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川本眼科だより

川本眼科だより 180食事療法の難しさ 2015年1月31日

健康に気をつかう人が増え、サプリメントやら特定保健用食品やらがよく売れているそうです。しかし、もっとずっと大切な基本は食事療法です。昔から医食同源と言いますよね。

減塩は高血圧になった人はもちろん、若い人でも血圧が正常なうちから心がけるべきことです。きちんと減塩さえできれば、高血圧でも薬なんか要らないケースが多いし、そもそも高血圧になることもない、と言われています。

カロリー制限は糖尿病の治療の基本です。食事と運動が薬よりもずっとずっと大事です。それがきちんとできていれば、そもそも糖尿病にならずにすむのです。

残念ながら、食事療法は上手くできていない方が大半です。食事療法がなぜ難しいのか、考えてみたいと思います。

食事療法は優先順位が高い

食事療法は軽んじられていますが、実は薬以上に大事な場合があります。

健康についての膨大な情報があふれています。それらの情報には嘘や誇張もたくさん含まれていますから、真偽を見分ける目が必要です。さらに、正しい情報の中にも、大事なことと枝葉末節があり、何が大事かを見極めなければなりません。

人は、繰り返し同じ情報に接するとその情報が重要なものだと判断する傾向があるので、大々的に広告宣伝されると、どうしても優先順位が高いと誤認しがちです。しかし、実際には、高血圧に良いと宣伝している特保のお茶を飲むより、宣伝はしていなくても減塩を心がけるほうが百倍以上大事で、優先順位が高いことなのです。

減塩は高血圧になる前から

減塩は高血圧になってからすればよいのでしょうか? 昔はそういう風に考えられていましたが、現在では若い頃からの長期にわたる過剰な塩分摂取が高血圧を引き起こすので、早い段階から減塩を心がける必要があるとされています。

実際には、まだ血圧正常の人は減塩に取り組む意欲を持ちにくいだろうと思いますが。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病の人は、少なくとも1日7g以下、できれば5g以下にしたほうがよいと推奨されています。若いときから1日5g以下を続けることができれば、高血圧はまず発症しないだろうとも言われています。

最新の研究では、日本人の食塩摂取量は男性で14g、女性で12gだそうです。これは24時間尿をためて正確に調べた結果で、今までの推定値よりも高く、状況が深刻なことが改めて認識されました。

加工食品の塩分は多い

現代人の食生活では、自分で料理をする場合でも、ある程度加工された食品を買ってきて、それに手を加えます。その加工の過程で、想像以上の食塩が使われているのです。

例えば、パン1枚に0.8g、チーズ1枚に0.5g、ハム1枚に0.5g、マーガリンに0.2gの食塩が含まれています。サンドイッチ1つだけで2gになってしまいます。スープにも、サラダのドレッシングにも食塩が含まれ、全く食卓塩を振りかけなくても、全く醤油を使わなくても、食品中に含まれる塩分だけで1食6~8gくらいになってしまいます。

外食をした場合も、自分でコントロール困難です。ラーメンには約6gの塩分が含まれます。汁を残せば減塩できますが、汁が美味しいので誘惑に負けそうです。八宝菜定食には約8gの食塩が含まれているそうですが、全体に混ざっていて減塩は不可能だと思われます。

加工食品や外食では、自分で塩分を調節できません。これが減塩できない最大の理由です。個人の努力では限界があるのです。

食品会社による減塩が望ましい

英国では政府が加工食品の減塩を政策として推進したそうです。食品ごとに目標を決め、食品会社に働きかけました。当初は消費者離れが懸念されたそうですが、消費者を薄味に慣れさせるため、時間を掛けて少しずつ加工食品中の塩分を減らしていったところ、味に関する苦情もほとんどないまま減塩に成功したといいます。どの程度まで減塩するのか、どのくらい時間をかけるのか、工夫が必要だとは思いますが、これはぜひ日本でも取り入れて欲しい対策です。

まず、個人が特別な努力をしなくても、自然に減塩できることが素晴らしい。毎日努力を続けるには強い意志が必要で、凡人には困難です。逆に会社がやらなければ個人ではいかんともしがたい。

また、大勢の人が同時に減塩できることも大きな利点です。1食品あたりの減塩量は大したことがなくても、社会全体としては非常に大きな効果を発揮できるのです。

カロリー制限

減塩に比べると、カロリー制限はダイエットとして、メタボリック症候群を防ぐために必要だと広く理解されているように見えます。ただ、そこには誤解があって、ちまたで提唱されている各種ダイエットは、健康維持の観点から見ると相当に問題があります。

糖尿病などの生活習慣病に対する食事療法としてのカロリー制限は、痩せれば良いというものではありません。絶食に近いことをすれば確かに痩せますが、健康はかえって損ないます。大事なことは、カロリーは制限しながら、必要な栄養素をきっちり摂取することなのです。食べる量は減らしながら、すべての栄養素を取るには、食生活のバランスがきわめて重要になってきます。

〇〇だけ食べれば良いとか、糖質を極端に制限するとかいった方法は、上記のバランスを無視しており、根本的な考え方が間違っていると言わざるを得ません。

我慢や忍耐は難しいが

食事は生命に関わる事項であり、食欲は本能的な欲求ですから、これを意志の力で我慢するのは普通とても難しいことです。

その上、外食や加工食品の利用が多い現代の食生活では、自分でコントロールできる範囲が限られていることも確かです。

それでも、健康で長生きするためには避けては通れない道です。「俺は長生きなんかしなくていい」と憎まれ口をたたく方もいらっしゃるでしょうが、残念ながら生活習慣病では簡単には死ねませんから、脳梗塞や心臓病や糖尿病合併症に長く苦しむ羽目に陥ります。

まずは、できることから始めましょう。「何にでも醤油をかけることはやめる」「腹八分目を心がける」くらいなら、誰にでもできるのではないでしょうか?

(2015.1)