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川本眼科だより

川本眼科だより 216手術と常用薬 2018年1月31日

手術の際に、ふだん服用している薬を続けるのか中止するのかは大事な点です。実は、この件に関しては10年くらい前に考え方が大きく変わりました。

眼科手術の際に内科等で処方されている薬をどうするか? 結論を申し上げると白内障手術では「手術当日でもいつも通りに服用する」で良さそうです。ただ、何事も例外はありますので、必ず医師から指示を受けて下さい。

常用薬を自己判断で中止しない

白内障手術を受けることになった高齢のAさん、もともと5種類の薬を内科からもらっていました。手術当日、いつもの薬をのみませんでした。手術なのだから止めたほうが無難と自分なりに考えたのです。手術前に血圧を測ったら、230/110でした。血圧が高すぎるために、その日の手術は中止になってしまいました・・

血圧を下げる薬を服用しなかったため、手術前で緊張しているせいもあって、血圧が大幅に上昇してしまったのです。

実はAさん、手術の時もいつも通り薬を使うように説明を受けていました。でも、すっかり忘れていました。手術前の説明はたくさんあって覚えきれません。高齢であれば記憶力も衰え、説明を受けたときには分かった気になっても、時間がたつと記憶が曖昧になったりします。

自信がないときに勝手に自己判断してはいけません。手術の注意点を書いた書類をお渡ししてありますから、それをもう一度確認して下さい。もし見つからなければ電話で問い合わせて下さい。川本眼科でも手術する施設でも対応いたします。

抗血栓薬をどうするか

様々な病気に対して「抗血栓薬」が使われます。血管内に血栓(血の固まり)ができるといろいろ問題を起こすので、それに対する薬です。「血液がサラサラになる薬」などと説明を受けていることが多いと思います。抗血小板薬(アスピリン等)、抗凝固薬(ワルファリン等)、血栓溶解薬(急性期に医師が使う)に分類されますが、専門的すぎるので省略します。

開腹手術のときには、出血が止まりにくくなると困るので、数日間休薬するのが普通です。何日休薬するかは薬によって異なるので、医師の指示をしっかり守って下さい。

白内障手術と抗血栓薬

以前は、白内障手術のときにも開腹手術に準じて休薬していました。しかし、10年くらい前に休薬期間中に血栓が生じて脳梗塞や心筋梗塞などが起きている事実が判明し、「休薬しなくても大丈夫な手術はなるべく休薬しないようにしよう」という勧告が出されました。

現在は、白内障手術では抗血栓薬を休薬しないのが一般的です。中京グループでは何年も前からそういう方針でやっていますが、深刻なトラブルは1件も経験していません。術後白目が赤くなることはありますが(結膜下出血)、1週間くらいで吸収されますので心配いりません。

眼科手術でも、出血が心配な場合は休薬しています(硝子体手術等)。医師が出血リスクの大きさを判断して決めています。

同様に、歯科での治療(抜歯等)でも今はほとんど休薬しません。

内科等の休薬許可

内科の先生が、気を利かせて休薬して良いとの許可を出して下さる場合もあります。眼科としては、いざという時には安心して休薬できるのでありがたいのですが、白内障手術に限っては休薬許可が出ても実際には継続しています。

α1遮断薬

α1アドレナリン受容体遮断薬は、前立腺肥大症に伴う排尿障害や夜間頻尿の治療薬として最も多く使われている薬です。具体的な薬剤名としては、ハルナール、ユリーフ、フリバスなどです。

この薬を使っている人は、白内障手術の際に虹彩がフニャフニャになって、虹彩が水流でうねるように動いたり、虹彩が外に飛び出したり、瞳孔が縮んだりして手術がきわめて難しくなることがあります(IFIS=術中虹彩緊張低下症候群)。

薬を使っている人全員に起こるわけではありません。でも起こると厄介です。

残念ながら、短期間休薬しても発症を防ぐことはできません。何ヶ月も休薬すれば良いのかも知れませんが、当然必要があって使っている薬なのですから、そんなに長く休薬するのは現実的ではありません。

結局、α1遮断薬は休薬せずに手術しています。幸い、経験を積んだ上手な術者であれば、難易度は上がりますが、十分手術は可能です。

糖尿病の薬

糖尿病の薬はどうでしょうか。全身麻酔をかける手術では「食止め」といって手術前から何時間か絶食していただきます。その状態で糖尿病薬を使うと低血糖になってしまうので、薬を減量・中止するのが普通です。

白内障手術は点眼麻酔で可能ですから、ふつう食止めにはしません。したがって糖尿病の薬もいつも通りでよいのです。

95%以上はいつも通り内服

以上をまとめると、白内障手術の際に常用薬はいつも通り服用すると考えて大きな間違いはありません。ただ、100%というわけではなく、例外もあります。また、眼科でも白内障以外の手術では違ってきます。

思い込み、決めつけは避け、必ず医師から指示を受けてそれを守って下さい。

他科での手術時に眼科の薬は

逆に、他科で手術を受けるとき、眼科で処方されている薬はどうすればよいでしょうか?

目薬については、他科の手術に悪影響を与える心配はまずありません。それでも少数の例外はあるので念のため医師に確認して下さい。

実際問題として、開腹手術の直後など、目薬どころではなくなるでしょう。そういう場合は無理してささなくても大丈夫です。痛みなどが落ち着いて、眼を気にする余裕ができてから再開すればよいと思います。

なるべく早めに再開したい目薬は緑内障点眼薬です。ベッドから起きて自力で歩くようになったら、目薬も始めて下さい。