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川本眼科だより

川本眼科だより 164帯状疱疹と目 2013年9月30日

帯状疱疹(たいじょうほうしん)は皮膚にぶつぶつと発疹(ほっしん)が出る病気です。腹に出たり、胸に出たり、顔に出たりします。体の左右どちらかだけにおこるのが特徴的で、反対側まで広がることはありません。強い痛みを伴うのが普通で、治ってもいつまでも痛みや刺激感が残ることがあります。

顔や頭に皮膚症状が出たときは目にも炎症を起こすことがあります。その時は皮膚科(内科、ペインクリニック等)と眼科が共同で治療します。首から下の帯状疱疹なら、目は心配いりません。

今回は、帯状疱疹の原因、目に対する治療、ワクチンによる予防について取り上げます。

水痘(すいとう)のウイルスが原因

水痘とは、水ぼうそうのことです。たいていは子供の頃にかかり、数日で治ります。

実は、治っても水痘のウイルスは完全には消失していません。神経節というところに潜んでいます。そのまま何十年も大人しくしているのですが、過労やストレスなどで免疫力が低下すると再活性化し、神経が走っている経路をたどって皮膚に症状を起こします。これが帯状疱疹です。

つまり、水痘も帯状疱疹も原因となるウイルスは同じです。

1つの神経節から分布する神経の範囲は決まっていて、帯状疱疹を起こしている部位と正常な部位との境界は非常にはっきりしています。

顔には三叉神経(さんさしんけい)という知覚神経が分布しています。三叉神経節からは目に神経が伸びているので、目にも、眼瞼炎、角膜炎、結膜炎、ぶどう膜炎、緑内障などを起こします。

眼部帯状疱疹の症状と経過

三叉神経には第1枝~第3枝があります。目に症状が出るのは第1枝領域が圧倒的に多く、この場合、皮膚症状は頭、額、まぶた、鼻に出ます。必ず左右どちらかだけにおこり、反対側まで広がることはありません。

最初は痛みや違和感だけのことが多く、皮膚に典型的な症状が出ないので診断がつきません。数日すると赤い斑点が出てきます。それが盛り上がり、水ぶくれになり、破れ、かさぶたになります。強い痛みを伴うのが特徴的です。

皮膚症状が出て2~3日後に目の症状が出てくるのが一般的です。(人によって違う)

まれに顔面神経麻痺(顔が歪む)、耳の痛み、めまい、味覚障害などを起こすことがあります。

帯状疱疹は後遺症が残りやすい病気です。数ヶ月とか数年わたって強い後神経痛に悩まされることがあります。強い痛みでなくても、ピリピリしたりジンジンしたりと皮膚異常感覚がいつまでも残ることもあります。これが厄介で、なかなか良い対処法がないのです。

帯状疱疹には全身投与

帯状疱疹には抗ヘルペスウイルス薬の全身投与が基本です。皮膚症状が出て72時間以内に治療を開始すれば後遺症が出にくいと言われています。バルトレックス、ファムビル、アシクロビルなどを7日間内服します。点滴することもあります。いずれも高価な薬です。健康保険では7日間までと決められていてそれ以上長くは処方できません。

これらの薬は眼科で処方することもあります。使う薬はだいたい決まっていますし、短期間で後遺症なくきれいに治ってしまえばそれで問題はありません。

ただ、後神経痛が続くことが多いですし、その対策として処方する薬にもめまい・傾眠・浮腫などの副作用があります。そういう場合の管理を眼科医が担当するのは無理があるので、全身投与はふつう皮膚科か内科にお願いしています。

目にはゾビラックス眼軟膏

目にはゾビラックス(アシクロビル)眼軟膏を1日5回2週間使います。この薬、実は単純ヘルペスウイルスにしか承認が取れていないので適応外(つまり本当なら自費)のはずですが、眼科医はみんな使っています。だって他に良い薬がないんですから。健康保険の審査も通ります。

眼軟膏は目の中に入れて使います。下まぶたをひっくり返してそこに軟膏を載せて目を閉じればよいのですが、なかなか上手にできない人もいます。自分でやるより誰かにやってもらったほうが楽です。ガラス棒を使って入れる方法もあり、最初に看護師がやり方をお教えします。

目のまわりの皮膚にもこの眼軟膏を塗ります。目の中に軟膏が入っても構わないので安心です。目から離れた部位には皮膚科からアラセナA軟膏などが出ると思いますので指示に従って下さい。

眼軟膏以外に目薬をお出しすることもあります。混合感染予防の抗菌剤、強い炎症を抑えるステロイド、癒着を防ぐ散瞳剤、眼圧を下げる目薬などを、必要に応じて使います。あくまでも内服や眼軟膏がメインで、補助的な治療になります。

ワクチンによる予防

 水痘(水ぼうそう)には子供の頃にかかった人が多いでしょう。一度かかれば一生かからないと言われていましたが、獲得した抗体価の強さは個人差が大きいですし、20年くらいで免疫は低下し始め、40~50年たつと危険レベルまで下がるそうです。50歳以降に帯状疱疹にかかる人が急激に増えるのはそのせいだと考えられます。

水痘にかからずワクチンを打って免疫をつけた人もいます。この場合自然感染よりも免疫の持続期間は短く、約10年と言われています。

水痘と帯状疱疹のウイルスは同じなので、水痘ワクチンを打てば帯状疱疹を予防することが期待できます。臨床試験では発症率は半減し、発症しても症状が軽くてすみ、後遺症を残す恐れが3分の1くらいに減ったと報告されています。

既に多くの国で接種が行われています。例えば米国ではFDAが認可し、50歳以上に接種して成果を上げています。

50歳以上になったら、帯状疱疹対策として水痘ワクチンの接種をお勧めします。抗体検査を受けて低下していれば接種するという考え方もありますが、検査せずに接種してしまっても別に問題ありません。実際に私(院長)と家内(副院長)は抗体検査はせずにワクチン接種を受けました。

申し訳ありませんが、川本眼科では接種していません。内科や小児科で予防接種を実施している施設ならどこでもやってくれると思います。

残念ながら、日本では健康保険の適応がありませんので、自費になります。施設によって違いますが1万円くらいのようです。1回打てば10年は大丈夫だと思えば安いものではないでしょうか。帯状疱疹後の神経痛に何年も苦しむのはまっぴらご免ですから。

(2013.9)