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川本眼科だより

川本眼科だより 156診療情報提供書 2013年1月31日

大きな病院を受診するときに紹介状を渡されますね。あれが「診療情報提供書」です。持たずに病院を受診すると、もともと通院していた医療機関に診療情報提供書を書くよう、わざわざ依頼することもしばしばあります。

封をしてあるので、普通患者さんは中を見ることができません。いったい、どんなことが書いてあるのでしょうか?

診療情報提供書とは

医師同士が患者さんの問題についてやり取りする手紙を「診療情報提供書」と言います。

内容についての制限は特になく、形式も決まっていません。医師会が標準的な様式を用意していますが、それぞれの医療機関が独自の提供書を用意していることが多いと思います。川本眼科も使いやすいようにアレンジした提供書を何種類か用意して使っています。例えば、白内障手術のために連絡する時にはそれ専用の提供書を使います。

何が書いてあるのか

いわゆる「紹介状」の場合には、常識的に、病名・経過・検査結果・使用薬剤・手術歴・既往症などを書くことが多いと思います。必要なら視野検査や眼底写真やCTなどを添付することもあります。

それ以外に、特定の事項に限定して質問することもあります。例えば、喘息持ちの患者さんで、眼科医から内科医にある種の目薬を使っていいか尋ねるような場合です。こういうやり取りも診療情報提供書を使って行われます。

簡潔でも詳細でも費用は同じ

転居などに伴う紹介状でも、ありふれた病気で順調な経過なら簡単に済ませます。重大な問題があれば記載してあるはずなので、簡単な内容なら大きな問題がないと判断できます。

難しい病気で経過が複雑で問題点がたくさんあれば、当然詳細な記述が必要になり、正確な記述のためにカルテを仔細に調べて要約しなければならず、相当に大変な仕事になることもあります。

どんなに手間と時間がかかっても、保険点数は一律で決められているので、費用は一緒です。それどころか、同じ日に数ヶ所に提供書を書いても1通分の費用しか請求できません。どちらかと言えば、医師にとって割の合わない仕事ですが、重要性は高いので手は抜けません。

紹介率が病院の収入に影響

開業医が大学病院や大きな総合病院に紹介するときには必ず診療情報提供書を書きます。今までの経過を伝えたり、紹介する理由を述べたり、紹介状が必要なのは当たり前です。

実は、病院にとっては紹介状のあるなしが診療報酬に関係してきます。紹介状を持った初診患者さんの比率を紹介率と言い、高度医療を担う大学病院などは「特定機能病院」と言われ、紹介率が30%以上なければなりません。さらに、「地域医療支援病院」と認定されると診療報酬上優遇してもらえるのですが、そのためには紹介率40%以上で逆紹介率60%以上なければなりません。

そのため、多くの病院が紹介率を上げるために涙ぐましい努力をしています。1つは紹介状を持たない患者に対して特定療養費を徴収して、直接自院を受診することを抑制しています。また、病診連携専門の部署を立ち上げて開業医に登録を繰り返し呼びかけ、便宜を図り、低姿勢で紹介をお願いするといった具合です。救急車による搬送患者は紹介率にカウントされるため、救急に力を入れだした病院もあります。

外来を切り離す奇策まで

紹介率を上げるために奇策を用いた病院もあります。大同病院は、外来部門を病院本体から切り離して「だいどうクリニック」を作りました。

こうすることで大同病院自体の外来患者は減り、見かけ上紹介率は上がります。背に腹はかえられないとなりふり構わず突っ走ったのでしょうが、さすがにやり過ぎではないかと感じました。

一時は多くの病院が同様の手法を検討していたようですが、その後制度の手直しが行われて外来の切り離しの動きは収まったようです。

開業医に紹介状の依頼が

一時ほどではありませんが、今でも紹介率を上げることは病院にとって重要です。そのため、紹介状を持たずに病院を受診した場合、もともと通院していた開業医があれば、紹介状を書いて欲しいと病院から依頼が来ます。受診理由がもともとの病気と直接関係なくても構わないのです。極端なことを言えば、病院からすれば紹介状の中身はどうでも良くて、形式的に紹介状がありさえすれば紹介率を上げられるわけです。

病院の事情も理解できるので、私はなるべく依頼に応じるようにしています。大病院には普段からいろいろお世話になっているので、恩返しの意味もあります。ただ、当院にかかっていた病気とあまり関係なさそうだと思えば、ごくごく簡単にしか書きませんが。

なお、紹介状がないと特定療養費を徴収されるので、紹介状を書くのは、病院だけでなく患者さんにとってもメリットがあります。念のため。

ファックスやメールを認めて

最近は、紙の文書を手渡したり郵送したりする代わりに、ファックスやEメールを使うことが多くなっています。便利ですし、早く届きますし、費用も安くすみます。

ところが、診療情報提供書に関しては、いまだに「紙の文書」が原則です。そのため、いったんファックスで送っても、全く同じ内容の文書を郵送し直すなんて馬鹿なことをしています。電子カルテで作った診療情報提供書を紙に印刷して郵送し、受け取った側はそれをスキャナーで読み取って電子カルテ上に保存する、なんて無意味で無駄な作業もしばしば見られます。誰が考えたって、Eメールでやり取りするほうが合理的なのに。

こんな馬鹿げたことは早く止めましょう。法律を改正しなくても解釈を変更すれば済む話です。厚労省が通達を出せばよいのです。早急に改めて欲しいものです。

(2013.1)