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川本眼科だより

川本眼科だより 257診療情報提供書 2021年6月30日

大病院に検査・治療を依頼する場合、紹介状を書きます。それに対する返事は回答書です。このように患者さんに関して医師間でやり取りする文書を総称して「診療情報提供書」と呼びます。

今回は診情に関するよもやま話です。いったい中にはどんなことが書いてあるのでしょうか?

決まった書式はない

実は診療情報提供書に決まった書式はありません。何を書くかは医師の自由裁量に委ねられています。そうは言っても常識的に何を書くべきかは決まってきますし、ある程度の「型」もあります。

このあたりは普通の手紙でも同じだと思います。手紙の書き方は法律で決まっているわけではありませんし、ずいぶん奇抜な手紙を書く人もいます。しかし、多くの人は “頭語→時候の挨拶→用件→結びの挨拶→結語” のように書きます。型通りに書いた方が書きやすいからです。

診療情報提供書に必ず記載されている項目は、
1)日付、2)患者さんのお名前・住所・電話等、3)紹介先と紹介元の病医院名・医師名・連絡先です。これは当たり前すぎますね。でもうっかり者の先生もいらっしゃって、私は紹介元が空欄の提供書をいただいたことがあります。医院のゴム印を押すつもりで押し忘れたのでしょう。

情報提供の趣旨を明確に述べることも大切です。「精査をお願いします」「手術を希望している」「転居したので今後診て下さい」等々ですね。

そのほか、現病歴(病気の経過)、既往歴(今までどんな病気にかかったか)、検査結果(視力・眼圧・眼底写真・OCT画像・視野等)、投薬内容などを記載するのが眼科では一般的です。必要な検査データ(画像等)は添付します。

簡単すぎたり冗長だったり

何を書くかは医師の裁量に任されているので、時にはほとんど中身のない診療情報提供書に遭遇します。「緑内障です。お願いします」しか書いていなかったら今後の診療の役には立ちません。

情報の必要性は病気によって異なります。白内障など診れば分かりますが、それでも「手術を勧めているが家庭の事情でできない」などとあれば参考になります。

その一方で、電子カルテが普及した結果、検査データをすべて印刷して大量のプリントアウトを送りつけてくる先生もいらっしゃいます。デジタルデータのままやり取りできる時代が到来するまでは、情報を取捨選択してほしいと思います。

私が情報提供書を書くときには、病状の理解に役立つよう情報を整理し、「簡にして要を得る」を理想としています。

診療情報提供と診療報酬

診療情報提供書は真面目に書くと相当に時間がかかります。緑内障やぶどう膜炎など慢性疾患で経過が長い患者さんでは特に大変です。カルテをひっくり返して誤りのないように慎重に確認します。手間をかけてもかけなくても診療報酬は同額ですから馬鹿馬鹿しくなることもあります。大事な仕事だと思うのでもっと評価してほしいですね。

困るのは、転居するから紹介状が欲しいと依頼された場合です。ほとんどの場合どこに受診するか決まっていないのに、実は紹介先医療機関名の記載がないと診療報酬がいただけないのです。

紹介状が最も必要な状況で、詳しい記載が要求されますし、受診先は転居後でないと普通決まらないわけで、これはどう考えても不合理なきまりです。文書料として自費で請求することは可能ですが、患者さんは納得できないでしょう。実際には保険請求している医療機関が多いと聞きます。当院では、苦肉の策として患者さんの同意を得て仮の受診先を決めてもらい、別の医療機関に受診する場合でもそのまま渡してもらっています。

セカンドオピニオンの場合

セカンドオピニオンを目的として診療情報を提供した場合、診療報酬は通常の2倍に設定されています。セカンドオピニオンのための情報提供には相当の労力が必要なのでその点を評価したとされていますが、実はこの制度はほとんど活用されていません。紹介先では自費診療というきまりのため、患者負担が高額になってしまうからです。

患者さんがセカンドオピニオンを希望した場合であっても、当院では普通に診療依頼として紹介しています。そのほうが紹介先では追加の検査をしやすいので都合が良いからです。制度設計に問題があると言わざるを得ません。

押印、FAX、メール

電子カルテが普及したので、診療情報提供書もワープロ文書のように印刷されることが多くなりました。それに伴い、押印も廃止されるようになりました。時代の流れですね。

同じ文面をコピー&ペーストで繰り返し使えるのが利点のようですが、コピペに伴うミスが散見されるようになりました。

ちなみに当院ではいまだに手書きです。当院独自の書式を作成して自院の名称や連絡先名ではあらかじめ印刷してあります。本文さえ書いてしまえば、患者さんの氏名・住所・電話とか日付とか紹介先医療機関名とかはスタッフが記入してくれるので楽です。押印もしています。偽造防止の意味はあると思っています。

FAXで診療情報提供書を送ることは開業当初からしています。郵送より早いので。ただFAXでは診療報酬が算定できないという話だったので後から紙でも郵送するというムダなことをしています。診療報酬と無関係の受診報告などはFAXしかしません。

メールによる診療情報提供も認められるようになりました。ただ、電子認証が必要で、医師が自分で全部パソコン入力しなければならないので、かえって面倒だと思い採用していません。

診療情報提供の未来

診情で大事なのは「病歴を要約して伝える」だと思います。これは結局サマリーを作成することであり、医師が自分でするしかなく、省力化はできません。将来も大して変わらないでしょう。

ただ、検査データを紙に印刷するのはさすがに時代遅れです。デジタルデータのまま受け渡しできるようにするべきです。ただ、現在は検査機器によってデータ形式が異なり、互換性がありません。個人情報を保護する必要性もあるので、データを外部に取り出すのも制限されています。

緑内障の視野データの受け渡しは特に必要性が高いと思います。あちこちの眼科で視野検査をしてデータが分散し有効活用されていません。視野はハンフリーという機種が事実上の標準となっており、メーカーがその気になれば可能なはずです。ぜひ実現して欲しいと思います。

(2021.6)