川本眼科だより 303薬の供給不足 2025年4月30日
最近、多くの医薬品が供給不足となり、手に入りにくくなっています。医薬品の卸は薬が不足すると出荷調整をします。そうなると薬局が注文してもすぐには入荷されません。眼科でも日常診療に差し支える事態となっています。
ドライアイの目薬が出荷制限
ドライアイの目薬は眼科で最もよく使われる目薬だと思います。患者数も非常に多いですし、長期間にわたって目薬を使い続けなければならないことが多いので、どの眼科でも毎日たくさん処方します。
この目薬が足りなくなって、いつも使っている目薬が処方できない事態となりました。
きっかけはジクアスLXという目薬が昨年5月に供給停止になったことです。一部ロットで防腐剤(硝酸銀)の濃度が基準値以下に低下していたため自主回収するとのことでした。短期間で供給再開されると思っていましたが、約1年たつ今も出荷停止のままです。
別の目薬に変更しなければなりませんが、代わりの目薬もたちまち足りなくなってしまい、ドミノ倒しのように次から次へと出荷制限が始まり、ついにはドライアイの目薬ほぼすべてが出荷制限となってしまったのです。ふつう薬局が薬を注文すれば半日くらいで納品されるのですが、出荷制限となると何日も待たされたり、注文数より大幅に少ない数しか納品されなかったりします。
川本眼科も大きな影響を受け、薬局に薬の在庫を問い合わせながら、患者さんに薬の変更をお願いしたり、処方する本数を少なくしてもらったりしました。薬の入荷状況をにらんで綱渡りの状況が続きました。
ステロイドの目薬が出荷制限
ようやくドライアイの目薬がふつうに供給されるようになったと思ったら、今度はステロイドの目薬が不足して出荷制限となりました。
ステロイドは炎症を抑えるのに有効な薬でいろいろな病気に幅広く使われ、医療のどの分野でもなくてはならない薬です。眼科では目薬のステロイドがよく使われます。
昨年の秋くらいから点滴用ステロイドが不足しているという話は聞いていたのですが、工場の生産ラインの問題だということで、点滴はほとんど使わないし目薬には関係ないだろうと気にしていませんでした。
ところが、ある日急に目薬のステロイドも不足し始めました。原料の入手難だとか一部メーカーの工場改修だとか、複数の原因が重なったせいらしいです。運悪く花粉の飛散量が急に増えた時期でして、かゆみに対して即効性があるステロイドの目薬がなくなりそうになって大変でした。
使いたい目薬が在庫切れの場合は他の目薬に変更して処方していましたが、副作用が強いものを使わざるを得ない場合もありました。
さらにステロイドの眼軟膏も入手困難になっています。これもよく使う薬で、ないと困ります。
供給不足の原因は?
以上は昨年から今年にかけて起こった事例ですが、内科などでも薬の供給不足はたびたび起こっています。しかも慢性化・長期化しています。
今回きっかけになった問題はささいなことです。それにしても、1つの製品の供給が止まったくらいでドライアイの目薬すべてが出荷制限になるのでは安心して診療できません。
他社が代替品を速やかに供給できればすむ話ではないでしょうか。それができないのは、在庫が十分にはなくて、かつ、いざという時に増産することができないからです。すばやく増産できるよう、メーカーは供給体制を整えてほしいし、国はそのための環境整備をしてほしいところです。
後発品メーカーは弱小
国は、増加し続ける医療費をなんとか抑えようとして、薬を後発医薬品(ジェネリック)に移行させる政策を推し進めてきました。昨秋には「後発品があるのに先発品を使う場合は特別料金を払え」という強硬手段を発動して、これで後発品への移行は一気に進みました。
問題は、後発品メーカーがたいてい規模が小さく生産量も少ないことです。要するに余力がありません。工場の設備も古かったりしますが、そもそも後発品価格は低く抑えられているので儲けは少なく、なかなか生産ラインを新しく更新する資金的余裕はありません。これでは状況に応じて柔軟に増産することはできません。それに製造工程でトラブルが起こる可能性も高く、実際に工場が稼働停止になったこともあります。
先発品から後発品に移行するということは、体力のない弱小メーカーに生産を委託するということですから、安定供給に問題が起こりやすくなります。医療費圧縮のために多少は我慢すべきだと思いますが、今回のように診療上不可欠な基本的な薬まで供給不足になるようでは困ります。
先発品メーカーが安定供給に果たした役割を評価すべきだと思います。
海外からの輸入に依存
日本は薬をたくさん輸入しているそうです。完成品だけでなく、薬になる前の原料や中間生成物の輸入も多いと聞きます。
その結果、「海外の工場でトラブルが起きた」とか「海外で原料が入手できなくなった」とか、輸入がストップして薬が供給されなくなる事態が頻発しています。
国産メーカーにも頑張ってほしいところですが、輸入に頼らざるを得ないなら、安定供給のために備蓄する必要があるのではないでしょうか? 原油とか食料と同じです。国民の健康を守る安全保障です。民間企業は採算しか考えませんから、国が主導する必要があるでしょう。
低薬価政策は見直しを
もちろん薬は安いほうがありがたいのですが、必要な時に手に入らないのは困ります。
古くからある薬ほど薬価が引き下げられていますが、その中には必要不可欠な大事な薬が含まれています。特に後発品では薬価が安すぎて採算割れしてしまい、設備投資がされず、設備の老朽化により生産を停止する事態が起きています。
製薬会社が生産を継続する意欲がわく程度の薬価にはしてほしいものです。近年数多く登場した超高薬価の新薬に比べれば安いものです。
(2025.4)