川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 139異物感の正体 2011年9月30日

「3日前にまぶたの裏側にゴミが入って取れない」という訴えで受診したAさん。昨日は大きな病院の眼科にかかったそうですが「ゴミなんかないよって目薬をくれただけなんです」となんだか不満そう。「でも確かに何か入っているんです。先生、取ってください!」

これ、実はよくあるやりとりです。このように何かものが入っている感覚を異物感と呼んでいます。異物感があっても本当に異物が存在することは少ないのです。どうしてそんなことが起こるのでしょうか?

 

角膜表面には知覚神経が圧倒的に多い

黒目に触ると痛いですよね。ちょっと触っただけで飛び上がってしまいます。ティッシュみたいな柔らかいものでも我慢なんてしていられません。えっ、怖くて触ったことなんかないって?なるほど。

でも、砂ぼこりが入った経験ならおありではないでしょうか。痛くて痛くて涙がぽろぽろ出てきて目を開けていること自体が難しくなります。あるいはさかまつげになっている方はたったの1~2本でもゴロゴロしてつらいのです。

これが白目のほうになるとまるで違います。異物が入っていても平気の平左で、医師が異物を見つけて取り除いても「へえ、そんなものが入っていたんですか。全然気づきませんでした」と意外そうな反応。そもそも、白目なら麻酔なしで触っても大丈夫です。

これは角膜(黒目)には知覚神経が圧倒的に多いからです。結膜(白目)よりはるかに多い。

角膜はカメラでいうレンズにあたり、視覚にとってきわめて重要なのに、外部に露出していて傷つきやすいため、進化の過程で極端に知覚が鋭敏になったのだろうと考えられています。確かに角膜がキズだらけになって感染をおこしたら簡単に失明してしまいます。

神経が角膜に集中している結果、角膜にキズができると症状は強調され「痛くて痛くてたまらない」となりますし、逆に角膜以外だと「気にならない、気づかない」となるのです。

まぶたを閉じると眼球は上転する

まぶたを閉じると眼球は上のほうを向きます。解剖学的な説明もつけられてはいますが、私が思うに、目に何かぶつかってケガをしそうな時に、まぶたを閉じて眼球を保護すると同時に角膜への直撃を避けようとする巧妙な仕組みなのではないでしょうか。

目を閉じる時には上まぶたが動いて下まぶたはほとんど動きません。ですから上方に退避するのは理にかなっています。

角膜にキズがあると、目を閉じたときに眼球が上転する結果、ちょうど上まぶたの裏側付近に角膜のキズが位置し、まぶたの裏側の結膜とこすれて刺激されます。この感覚が異物感になるのです。そう言う場合は「異物感があっても異物はない」ということになります。そういう時、患者さんは「必ず何かある。よく診てくれ」と力説されます。

そういう時はまぶたの裏側の写真を撮って患者さん自身に何もないことを確認していただいています。 

異物感の大半は角膜のキズ

そんなわけで、異物感の大半は角膜のキズが原因です。その角膜のキズの原因は、ドライアイ、さかまつげ、結膜弛緩症、目薬の防腐剤の影響などさまざまです。

もちろん、異物感のすべてが「幻の異物」というわけではなく、実際にまぶたの裏側にゴミが入っていることもありますし、結膜結石やものもらいができていることもあります。しっかりと診察して確認しておくことは大切です。

『眼痛で救急』の大半は軽症、痛くなくても危険なことも

痛覚が角膜に集中している結果、眼痛を訴えて受診される方の大半は角膜のキズが原因です。たいていは軽症であまり心配はないですし、さほど緊急性もありません。実は眼科救急の患者さんの半数以上を占めます。

逆に、角膜以外だと痛くないために本人に重篤感がなく、実は危険な状態だったということも起こります。金属を削っていて目に入り、痛くないので放置していたら金属片が白目部分から眼球の壁を突き抜けていたケース。木の枝がささって、見えるし痛みも少ないと思って眼科に行かなかったら眼球破裂だったケース。眼の場合、痛みで重症度を判断することは困難なのです。

角膜への表面麻酔薬で痛みは一時的に治まるが

目が痛いと、短時間目を開けるのも苦痛です。診察もできません。そこで、「麻酔の目薬」が使われます。中には表面麻酔薬が入っていて、角膜のキズが痛みの原因の場合、何度かさすと嘘のように痛みが治まります。これで患者さんの苦痛は最小限にして、医師はゆっくり病変を観察できるわけです。

目の痛みには「眼圧が上昇したときの痛み」「眼内炎などの炎症による痛み」「ピント調節に働く毛様体筋の疲労による鈍痛」「三叉神経などの神経痛」などがありますが、この目薬は表面にしか効きませんから、この目薬が効いたなら角膜表面のキズが原因と考えて構いません。

残念ながら麻酔の効果は長続きしません。15分程度です。麻酔が切れるとまた痛くなってしまいます。角膜異物を除去した時など、処置の際は目薬の麻酔が効いていて痛まないのですが、眼科の外に出た頃に麻酔が切れてきて「先生またゴミが入った」と戻っていらっしゃる患者さんが必ずいます。説明はしているつもりですが耳に入っていないのでしょうね。

患者さんから「麻酔の目薬」を処方してくれと頼まれることもあります。なるほど、魔法のように痛みが取れるので、これさえあれば楽になると考えるのも無理からぬところではあります。

残念ながら処方はできません。「麻酔の目薬」は角膜のキズの治りを悪くするのです。角膜の細胞の活動を阻害しますし、角膜からの刺激が減ると涙の分泌が止まってしまいますし、まばたきの回数も減ってしまいます。やたらに使えば大変なことになります。

私が知っているケースでは、患者さんに懇願され、とある眼科医はやむを得ず「なるべく使わずどうしても痛くてたまらないときだけさしなさい」と指示して処方したのですが、人間痛みには弱いもの、患者さんはついつい1日10回以上もさしてしまい、その結果重篤な角膜炎となり失明寸前まで行きました。

いくら患者さんに懇願されてもしてはいけないことがあるのですね。

2011.9