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川本眼科だより

川本眼科だより 278タバコ・喘息と目 2023年3月31日

全身と目はもちろん関係していて、糖尿病のように直接目に影響する場合は眼科医も常に注意を払っています。しかし、直ちに影響が出るわけではない問題については、眼科医も内科医もあまり気にしていないことが多いと思います。

今回は、タバコや喘息と目の関係について取り上げることにしました。たぶん患者さんも関係があるとはご存じないと思いますので。

タバコは加齢黄斑変性を起こす

タバコが呼吸器系の病気や様々ながんを引き起こすことはよく知られています。実は、タバコは目にも悪影響があります。

とりわけ、タバコが加齢黄斑変性を引き起こすことは重大な問題です。目への血流が悪くなり、活性酸素や有害物質がダメージを与えるためだと言われています。タバコを吸う人は吸わない人より2~3倍も加齢黄斑変性になりやすいのです。

この病気は難治で、治療のため何度も眼球への注射を繰り返さなければならず、失明率も高くて日本では失明原因の第4位です。

予防法はまず禁煙です。禁煙すれば徐々に発症リスクは下がっていきます。ただ非喫煙者と同じレベルまで下がるには10年くらいかかります。

タバコは白内障を進行させる

タバコは白内障の進行リスクを2~3倍上げると報告されています。原因としてはタバコが水晶体に酸化ストレスを与えるせいではないかと言われています。ビタミンCやEなど抗酸化作用のあるサプリは喫煙者には予防効果があるかも知れません。きちんと証明されてはいませんが。

タバコとその他の眼底疾患

タバコは目の血管(網膜や脈絡膜の血管)に対して悪影響があると考えられ、糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症・虚血性視神経症など多種多様な眼底疾患の危険因子にもなっています。

緑内障でもタバコが悪化因子になっているという報告があります。

タバコの悪影響はビックリするほど広い範囲に及びます。禁煙はつらいですからタバコを吸い始めないことが大事です。

抗コリン薬が使えない緑内障

慢性気管支炎や肺気腫は現在では同じ病態と考えられ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼びます。世界の疾患別死亡順位第3位の怖い病気です。COPDの原因の9割はタバコです。。

COPDの治療にはスピリーバ、シーブリ等の長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の吸入薬が使われます。効果が長続きし、全身への副作用が少ない優れた薬なのですが、実は抗コリン薬は閉塞隅角緑内障の人では急性緑内障発作を起こす危険があるので使えません。

若い頃にタバコを吸っていたせいで肺の病気になり、その治療薬で緑内障発作を起こすなんて、一般の人は知らないですよね。

喘息治療が目に与える影響

喘息治療では副腎皮質ステロイド薬を使います。昔はステロイドを内服など全身投与しており、時に眼圧上昇を起こすことがありました。

現在では吸入ステロイド薬が広く使われ、眼圧上昇はほとんど心配なくなっています。

それでも、喘息の子どもでは眼圧が高い傾向があるそうです。はっきり証明された訳ではないのですが、一般的に子どもはステロイドに反応して眼圧が上がりやすいとされているので、吸入薬といえども影響はゼロではないのだろうと私は考えています。

緑内障の目薬で喘息発作

緑内障の目薬はたくさん種類があります。そのうちチモロールとかカルテオロールという目薬はベータ遮断薬と呼ばれ、眼圧を下げる効果も高く、さし心地も良いので、よく使われています。他の緑内障薬と配合した目薬になっている製品も数多くあります。ラタチモ、トラチモ、ミケルナなどです。

ベータ遮断薬の目薬を喘息の人に使うと発作を起こす危険があります。目薬ぐらい、と思われがちですが、目薬の薬物濃度は結構高く、全身に吸収されると影響する場合があるのです。

もちろん目薬をさすたびに必ず喘息発作が起きるわけではありません。だから気づかれにくいのです。でも意外に頻度は高いようです。

眼科医と内科医と患者さん

眼科医は喘息のことを知らずにベータ遮断薬を処方、患者さんはまさか目薬と喘息が関係あるとは思わず、内科医は最近発作の回数が増えたとは気づいていても目薬が原因とは思い至らない・・こんな構図のことが多いようです。

喘息も程度は様々ですし、子どもの頃とか一時期だけ喘息だったが今は発作は起きていないという方も多いわけです。迷いますよね。

内科医に使用の可否をコンサルトすることも考えられますが、内科医なら全員が喘息の専門家というわけでもなく、ベータ遮断薬の問題を全くご存じない先生もいらっしゃいます。

今症状がなくても、過去に喘息だった方は予備能力が低いと考えられ、ベータ遮断薬が喘息再発の引き金になる可能性もあるわけです。実際にそういうケースがありました。ですから、私は喘息と分かれば禁忌と考えて一切使用しません。

長年ベータ遮断薬を安全に使えている場合でも注意は必要です。高齢になると呼吸器系の機能が衰えますから、新たに喘息を発症することもあります。そういう時はベータ遮断薬を中止することになります。

目には無関係と思わないで

患者さんは内科の問題など目には関係ないだろうと思いがちです。時にはわざと内緒にする方もいらっしゃいます。

確かに、目とはあまり関係ないことも多いのですが、意外なところで関係がある場合もあります。喘息の問題など初めて知ったという方も多いと思いますし、そのほかにも心臓や肺や泌尿器の病気が関係することもあります。抗癌剤が目に影響することもあるのです。

新しく他科で治療を始めたときは病名を教えていただけると助かります。それからお薬手帳もできるだけ毎回御持参ください。参考になります。

(2023.3)