川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 5ウインクはダメよ 2000年7月31日

診察の時、どこを見ていればいいのですか。

 

「真正面を御覧下さい」と言われますが、真正面ってどこですか。光が来る方向ですか。

 

見る方向を、右、左、と指示されますが、左右がわからなくなってしまいます。

片目をつぶると眼球は上を向く

右目を診察しようとすると、多くの患者さんは左眼をぎゅっとつぶってしまいます。

目を触られると痛いのではないかと不安を感じるので、無意識のうちに目を閉じようとするのでしょう。光をあてるとまぶしいので反射的に閉じる、ということもあるでしょう。

意識して片目をつぶる方もいらっしゃいます。必要な側の目だけをよく診てもらおう、という心理の現れでしょうか。

眼科医の立場からすると、ぜひ両目とも開けておいていただきたいのです。

なぜかと言うと、人間の眼球は、まぶたを閉じると上を向くようにできていて、しかも両目が連動しているからです。片目をつぶると診察中の目も上を向いてしまいます。

また、片目をつぶると、もう片目のまぶたにも力が入って、大きく開けることができません。

眼科の診察・処置のときは、つねに「両目とも大きく開ける」のが原則です。検査でも、診察でも、処置でも、手術でも、すべて両目を大きく開けましょう。手術の時には片目は布で覆われてしまっていますが、それでも両目とも開けたほうがいいのです。

眼科ではウインクしてはいけないのですね。

正面遠くをぼやっと眺める

眼科では、目を観察するための低倍率の顕微鏡を使います。正式名称は精密細隙灯(せいみつさいげきとう)です。ふつう、スリットランプと言っています。照明で目を照らしながら、拡大して観察することができるのです。

この顕微鏡で観察しているとき、「どこを見ていればいいですか」と質問されることがあります。患者さんにとっては何気ない一言なのでしょうが、厳密に考えると答えるのが難しい質問です。

顕微鏡で観察するとき、患者さんの目はなるべく動かないほうがよいのです。黒目が中央にあって動かない、というのが理想です。(目を動かしていただくことも5%くらいはあります)

その場合の正面は、まあたいていの場合は対物レンズの位置でそう間違いありません。斜めからあてている照明のほうを向いてしまう方が結構いらっしゃいますから、「正面にあるレンズを御覧下さい」で方向を訂正してもらうわけです。

ただ、厳密には「レンズを見る」というのも間違いです。

レンズは目のすぐ近くにあるため、患者さんがレンズを見ようとすると、寄り目になってしまうからです。寄り目ではなく両目ともほぼ正面を向いていたほうがよいのです。

それに、近くを見ようとすると瞳孔の大きさも変わってしまいます。

顕微鏡のどこかを見ようとすると、どこを見ても同じ問題がおこります。

どこかを見ようとするなら、なるべく遠いところを見るのがよいわけです。そこで医師の後ろ側にある壁を見るように指示することもあります。

しかし、患者さんにとってみれば、目前には顕微鏡が迫っているし、医師の姿もあるわけで、壁を見るのは難しいのではないでしょうか。本当に壁を見ようとすると、医師の肩越しに見ようとしなければならず、「正面」より上目づかいになってしまいます。

医師の顔を見るよう指示することもあります。しかしこれも考えものです。

診察のとき、医師は見たいところに顕微鏡を動かしていきます。真ん中ばかりではなく、黒目のはじを見たり、白目を見たりすることもあります。このとき患者さんが目を動かさないでいただきたいのです。医師の顔を一生懸命見ようとすると当然目が動いてしまい、困ったことになります。

従って、「どこも見ようとはせず、まっすぐ正面、遠くの方をぼやっと眺めるつもりでいて下さい」というのが正解だと思います。

もっとも、それほど難しく考える必要もありません。何も考えず、強いてどこかを見ようと努力せず、ぼんやりしていただければ、だいたいこちらの希望する状態になっているからです。

ただし、目はできるだけ見開き、意識してまぶたを開けておいて下さい。

正面は医師の背中の壁

「正面というのはどの方向ですか」という質問も結構あります。患者さんと医師が正面から向き合っていれば正面というのは明らかだと思いますが、医師は診察のため右からのぞき込んだり下のほうから見上げたりしますから、確かにどちらが正面かわからなくなりますよね。

「正面」は医師の後ろにある壁のほうとお考え下さい。つまり、医師が体を動かしても「正面」の方向は変わらないのです。

照明の方向を「正面」と勘違いされている患者さんもいらっしゃいます。照明は斜めからあてているので、照明を見ようとすると目が外側に寄ってしまいます。

右左は患者さんからみて

眼底を見るときは、患者さんに目を動かしていただく必要があります。

「真上を御覧下さい・・右上を御覧下さい・・右横・・右下・・・」というわけです。

このとき左右がわからなくなってしまうことがあります。この場合の左右は、あくまでも「患者さんからみた左右」です。「右」と指示されたときはご自分の右手の方を見ればよいのです。

それから、眼底をみるときは、ふつう、「時計まわりに1回転」していただきます。突然とんでもない方を向いていただくことはほとんどありません。(もっとも何事にも例外はありますが・・・)

左右を間違える方は多いので、完全に反対のときは、こちらもすましてそのまま検査を済ませてしまうこともあります。完全に反対なら別に支障はないのです。困るのは、右を見たり左を見たりすることです。

それから、「右を御覧下さい」に対して、一瞬チラッと右を見てすぐに元に戻してしまう患者さんがいらっしゃいます。右なら右を見た状態で5秒程度は目を動かさないでいただきたいのです。そうでないと観察する時間がありません。

力を入れない

診察のときには、目を大きくあけたり、まぶたをひっくりかえしたりする必要があります。

このとき、どうしても力が入ってしまうのですが、力が入ると、医師のほうも対抗して力を入れることになるので、結果的に痛くなります。できるだけ力を入れないのがよいでしょう。

患者さんがどんなに力を入れていてもひょいとまぶたをひっくり返す名人がいるそうですが、残念ながら私にはそういう技量はありません。ただ、最近は無理をせずにあきらめる「悟り」を開きましたが・・・

2000.7