川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 38洗眼の功罪 2003年4月30日

昔は眼科にかかると必ず洗眼していました。眼科医のことを「目洗い医者」なんて呼んでいたくらいです。

最近は眼科では一般に洗眼はしません。なぜ、しなくなったんでしょうか?

また、薬局などで洗顔用の器具や洗眼剤がたくさん売られています。こういうものは使ったほうがよいのでしょうか?

異物を洗い流すためには有用

目の中に何か異物が入った時、目を洗うのは大変合理的です。目を洗うだけで異物が取れることも結構あります。

目に薬品やシャンプーが入った時も、まず目をよく洗うことが必要です。この場合は、「急いで洗う」ことを一番大切で、洗うのに必要な水が手に入らなければ、ペットボトルのお茶で洗ったってかまいません。

とくに、アルカリ性の薬品が入った場合は、流水で10分以上目を洗ったほうがいいと言われています。でも、実際やってみるとわかりますが、10分も流水で目を洗うのは困難です。目がふやけてしまいます・・・

花粉症でも、目を洗うのは合理的です。アレルギーの原因を取り除く効果が期待できます。

めやにがたくさん出ているとき、くっついているめやにを取るために洗うというのも悪くないと思います。

このように、洗眼はいろいろな場面で役に立つことは間違いありません。

全員洗眼から必要時洗眼へ

昔は、どこの眼科でもほとんどすべての患者さんを洗眼していました。

なぜかと言うと、昔は、目を洗うことが清潔さを保つのに有効と信じられていたからです。今のようなよく聞く抗菌剤の目薬もなく、結膜炎のような感染症の治療する時は洗眼が欠かせませんでした。実際、眼科の患者さんで一番多かったのは結膜炎でした。だから、眼科医はみんなせっせせっせと洗眼をしました。町医者だけでなく、大学教授も洗眼していました。

ところが、だんだん、洗眼には弊害もあるのだということがわかってきました。

涙の中には、さまざまな物質が含まれています。各種の栄養素も含まれていますし、角膜を保護したり再生を促すような因子も含まれていますし、最近の侵入を防ぐ免疫成分も含まれています。洗眼すると、そういう大事な物質をみんな流してしまうことになります。

また、優れた抗菌剤の目薬が開発されたこともあって、結膜炎の治療のために眼科で洗眼する必要もなくなっていきました。

今日では、洗眼のしすぎはかえって目に良くないと考えられています。

そうは言っても、涙はつねに分泌されているものであり、たまに洗眼したからといって、それほど問題があるとは考えられません。

要するに、昔のようにほぼ全員に洗眼することをやめ、必要がある場合だけ洗眼するのが合理的なわけです。

とくに高齢者では、洗眼することで目がすっきりするという要望も多く、現在川本眼科では、御希望があれば洗眼しています。

毎日洗眼するのは問題

それでは、市販されている洗顔用の器具を使って毎日洗眼するのはどうでしょうか。

結論から言えば、健康な人であれば、1日1回くらい洗眼しても、それほど問題がおこることはありません。しかし、角膜の状態が悪い方や、高齢者が頻繁に洗眼を繰り返すのは、目に良くないことがわかっています。

目の表面にはムチンという物質がくっついています。ムチンは水となじみがよく、涙がうまく角膜表面に保護膜を作るために大切な働きをしています。

ところが、あまり頻繁に洗眼すると、この大事なムチンがはげてきてしまい、涙がうまく角膜にのらないことになってしまうのです。

洗眼すると、少し目がスッキリするため、「目がショボショボする」というような自覚症状がある方では、癖のように1日何回も洗眼を繰り返している場合があり、かえって角膜の状態を悪くしてしまっているのです。

ですから、程度問題ではありますが、あまり家庭での洗眼はお勧めしません。

洗眼器や洗眼剤は要らない

薬局などで、「洗眼器」やら「洗眼剤」やらがいろいろ売られています。こういうものを買ったほうがいいのかという御相談を受けることがあります。

すでに述べたように、家庭での洗眼は問題があり、異物やシャンプーなどが入った時などに限るのが無難です。

シャンプーが目に入ったような時は、シャワーでも使って洗えばいいでしょう。高いお金を出して「洗眼器」など買う必要は全くないと思います。

特別な「洗眼剤」もあまり意味があるとは思えません。普通は水道水で十分です。

そんなわけで、「洗眼器」も「洗眼剤」も不要というのが私(院長)の考えです。

2003.4