川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 124診療報酬の不思議 2010年6月30日

保険診療では、診療行為に対して全国一律の点数が決められています。医療機関は健康保険に対し、中医協(中央社会保険医療協議会)が決めた診療報酬点数表に基づいて支払いを請求します。
 
ところがこの点数表、複雑すぎて奇々怪々、医療関係者にとっても摩訶不思議な代物です。
 
今回は点数表のどんな点が変なのか、お話ししたいと思います。

 

外来管理加算の不思議

診療報酬の中で患者さんに一番理解されにくいのは外来管理加算でしょう。この点数は「処置や検査をしない時に算定できる点数」です。

説明や計画的医学管理の代価ということになっていますが、もちろん処置や検査をした時だって、説明はしますし、症状や検査結果をみて更なる検査が必要か判断しますし、治療を継続してよいのか変更が必要かは当然毎回考えます。ですから、結局この点数は「処置や検査をしないこと」を評価しているわけです。
 
なぜこんな点数が生まれたのでしょう? これは内科では再診回数が少なく、検査がなく説明だけということも多いので、再診回数や検査が多い他の科との不均衡是正を目的として設けられたのです。
 
ただ、何もしない時のほうが処置や検査をした時より自己負担額が多いことがあるというのは、一般人の常識ではまことに理解しにくいことです。診療報酬明細書発行が今年義務化されたあと、患者さんとのトラブルが最も懸念されている点数でもあります。

特定疾患療養管理料の不思議

特定疾患療養管理料は、「特定の慢性疾患に対し地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を行うことを評価」という趣旨の点数です。
なんだか漠然としていて訳が分からないですね。これも生活習慣病の場合、問診にも生活指導にも手間暇がかかるのにそのことが評価されていなかったために設けられました。これも検査が少ない内科を救済する意味合いが大きい点数です。
 
以前は「指導料」となっていたため、患者さんから「指導なんか受けていない」とクレームが出ることが多かったので、2006年に「管理料」と名称変更されました。確かに患者さんを診ている限り「管理」もしているのは間違いありません。通常病名がついていれば算定されるのが普通です。
 
特定疾患には、がん、脳卒中、高血圧、肝炎、喘息など、19の疾患が定められています。このうち眼科で認められているのは糖尿病の場合です
糖尿病で「計画的な眼科的管理」をすれば算定できるのですが、川本眼科では糖尿病網膜症を発症した人に限って算定することにしています。点数自体がかなり高い上に内科でも管理料を取られているので大変だろうという配慮です。
 
医療機関によって算定したりしなかったりとバラバラなのはクレームの原因になります。また、病院と診療所では点数や算定条件が異なるのも、患者さんには納得しにくいことです。

月1~2回だけ算定可能な点数

診療報酬には月1回しか算定できない点数がたくさんあります。

視野検査のように数ヶ月に1回しかしない検査なら別に問題ありません。しかし、眼底カメラ撮影や眼底三次元画像解析(OCT検査)などはどうしても同月に2回目、3回目の検査が必要な場合があります。そういう時はやむを得ず無料のサービスで検査をします。患者さんにしてみれば同じ検査内容で自己負担額が異なることになり、不審を抱く原因になります。
 
難病外来指導管理料とか特定薬剤治療管理料とか指導や管理に関する点数はほとんど月1回だけ算定可能です。つまり患者さんにしてみれば同じ月の2回目は安くなるわけです。毎月1回受診する場合なら、3月は1日と31日に受診、4月は受診せず、5月は1日と31日に受診、6月は受診せず・・・というやり方をすると自己負担額が減ります。ただ、これをあからさまにやると必ず嫌な顔をされますので覚悟して下さい。
 
特定疾患療養管理料は、月2回まで算定可能です。ですから、3回目はまったく同じ診療内容でも自己負担額が安くなります。

コンタクトレンズ検査料の不思議

眼科で一番摩訶不思議な点数がこの「コンタクトレンズ検査料」です。
 
何の検査をしようが、たくさん検査をしてもほとんど検査しなくても、点数は同じなのですからびっくりします。
 
ところが、緑内障や網膜硝子体疾患などがある患者さんの場合は、コンタクトレンズ処方目的でも、出来高で診療報酬を請求するのがきまりです。同じ診療内容なのに人によって点数が異なることになります。
 
また、角膜のキズや結膜炎などでコンタクト装用を中止した場合は普通に出来高で算定するというルールです。検査や治療の手間暇がかかりますから。ところが、現実には患者さんに頼まれて、やむを得ずコンタクト処方もすることがあり、その場合はコンタクトレンズ検査料で請求するのでかえって患者さんの支払額が少なくなります。このあたりは不合理なのですが決まりだから従うしかないのです。
 
また、コンタクトレンズ検査料は施設によって点数が4倍近くも違います。これも患者さんには納得しづらいことだと思います。コンタクト店が保険診療を食い物にするという問題への対策なので多少の無理は承知で決められたようです。

保険で認められていない検査

保険で認められていない検査をすることもあります。
例えば角膜の波面解析という検査は保険で認められていません。また、コンタクトレンズ診療で角膜内皮細胞数を測定する検査は認められていません。こういう検査はやむを得ず無料サービスで検査しています。
 
無料でしてきた検査が、ある時から保険で認められるようになることがあります。この場合も診療内容が同じなのに自己負担額が変わります。

政策的誘導による歪み

診療報酬点数は厚生労働省が考えた医療政策を実現する手段として使われてきました。
 
医薬分業を進めるため処方箋料を高くしました。病院と開業医の役割分担をさせるために開業医の紹介率で点数が変わる仕組みを作りました。コンピュータ化を進めるためそのための点数加算制度を作りました・・その時その時の医療政策を実現するため、さまざまな点数を作っては廃止することを繰り返してきました。
 
医療機関はこの政策的誘導に振り回され、制度が朝令暮改という状態に困惑しています。診療報酬制度はつぎはぎだらけの代物となり、複雑で理解困難なものになってしまいました。
 
今年4月新設された「明細書発行体制加算」では明細書をもらわない患者さんにも請求するのがルールですが患者さんから苦情が出ています。
 
明細書を義務化するなら診療報酬体系をもっとシンプルでわかりやすいものにする必要があると考えているのは、私だけではないと思います。

2010.6