり合わせることはできません。ずれた分はメガネで矯正します。

多焦点レンズの利点と欠点

ここまでの話は「単焦点眼内レンズ」の場合です。これに対し、遠くも近くも裸眼で見たいという要望に応えるのが「多焦点眼内レンズ」です。

多焦点レンズは自費になるので高価ですが、メガネが嫌いでかけたくない方に適しています。

ただ、眼内レンズの度はメガネほど正確に合わせられませんし、手術直後にぴったりでも時間が経てば多少は変わります。つまり多少の妥協が必要で、神経質な人には向いていません。見え方を追求するなら、単焦点レンズにしておいてメガネをしっかり合わせたほうがよく見えますし、度が変わってもメガネを替えればすみます。

さらに、多焦点レンズ特有の欠点があります。
グレア(光が放射状に散ったように見える)、
ハロー(強い光のまわりに暈状の光が見える)、
ワクシービジョン(なんとなくぼやけて見える)などです。これが苦になって結局単焦点レンズに取り替えた人さえいるのです。

上手くいけば「夢のメガネなし生活」が手に入りますが、下手をすると「大金を払ったのにどうも見え方が不満で気持ちがブルー」なんてことになりかねません。多焦点レンズの利点と欠点をよく理解していただける方に、過剰な期待を抱かないように念押しした上で選びます。

レンティス・コンフォート

レンティスコンフォートは多焦点眼内レンズの一種で2019年に発売されました。他の多焦点眼内レンズとはずいぶん趣の異なるレンズです。専門的には「低加入度数分節型2焦点レンズ」というのですが、構造や技術の解説は省きます。

多焦点=遠近両用とは言っても、レンティスは遠方から中間距離くらいまで見える程度です。細かい文字は老眼鏡のお世話になると覚悟してください。もし老眼鏡なしで済めばラッキーです。

その代わり、多焦点レンズの欠点であるハローとかグレアとかワクシービジョンはほとんど起こりません。私はこの点を高く評価しています。

そして、何より素晴らしいのは、このレンズは健康保険で使えるということです! 手術当日の自己負担額は1割負担で約2万円、3割負担で約6万円で済みます。他の多焦点眼内レンズを使うと片目15~30万円の差額を払う必要があります。それだけ差額を払うと期待が大きくなりすぎて、術後失望することもありがちです。

正視狙いでは標準レンズに

正視狙いの場合、私はレンティスコンフォートを第一選択にしています。メガネなしでもある程度近くが見えるのはやはり便利だと思うからです。過剰な期待を持たず、必要な時には老眼鏡や遠近両用メガネを使うと割り切り、単焦点レンズの一種であると考えればよいのです。

ただ、このレンズはやや特殊な形状をしていて手術の際に挿入しにくいので、あらかじめ通常の単焦点レンズも用意して、手術時の術者の判断でどちらを挿入するか決めています。ご了解下さい。

また、レーザー治療や硝子体手術等の可能性がある場合や、挿入困難が予想される場合にも避けています。条件が整っていないと使えません。

約1年間、第一選択のレンズとして使ってみて結果は上々です。患者さんの満足感も高いですし、術後老眼鏡を使っていないという人も予想以上に多かったです。良い眼内レンズだと思います。

近視狙いで使うことも

近視狙いでレンティスコンフォートを使うこともあります。中間距離から近方まで見えるレンズとして使えます。

さらに、左右で若干度をずらし、右目は正視狙い、左目は弱い近視狙いにして、遠方から近方まで見えるようにする方法もあります。ただ、これは上手くいけば快適なメガネなし生活を実現できますが、誤差が出て上手くいかなかった時には、メガネの度を合わせづらいという問題があります。

近視狙いで使ったケースはまだそれほど多くはありませんが、実用上問題はないようです。

術後のメガネ合わせに注意

レンティスコンフォートは、オートレフという機械で屈折(近視や遠視や乱視)を測定すると近視寄りにずれてしまうという問題があり、測定結果が必ずしもあてになりません。眼鏡店はオートレフに頼ってメガネの度数を決めていることが多いので注意が必要です。眼鏡店で対応が困難な場合には川本眼科で眼鏡処方箋を出します。

(2021.1)