川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 254まぶたをめぐる攻防 2021年3月31日

診察のときには瞼にさわる必要が出てきます。その際、患者さんが目を閉じてしまい、観察できないことが結構あります。医師は、なるべく痛くないように、かつ、きちんと所見が取れるように、患者さんお一人お一人に合わせて工夫して診察しています。

医師が診察しやすいようにご協力いただくとありがたいです。

目を閉じてしまう方が多い

眼科医は眼を観察したいので、なるべく大きく目を見開いていただくのが理想です。けれども、実際には目を半分くらい閉じてしまう方が多く、中には貝のように強く閉じてしまう方もいます。

もちろん目を閉じられては眼科の診察はできません。なんとかしようと眼科医は悪戦苦闘します。

原因はいくつかあります。

第一に、患者さんが緊張しているせいです。緊張しすぎると自分の体でも上手くコントロールできなくなります。リラックスするよう声かけいたしますが、緊張はなかなか取れません。

第二に、まぶしいせいです。診察のために強い光を当てますから当然まぶしいし、特に瞳孔を開いた場合はさらに何倍もまぶしく感じます。光量を絞って対処しますが、あまり光量を絞りすぎると良く観察できません。難しいところです。

第三に、片目をつぶってしまうせいです。右目を診察しようとすると左目をぎゅっと閉じてしまう方のなんと多いことか! 片目をつぶると反対側の目も一緒に閉じてしまうのです。「両目を開けてください」とお願いしても、やっぱりできない方が多いですね。

瞼(まぶた)をさわると目を閉じる

眼科医は目を開けようと触ります。触られると反射的に目を閉じようとするのは、大事な目を守ろうとする本能的な反応なので、いたしかたないことではあるのですが、眼科医は目を開けていただかないと診察ができません。そこで力を入れて目を開けようとします。患者さんはそれに抵抗してさらに強く目を閉じます。こういうバトルは毎日しょっちゅう起きています。

瞼をこじ開けようとすると当然ですが痛いです。力を入れず眼科医に身を任せていただくのが一番痛くないのですが、そのことをご説明しても体が思い通りにならないようです。

また、患者さんが目を閉じようとすると眼球は上を向きます(上転)。大事な目を守るために安全な位置に退避させようとするのだと言われています。上を向いてしまうと観察したい部位が隠れてしまいます。正面を見ようとしても勝手に目が動いて眼球の位置が不安定になります。

さわらずに診察する

仕方がないので、瞼を触ると目を閉じてしまう場合は、触らずにご自分で両目を見開いていただくようお願いをします。そのほうが結果的に大きく開瞼していただけることが多いのです。その上、眼球が上を向くことがないので、診察には好都合です。

この方法は大人でも子供でも結構成功します。無理やりこじ開けるのは痛いですから、ずっとスマートなやり方です。

ただ、高齢者では瞼が下がっていて努力して目を開けても黒目が半分くらい隠れていることもあります。そういう場合はやっぱり医師が指で開くしかありません。

また、短時間しか目を見開いていられないこともあります。写真撮影が必要な場合には、一瞬しかシャッターチャンスがなかったり、撮った写真がぶれたりします。

こどもの診察では

こどもが泣いて目をつぶってしまうとほとんど診察はできません。泣かせないように優しく接します。声かけが大事で、警戒心を取ってやることができれば上手くいきます。少し離れたところから肉眼で観察します。充血しているとか、めやにが出ているとかくらいはわかりますし、声のするほうを目が向くかどうかも大事な情報です。

手で患者さんの片目を隠してみます。もし片目だけ視力が極端に悪い場合、見えづらい目を隠しても平気ですが、良く見えるほうの目を隠されると極端に嫌がります。

機械を使って拡大して観察するときも、最初はさわらずに見ます。声かけを続け、それで安心するとさわるのを許してくれます。3歳になるとかなり聞き分けてくれるようになりますし、5歳になればたいてい普通に診察できます。2歳くらいが一番厄介で、最初から最後まで泣き続けて何も見せてもらえないこともあります。

力任せは禁物です。力任せに瞼をこじ開けられて痛い思いをすると、次回以降それを覚えていて診察に協力してくれなくなります。

瞼をひっくり返す

診察のため瞼をひっくり返すことがあります。患者さんに下方を向いてもらえば普通は簡単ですが、アイメイクしてあるとためらいます。きれいに化粧しているのにひっくり返せばマスカラが剥がれます。時にはまつげエクステがしてあることもあり、エクステが取れないかヒヤヒヤします。

協力が得られなくて強く瞼を閉じてしまうと瞼をひっくり返すのは至難の業です。無理やりひっくり返そうとすると痛いのでますます強く力を入れてしまう結果となります。こういうときは力を入れないように説明してから再トライします。それでもダメなら無理せず撤退します。

二重まぶたの手術がしてあってひっくり返しにくいこともあります。ひっくり返すときに痛いですし、ほとんど不可能な場合もあります。

診察がしづらいまぶた

奥目の方では診察がしづらかったり、手術がしづらかったりします。生まれつきの顔貌が最も関係するでしょうが、年齢の影響もありますし、一部の緑内障用点眼液の影響もあります。

アトピーの方ではまぶたの変化が見られます。固くなっていて、ひっくり返すのは難しいことがあります。眼圧も測りづらいことがあります。

まぶたが腫れている時も診察は難しくなります。アレルギーで腫れる、ものもらいで腫れる、ケガのために腫れる、などの場合です。程度が軽ければ普通に診察できますが、腫れがひどくなると瞼をひっくり返すことができないどころか、目を開けることも困難な場合があります。後日腫れが引いてから診察するのが無難ですが、眼球破裂の疑いがあるなど緊急性が高い場合はたとえ痛がっていても何とか診るしかありません。

(2021.3)