川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 50ものが2つに見える 2004年4月30日

「ものが2つに見える」「ダブって見える」という症状を複視(ふくし)と言います。複視を自覚した場合には、すぐに検査や処置をしなければならないのか、それともしばらく放置しておいてもよいのかを見分けることが大切です。

複視(ふくし)なのかどうか

「ものが2つに見える」と言っても程度はさまざまです。ものが2つに大きくずれて離れて見えているならば、複視であることははっきりしています。しかし、程度が軽い時には「なんとなくぼけて見える」「なんとなく見えにくい」という感じになることが多く、訴えだけでは複視かどうかわかりません。
 
逆に、「ものが2つに見える」という訴えでも複視ではないことがあります。近視・遠視・乱視などでピントが合わなくてぼける場合にも、そういう訴えになるのです。もっとも、ピンぼけの時には必ずしも2つとは限らず、「3つにも4つにも見える」ということが多いようです。

片目を隠して確認する

複視かも知れないと思ったときには、ぜひ、片目を隠して確認してみて下さい。
 
もし、片目を隠すことで2つの像のうち1つが消えてすっきり見えるのなら、複視です。
 
片目ずつ見ても、ぼけたような感じが変わらず、やはり2つや3つに見えているなら、それは複視ではありません。近視や乱視などの屈折異常であることが圧倒的に多く、それならふつう処置を急ぐ必要はありません。ただ、なかなか判断しづらいこともありますし、屈折異常でなく網膜の病気かも知れませんから、異常を感じたら眼科を受診したほうがよいでしょう。

一時的なら大丈夫

疲れていると、一瞬ものが二重に見えるということはよくあります。もともと力が全く抜けた状態では左右の目が外に向いているという方は多く、ぼんやりしているときに左右別々の方向を向いてしまうのです。
 
緊張すれば元に戻るものなら別に心配いりません。ふつうは放置しておいてかまいません。
 
あまり頻繁におこるようなら、間欠性外斜視(かんけつせいがいしゃし)というものかも知れません。これも放っておいてよいことが多いのですが、眼精疲労の原因になったり生活上不自由だったりする場合は、手術をして治すことができます。

左右の目が同じ方向を向かない

眼球には目を動かすために6つの筋肉が付いています。この筋肉を眼筋(がんきん)と言います。6つの眼筋を3本の脳神経(のうしんけい)が動かしています。脳神経は全部で10本あり、嗅覚・味覚・平衡(へいこう)感覚・嚥下(えんげ)運動などさまざまな働きを担(にな)っているのですが、眼球運動に10本中3本も使っているというのは、目を動かすことがいかに重要かを物語っています。
 
目を動かす3本の脳神経には、それぞれ、動眼(どうがん)神経・滑車(かっしゃ)神経・外転(がいてん)神経という名前が付いています。滑車神経は上斜筋、(じょうしゃきん)外転神経は外直筋と(がいちょくきん)いう1本ずつの筋肉を動かしていますが、動眼神経は残りの4本を受け持っており、任務重大です。動眼神経には瞳孔の大きさを制御したりまぶたを持ち上げたりする働きもあります。
 
これらの神経または眼筋が正常に働かなくなると、左右の目が同じ方向を向くことができなくなり、右目と左目が別々の像を映すことになるので、ものが2つに見えるのです。

眼筋の問題か脳神経の問題か?

複視の原因としては、眼筋自身に問題がある場合と、眼筋を動かす脳神経に問題がある場合とがあります。
 
実際には、脳神経に問題があることが圧倒的に多く、脳神経が走る経路のどの部分に障害がおこっても眼筋麻痺をおこします。
 
高齢者では、糖尿病や高血圧を背景として血管が詰まってしまうためにおこることが多いと言われています。梗塞(こうそく)が確認できれば診断は確定しますが、たいてい微少な梗塞なので、CTやMRIを撮っても病変が写らないことが多く、原因不明ということになってしまいます。
 
動眼神経麻痺の場合、動脈瘤(どうみゃくりゅう=血管のこぶ)ができていることがあり、破裂すると生命に関わります。動脈瘤なら脳外科で緊急手術をしなければなりません。あるいは脳の一部がヘルニアをおこすなんていう病気もあります。そういう病気の可能性を念頭におくと、どうしても大病院で精査が望ましいということになります。もっとも、そういうことはかなり珍しいことなので、それほど心配する必要はありません。
 
眼筋に問題がある場合としては、甲状腺の病気で眼筋が腫れるとか、外眼筋炎という炎症でおこるものなどが知られています。
 
目を拳でなぐられたあとで二重に見える場合、眼球の下にある薄い骨が骨折をおこし、眼筋がはみだしていることがあります。手術が必要になることがあります。

複視にどう対処するか

複視の原因となる病気は数多く、その鑑別は眼科医にとっても容易ではありません。はっきり診断を下すにはたくさんの検査をしなければなりませんし、たくさん検査をしても結局はっきりした原因がわからないこともあります。
 
開業医レベルで大事なことは、生命にかかわるような病気か否かを判断することです。そこで私は次のようにお勧めしています。
 
動眼神経マヒで程度が強い時は、できるだけ早く、眼科と脳外科のある総合病院で精査する必要があります。
 
外転神経マヒや滑車神経マヒで程度が軽ければ血流を良くする薬など使いながら少し様子をみていることもできるでしょう。自然にだんだん回復してくるなら大丈夫だと思います。ただ、回復には半年ぐらいかかるものと考えて下さい。神経の再生は遅いのです。
 
複視がだんだん悪化するときは、腫瘍など怖い病気の可能性もありますから、やはり大病院で精査すべきです。

2004.4