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川本眼科だより

川本眼科だより 72PETがん検診は有効か 2006年2月28日

PETという検査が普及し、マスコミで取り上げられることも多くなりました。
 
最近、この検査を利用してがん検診を始めた医療機関が増え、盛んに宣伝しています。
 
PETによるがん検診はどの程度あてにしてよいのでしょうか。そもそも受ける価値があるのでしょうか。

 

PETとは

がん細胞は正常細胞より活動が盛んで、ブドウ糖をたくさん取り込みます。ブドウ糖(正確にはブドウ糖によく似た物質)に放射性同位元素という目印をつけて注射すると、30分くらいで活動が盛んな細胞にブドウ糖が集まってきます。放射性同位元素が出す放射線を使って撮影すれば、体のどこにがんがあるかが分かります。
 
がんがどの程度広がっているか、全身転移がおこっていないか、再発していないかを調べる時には特に有用な手段です。
【参考】http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pub/diagnosis/010605.html (国立がんセンター)
 
全身を一度に調べられることから、がん検診への応用が可能と考えられます。苦痛もほとんどないことから、PETによるがん検診を売り物にする施設が、最近次々とできています。名古屋にも名古屋放射線診断クリニック(名古屋共立病院の系列)というところがあります。
 
ただし、ブドウ糖をたくさん取り込むのはがんだけではありません。炎症をおこすとブドウ糖の取り込みが盛んになるので、それだけではがんと区別はつきません。

PETで発見しにくいがんも

PETを利用したがん検診では、「数mmのがんでも発見できることがある」ということが強調されます。確かに、CTやMRIでも見つけられないがんが見つかることもあります。
 
しかしながら、実はPETでは「数cmのがんでも見つけられないこともある」ということは知っておく必要があります。
 
PETの原理から当然のことですが、ブドウ糖を盛んに取り込むがんは発見しやすく、ブドウ糖を取り込まないがんは発見しにくいのです。
 
また、正常細胞がブドウ糖をたくさん取り込む部位では、正常組織なのかがんなのか判定ができなくなります。放射性同位元素は尿中に排泄されるので、腎臓や膀胱ではがんの検出は困難です。
 
一般に、PETでは、胃がん・肝臓がん・腎臓がん・膀胱がん・前立腺がん・子宮頚がんなどは発見しにくいとされています。

PET単独では限界あり

PETは、それだけですべてのがんを発見できる魔法の機械ではありません。得手不得手があり、前立腺がんではMRIや血液検査のほうが有効ですし、胃がんでは胃カメラやバリウム造影のほうが有効でしょう。子宮頚がんでは細胞診、肝臓がんでは超音波のほうが有効です。
 
結局、PETとほかの方法と組み合わせるしかありません。そのため、最近ではCTと同時に撮影するPET-CTという機械が普及してきていますし、超音波・MRI・内視鏡・造影などいろいろな検査を組み合わせた「検診セット」という形にすることも一般的になっています。
 
当然たくさんの検査をすればがんの発見率は上がります。ただ、そうなってくると「苦痛が少なく、簡単な検査で全身くまなく調べられる」という魅力的なうたい文句は誇大広告と言わざるを得ません。

がんの発見率は1~2%

各種の報告をみると、50歳以上の方を対象にした場合、PETを含むがん検診でがんを発見する確率はだいたい1~2%です。これはPETを使わないがん検診に比べればかなり高くなっています。
 
そうは言っても、見方を変えれば98~99%では何も見つからないわけです。もちろん、見つからなければ「検査結果が陰性だった」という安心感が買えるというメリットはあります。
 
しかしながら、PETでがん検診を受けたあと、半年後くらいに他の病院でがんが見つかったというケースもあります。医師の説明が不十分だったと訴訟になったそうです。たとえ結果が陰性でも絶対安心というわけにはいかないのです。

10~40万円払う価値は

PETによるがん検診は自費診療なので、料金はまちまちです。PET単独だと一番安い施設で10万円くらい、多くの場合は他の検査と組み合わせて20~40万円くらいのようです。
 
さすがにこれだけの検査代金をポンと出せる人は相当所得の高い人に限られるでしょう。そのためか、高級感を売り物に、会員制にしているところが目立ちます。
 
この料金を高いと見るか安いと見るかはその人の価値観によるでしょう。50歳以上ではがんにかかる確率はかなり高くなりますから、健康はお金には換えられないと考えているなら、さらに検査精度に限界があることにも納得しているなら、受けてもよいと思います。
 
ちなみに、私(院長)自身は、今のところ受けるつもりはありません。これも医者の不養生でしょうか。まあ、がんになってしまったら天命だとある意味割り切っています。それに、現実問題として、忙しくてのんびりがん検診を受けている時間がありませんし・・・

2006.2