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川本眼科だより

川本眼科だより 128薬の包装の誤飲事故 2010年10月31日

最近の薬はたいていPTP包装シートに入っています。錠剤が外から見えて、服用時にプチッと取り出す包装シートで、病医院で薬をもらったことがある方ならおなじみですね。

この包装シートを間違って飲み込んでしまう事故が多発しています。「そんな馬鹿なことを」と思われるかも知れませんが、毎年毎年何件も報告されており、報告されていない軽症例は実はその何倍もあるだろうと推定されています。ずいぶん前から問題になっていながら誤飲事故は後を絶たないようです。

事故が起こる背景と問題点を考えてみたいと思います。

高齢者に多いが40歳代でも

誤飲は高齢者に圧倒的に多いのですが、別に認知症の方ばかりではありません。仕事をバリバリこなし知的な活動に携わっている方でも起こしています。40歳代や50歳代でも誤飲事故の報告があり、ごく普通の人が不注意で誤飲しています。

若い人でも気が緩んでいると十分起こりうると考えたほうがいいでしょう。

誤飲に気づかないことも

誤飲しても自覚症状がないこともあります。高齢者だと誤飲したことを本人が気づかない場合があり、無症状のまま何事も起こらず、便中に排泄される可能性があります。たまたま受けた内視鏡検査で引っかかっていたPTP包装シートが発見されたケースが報告されています。

消化管を傷つける危険

何事も起こらなければ幸せですが、PTP包装を切り離すと角が鋭利なため消化管を傷つける危険があります。腸の穿孔を起こして開腹手術が必要になることもあります。

誤飲の自覚がなく、腹痛で開腹手術をして初めてPTP包装シートが発見されることがあります。

また誤飲した場合は消化管穿孔の危険性を考えると症状がなくても取り出さざるを得ませんが、X線では写らず大変に厄介です。

1錠ずつ切り離すと危い

誤飲はPTP包装シートを1錠ずつ切り離した時におこります。ちょうど飲みやすいサイズになるからです。大きいシートのままでは飲み込もうとしたって飲み込めません。当然ですね。

そこで「PTP包装シートは1錠ずつ切り離さずなるべくそのままで使う」ということになっています。

昔、PTP包装シートには1錠ずつ切り離せるよう縦横にミシン目が入っていましたが、1996年に誤飲事故が問題になった時にミシン目は1方向だけというルールができました。現在は横方向にミシン目がついている包装がほとんどで、素手では2~3錠ずつしか切り離せません。

しかし、実際には多くの人がハサミで1錠ずつ切り離してしまいます。実は、誤飲の問題を知っていてもなお1錠ずつ切り離す確信犯みたいな人もたくさんいるのです。なぜでしょう?

飲み忘れ防止対策で小分けに

薬は飲み忘れやすいものです。1種類だけなら大丈夫でしょうが、種類が増え、1日1回の薬、2回の薬、3回の薬が混在するようになると、毎日きちんとのむのはだんだん難しくなります。

それに高齢になると薬を服用したか否か自分でも分からなくなってしまうことがあります。50歳代の私(院長)でもそういうことがあります。

対策として有効なのは薬ケースです。1週間分朝昼夜のむ薬を小分けにできます。日曜日に1週間分セットすれば間違えずに服用できます。服用したか忘れているかも歴然としています。薬屋に行けばたいてい売っています。優れものです。

問題は、小分けにする際にPTP包装シートを1錠ずつ切り離してしまうことです。

PTP包装から出して薬が裸の状態で小分けすれば、包装の誤飲を防ぎながら薬ケースを使うことができます。私はそうしています。でも、せっかく清潔な包装に入っているのに、わざわざ取り出して裸で何日も置いておくことに抵抗感を感じるのはよく理解できます。

服用直前まで開封できない薬

しかも、服用直前まで包装から出してはいけない薬もあるのです。

多いのは吸湿性のある薬です。水分を吸収して変質する恐れがあります。

(アカルディ・アコレート・オパルモン・オラセフ・クラリチンレディタブ・グルコバイ・サワシリン・ザンタック・サンディミュン・ジプレキサザイディス・スターシス・スローケー・セレニカR・ゾーミッグRM・タリオンOD・デパケン・バファリン・バラシリン・パンスポリンT・ファスティック・フロモックス・プロレナール・ヘモクロン・ペルサンチン-L・マクサルトRPD・メサフィリン・メトリジンDなど)

光に弱い薬もあります。光があたると変色したり分解したりします。

(アリセプト・サーティカンなど)

こういう薬はそれほど数が多いわけではありません。薬全体からみればごく一部です。しかし、手元の薬がPTP包装から出しておけるのかおけないのか、患者さんは知らないのが普通です。  

「包装から出すと変質する薬がある」と聞けば十人が九人まで「すべての薬を服用直前まで包装から出さないことにしよう」と考えるのは無理からぬところです。

一包化は有用だが限界も

薬ケースと同じようなことを薬局がサービスでやってくれることもあります。「一包化」と言い、同時にのむ薬を1つの袋にまとめて入れてくれます。薬局がPTP包装から薬を出してくれるので誤飲の心配は全くありません。しかも、包装から出しても構わないかどうか薬局がチェックしてくれているのです。これは便利です。

ただ、前記の「服用直前まで開封できない薬」は一包化もできません。1つでもそういう薬があると一包化のありがたみも半減です。

それと、複数の病医院から薬が出て、複数の薬局で調剤を受けると、一包化しても袋が2つにも3つにもなって飲み忘れの原因となります。調剤薬局を1つにまとめるのは有効な対策ですが、在庫などの問題でそうもいかないことがあります。

湿気や光に強い錠剤の開発を

誤飲が高齢者に多いことを考えると、注意喚起だけで誤飲事故が根絶できるとは思えません。薬を出す側が配慮すべきでしょう。

現時点では、一包化が最も優れた対策だと思います。一包化を徹底するためには一包化できない薬をなくすことが必要です。PTP包装に頼らず、湿気や光を遮断する錠剤やカプセルを開発すればよいわけで、今日の技術をもってすれば不可能ではないはずです。

将来的には、「誤飲しても安全な包装」が理想です。例えば飲んでも消化されてしまえば安全です。でも、そういう包装だと腐ったり変質したりしないか心配ですね。長期間品質を保持することと安全性の両立はなかなか難しそうです。

2010.10