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川本眼科だより

川本眼科だより 284多焦点レンズを選ぶなら 2023年9月30日

白内障手術を受けるときに気になるのは多焦点眼内レンズです。魅力的な選択肢に見えますが、レンズ代差額分が自費になるので片目30万円くらいも余計にかかってしまいます。それだけ払う価値はあるのでしょうか? もし多焦点レンズを選ぶならどのレンズが良いでしょうか?

多焦点レンズの利点・欠点

単焦点眼内レンズが30cmとか2mとか特定の距離にしかピントが合わないのに対し、多焦点眼内レンズは2つとか3つとか複数の距離にピントが合うようにしたレンズ、つまり遠近両用のレンズです。便利ですよね。

でも、多焦点レンズにも欠点があるので、一概に多焦点が良いとは言えません。多焦点レンズはコントラストが少し低下するとか、夜強い光を見るとハロー(輪のように暈を被る)、グレア(光がにじむ)、スターバースト(放射状に光が走る)などの現象が起きます。これがどの程度不快に感じるかは個人差が大きく、普通は許容範囲でそんなに気にならないのですが、一部の人では我慢ができないと言います。中には結局単焦点レンズに取り替えた方さえいるのです。

夜の運転をやめてもよいか

ハローやグレアは家の中の生活ではまず問題になりませんが、夜暗くなったときに感じやすく、看板だの信号だのが見えづらくなります。つまり夜の運転が一番問題になりやすいのです。

ハローやグレアが多少あっても夜の運転に支障がない人は多いですが、夜運転できなくなる可能性もあります。プロの運転手さんなど夜の運転が必要な方は単焦点を選択したほうが無難です。

メガネが嫌なら多焦点を検討

多焦点レンズの目的は「メガネなしで日常生活を送ること」です。確かにそれが実現できたら素晴らしいと思います。でも、メガネをかけることに何ら抵抗がないならこだわる必要はありません。

そもそも、眼内レンズの度数合わせはメガネの度数合わせほど精密にはできません。昔に比べれば正確になったとは言え、ピッタリとはいかないのです。単焦点レンズにしておいて、術後正確にメガネを合わせたほうが良く見えます。

もっと言えば手術後も屈折度数がいくらか変化していくことは十分可能性があります。メガネならレンズを交換すれば済みますが、眼内レンズは簡単に交換することはできないので、少し見えづらくても裸眼で我慢するか、あるいはメガネが嫌でも仕方なくかけるかの選択になります。

また、一般に加齢とともに瞳孔が小さくなりますが、多焦点レンズはある程度瞳孔が開いていることが必要なので、何年かたつと手術直後より見え方が落ちるかも知れません。眼内レンズが完全に瞳孔の中心に位置していることも必要で、もし位置がずれると本来の性能は発揮できません。

多焦点レンズは、「見え方の点で若干妥協しても良いからメガネなしの生活を優先する」という方に向いています。神経質な人には向きません。

レンティス、アイハンス

レンティス・コンフォートとアイハンスは保険で使えるプレミアムレンズで、遠くから中間距離まで見えます。近くは老眼鏡が必要です。ハローやグレアがほとんど出ないのも利点です。

レンティス・コンフォートのほうが近くまで見えます。川本眼科だより252 で詳述しました。術後メガネなしで過ごせる人もいます。ただ特殊な形をしていて目に挿入しにくいので、術者の判断で通常の単焦点レンズにすることがあります。

アイハンスは通常の単焦点レンズと同じ感覚で使えます。眼底疾患など何か合併症がある場合でもこのレンズなら使えることが多いです。

私ならどうする?

多焦点レンズのマイナスの面をたくさん申し上げてきました。高いお金を払う以上期待値も大きくなりがちで正確な理解は欠かせませんから。

しかし、メガネなしで生活できるというのは非常に大きなメリットです。私は欠点もよく理解していますが、自分がもし今手術を受けるとすれば多焦点レンズを選ぶつもりです。

お金は・・まあ気にしません。

夜の運転はしたいですが、仮にできなくなっても昼間運転できれば良しとします。どうせ75歳くらいになれば夜の運転は諦めたほうが良いし。

多焦点にしたのにメガネが必要になったら残念ですが、そういうこともあるさと割り切ります。

シナジー、パンオプティクスがお勧め

どうせ多焦点レンズを選ぶなら、遠くも近くも中間距離も見えるレンズがお勧めです。シナジーは「2焦点+焦点深度拡張型」のレンズで、パンオプティクスは「3焦点」のレンズですが、どちらも遠くから近くまで連続的にピントが合います。2焦点型なら10万円くらい安いですが、中間距離が見えづらく、今となっては型落ちの旧製品という感じで選ぶ気がしません。

両方とも乱視矯正用のレンズがありますし、暗いところで瞳孔が開いても見え方が落ちないように設計されていて、今までの多焦点レンズの欠点を克服しています。

シナジーのほうが若干近くまで見えます。シナジーは35cmまで、パンオプティクスは40cmまでです。たったの5cmですが、細かい字を読むには5cmの違いは結構大きくて、デスクワークが多いならシナジーが有利だと思います。特にもともと近視の方は目を近づけて見る習慣があるので、40cmでは不満を感じるかも知れません。

パンオプティクスはハロー・グレアがシナジーよりは少なめです。夜の運転にはシナジーより良いわけですが、夜の運転が大事なら多焦点よりもレンティスか単焦点を選ぶのが無難です。

まとめ

メガネが苦でなければ単焦点で問題なし。メガネをかけたくなければ多焦点を検討。

多焦点は片目30万円くらいかかる。

多焦点はハローやグレアなどの欠点があって、夜の運転ができなくなる可能性がある。

多焦点を今選ぶなら遠くから近くまで連続的に見えるシナジーかパンオプティクスがお勧め。

シナジーはパンオプティクスよりも少し近くまで見えるが、ハローやグレアは少し強い。

レンティスやアイハンスは保険の範囲で使える。遠くから中間距離まで見える。レンティスのほうが近くまで見える。ハローやグレアは少ない。

(2023.9)