川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 104身障者・特定疾患 2008年10月31日

身体障害者手帳があれば、さまざまな福祉サービスを受けることができます。どんなサービスが受けられるかは障害の程度を示す級により異なります。また、居住地によっても異なります。
 
特定疾患医療給付というのもあります。特定疾患とは難病のことだと考えればよいでしょう。申請して認められると、その病気の治療に関しては自己負担がなくなるなどのメリットがあります。
 
今回は、このような公的補助を受けるための手続きについてご説明いたします。
 
なお、医師はこういう制度の存在は知っていても手続きについて詳しいわけではなく、今回調べてみて初めて知ったことも多いので、記載に誤りがあるかも知れません。ご容赦ください。

身障者の申請は区役所へ

身体障害者の申請窓口は、名古屋市の場合、それぞれの区役所の福祉課福祉係になります。
 
身障者手帳をご希望の方は、まずここで相談して、身体障害者診断書・意見書(以下”意見書”と略します)と申請書をもらってきて下さい。
 
意見書は医療機関に提出して記入・証明をしてもらいます。なお、記入・証明は身障者判定の資格を持つ医師(身体障害者福祉法15条指定医)にしかできません。たいていの医療機関では1名は資格を持っていて、その医師の名前で証明します。
ただし、資格を取るのが面倒くさくて取っていない先生もいます。川本眼科では院長が資格を持っています。かかりつけの医療機関に身障者判定の資格者がいるかどうかは、区役所の福祉課で尋ねれば教えてくれます。

医師に手加減を頼んでも無駄

身障者認定は、厳密に定められた認定基準に基づいて機械的に判定しているだけです。医師の主観が働く余地はほとんどありません。
 
患者さんから「こんなに生活上不便で困っている。なんとか上の級を認定して欲しい」と頼み込まれることがあります。確かに基準自体に問題があって、相当困っているはずなのに低い級しか認定できないことがあり、判定する医師の私自身首をかしげることが結構あります。
 
ただ、認定基準に従う限り情実の入り込む余地は全くありません。仮に医師が意見書に嘘の記載をして高い級を認定したりすれば、医師はたちまち刑事告発されてしまいます。
最近も札幌市で耳鼻科の開業医が虚偽診断書作成罪で警察の取り調べを受けました。有罪になれば当然医師免許取り消しでしょう。
 
なんとかしてあげたいのは山々ですがどうしようもないのです。ご了解ください。

身障者手帳は原則終身

身障者手帳は無期限の場合と、期限があって再認定を受けなければならない場合があります。医師が判定のときにその旨を意見書に記入します。
 
症状がほぼ固定していて改善の見込みがない場合には再認定は不要で、一生使えます。

身障者手帳のメリット

所得税・市民税・相続税などには障害者控除というものがあります。名古屋市の場合、所得税だと27万円、市民税だと26万円が控除されます。
これはあくまでも控除金額なので、税率が低い方では大した額になりません。
 
視覚障害者にとってありがたいのは拡大読書器の給付です。級にかかわらず給付してもらえますし、給付額も約20万円と大きいのも魅力です。実際にかなり役立つ道具だと思います。
 
視覚障害2級以上なら、健康保険の自己負担が助成されますし、点字ディスプレイ、活字文書読み上げ装置、ポータブルレコーダー、盲人用時計、盲人用体重計、点字タイプライター、音声体温計、電磁調理器などの給付が受けられます。ただし、世帯に健常者がいないとか、就労しているとか、いろいろ条件がつきます。所得制限もあります。
 
単独で外出することが困難な場合、ヘルパーさんが付き添ってくれるというサービスもあります。区役所に申請を出し、認められなければなりません。サービス費用の1割は自己負担しなければなりませんが、自己負担額には上限が決められていて、その額以上は払う必要はありません。
 
また、さまざまな公共施設の入場料が減免されます。
 
JRや私鉄では身障者割引が受けられます。介護者が必要な場合は本人も介護者も半額になります。介護者と合わせて一人分でいいよ、ということですね。
 
タクシーは民間企業なので会社によって対応はまちまちですが、身障者手帳を見せると1割引にしてくれるところが多いようです。

特定疾患医療給付は保健所へ

原因が不明で治療方法が確立していない、いわゆる難病では、長期間の闘病を強いられ、生活も大変ですし、医療費など経済的負担も馬鹿になりません。精神的にも苦しいものです。そういう患者さんや家族の経済的負担を少しでも軽くしようというのが特定疾患医療給付の趣旨です。
 
県によって制度は少しずつ異なります。愛知県では現在約50の難病が指定されています。
 
このうち、眼の病気では、網膜色素変性症が指定されています。ベーチェット病も眼症状が主体の場合があります。
 
他は内科の病気が多いのですが、多発性硬化症・重症筋無力症・全身性エリテマトーデス・大動脈炎症候群などは眼科にも関係する病気です。
 
申請窓口は保健所です。疾患ごとに診断書の書式は異なっているので、正しい書式の用紙をもらって、医療機関で診断書を書いてもらう必要があります。
 
診断書を書くために新たに検査しなければならないこともよくあります。例えば網膜色素変性症の場合、動的視野検査、網膜電図、蛍光眼底造影が要求されます。通常の診療ではそこまで検査しないのが普通ですから、申請のために余分に検査を受けなければなりません。
 
また、所得制限があって、生計中心者の源泉徴収票や納税証明書などが要求されるのも煩わしいところです。

特定疾患医療給付は毎年手続き

特定疾患医療給付は1年ごとです。
 
毎年7月頃に継続の手続きが必要で、そのたびに診断書を書いてもらわなければなりません。幸い、新規のときほど要求は厳しくないのですが、申請書類一式を用意し、所得についての証明書も提出する必要があるのは変わりません。
 
安定していて3ヶ月に1回定期検査だけしているような患者さんでは、申請の煩わしさに比べてメリットが少ないと考え、申請をやめてしまう人もいます。
 
もう少し、患者さんに優しい制度にしてくれるとうれしいのですが。

2008.10