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川本眼科だより

川本眼科だより 123患者は医者の指示を守っているのか 2010年5月31日

医者は患者さんにいろいろ指示をします。生活指導、薬の使い方、受診間隔・・・
 
残念ながら、こういう指示は必ずしも守られてはいません。指示が順守されているか確認しながら診療することが大切です。指示の守られ具合を医者はコンプライアンスと呼びます。
 
コンプライアンスを良くするために医者がどのようなことを考え、どういう対応を取っているのか、医者の手の内を公開しちゃいましょう。

 

患者さんは十人十色

世の中にはいろいろな人がいます。真面目な人もいればいい加減な人もいます。ものすごく神経質な人もいれば細かいことにこだわらない性格の人もいます。
 
当然、医者の指示をきちんきちんと守って下さる方もいれば、全然言うことを聞いてくれない人もいます。 
 
医者の指示を守らない代表は若い男性です。彼らにとっては医者の言うことも様々な情報の1つに過ぎず、どちらかと言えばインターネットや本からの情報を信用する傾向があります。医者の指示も2ちゃんねるの匿名発言も同列に置かれ、相対化されています。
 
ただ、若い男性は論理的に考えようとする傾向が強いので、系統だった説明をして理屈で納得させることができれば、自発的な選択として医学的に正しい行動を取ることが期待できます。ある意味、説明のしがいがある相手だと言えます。

ずぼら/思い込み/確信犯

医者の指示を守らない理由は様々です。
 
一番多いのは「ずぼらタイプ」でしょう。別に意図的に守らないのではなく、忙しいとか、面倒くさいとか、病気のことを軽視して易きに流れるわけです。
患者が必要性を十分理解していないのは医者の側にも責任の一端があるでしょう。ただ、医者が医学的説明をいくら詳しくしても、患者さんはその時は分かった気になりますが、しばらくすれば忘れてしまうのが常です。結局、ときどき医者が説明を繰り返して注意を喚起するしかないのだと思います。
 
困るのは思い込みの激しい患者さん。自分の症状はこうだと決めつけていて、医者の説明など聞いてくれません。思い込みに合致する話しか受け入れてくれず、理詰めで説得するのは困難です。医者の言うなりにならない難敵ですね。
 
医者の説明をある程度理解してもなお、自分の信念を貫く患者さんもいます。言わば確信犯です。
網膜剥離なのに舞台に穴を開けられないと手術を受けず、ついに片目失明してしまった女優さんがいました。それが正しい行動なのか、私は疑問に思っていますが、本人の決めたことなら仕方ないことではあります。ただ、その決断が間違った情報や誤解に基づいていないかが心配です。

家族や友人の言を一番信用

一般的に、医者の言うことよりも家族や知り合いの一言のほうが影響が大きいと感じます。やはり医者は他人であって、信頼するのは身内や友人なのですね。
 
ですから、本人が頑固だったり理解力不足だったりする場合、家族に説明して家族から説得してもらいます。これは効果てきめんです。手術を勧める場合なら成功率9割くらいでしょうか。
 
逆にそういう家族がいない一人暮らしの高齢者では説得に難渋します。

目薬を指示通り使っているか

患者さんは医師の指示通りに目薬を使っているのでしょうか? 点眼コンプライアンスと呼ばれている問題で、特に治療効果を判定する際に問題になります。
 
もちろん真面目に使っている人が多いはずです。
でも、どう考えても適当にさしているとしか思えない人もいます。処方した目薬が何ヶ月も経つのにまだ残っているとか、逆に目薬を処方してまだ2~3日だというのにもうなくなったとか・・。よく聞いてみると、目薬のさし心地が悪いからさしていないとか、家と職場の両方に目薬を置いておきたいとか、最初にお聞きした話と違ってくることもよくあることです。
 
目薬についての医師の指示が守られているか何度も調査が行われています。調査結果によれば、目薬の種類が増えるほど、点眼回数が増えるほど、さし方がいい加減になります。まあ当然の結果ではあります。
 
1種類だけならたいていの人が真面目にさしますが、3種類くらいになるとだんだん指示が守られなくなります。5種類以上目薬があるともう絶望的です。医者の言う通りさしていることはまれで、自己判断で適当に選んでさすようになります。
 
患者さんが重要で必要性が高い目薬を選んでさしているならよいのですが、必ずしもそうとは言えず、「この薬が一番すっきりする」とか「あの目薬はしみるからささない」とか、効果とは関係のないところで選択されていることが多いのは大問題です。
 
対策は「処方する目薬の種類を減らす」のが一番だと思います。1種類だけならたいていの患者さんは真面目にさしています。大事な目薬をどうしても点眼してほしいと思えば、重要性の低い目薬はやめてしまうのが無難です。
例えば緑内障と白内障を合併している患者さんなら、出すのは緑内障の目薬だけにしておくわけです。緑内障が進行したら元に戻りませんが、白内障ならいざとなれば手術すれば済みますから。
 
目薬の種類が多くなると指示が守られにくいのは、目薬の間隔を5分以上開けることになっているのも大きな理由でしょう。面倒くさいですものね。

通院間隔は守られているか

医者は次回の通院時期を指示します。患者さんは指示通り通院しているのでしょうか。この問題は通院コンプライアンスと呼びます。
 
明日とか3日後という指示はたいてい守ってもらえます。間隔が延びるほど守られにくくなります。6ヶ月後受診という指示をすることがありますが、実際に受診されるのは3割くらいで、病気によっては深刻な問題を引き起こします。
 
白内障なら通院間隔を守らなくても問題が起こることは少ないでしょう。水晶体融解ぶどう膜炎や急性緑内障発作のリスクはありますがきわめてまれですから。でも緑内障や糖尿病だと自覚症状がないまま進行し、受診せず放置すると手遅れになることもあります。残りの人生を視覚障害者として過ごす羽目に陥ったら大変です。
 
薬が処方されていると薬がなくなったら受診するのですが、薬が全くないと通院コンプライアンスは極端に悪化します。
そこで医者は、どうしても継続して通院してほしい患者さんには何か薬を出しておくという戦略を取ることがあります。気休めに近いが副作用もほとんどないような薬が使われます。理屈で通院の必要性を納得させるより効果的です。残念なことですが。

医者の言うことは聞いたほうが

医者の指示は安全なほうに余裕を見ています。ですから、指示に従わなくても大丈夫な場合も多いでしょう。
でも大丈夫でないこともあるのです。99%大丈夫でも1%で問題が起こるかも知れません。悪い方に当たったら大変ですから、やっぱり医者の言うことは聞いたほうが無難ですよ。

2010.5