川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 112眼を温める治療 2009年6月30日

ドライアイ眼精疲労に対し「眼を温める」ことで症状を改善させようとする方法があります。ずいぶん昔からあった治療法で温罨法(おんあんぽう)などと呼ばれていました。

最近、新しい理論に基づき、この眼を温める治療法が見直されています。あくまでも対症療法で永続的な効果は望めませんが、患者さん自身で気軽にできる方法ですので、試しにやってみる価値はあると思います。

まぶたから涙の蒸発を防ぐ油が

まぶたの縁にはマイボーム腺というものがあり、皮脂(あぶら)を分泌しています。上まぶたに約40、下まぶたに約30もあるのです。ここから出る油が涙の蒸発を防いでくれます。

逆に、マイボーム腺から油が出ないと涙が蒸発しやすくなり、ドライアイと呼ばれる状態になります。ドライアイは涙液減少型と蒸発亢進型に分類されています。実際には「涙が出る量も少ないし蒸発量も多い」というケースが多く、きれいに分けられる訳ではないのですが、蒸発亢進型のほうがはるかに多いとされています。

加齢に伴いマイボーム腺は詰まりやすくなります。原因は分泌される油の性質が変わるからです。融点(固体の油が溶けて液体になる温度)が高くなり、サラサラだった油が粘っこくなり、時には中で固まってしまいます。高齢者のまぶたを押すとマイボーム腺から練り歯磨き状の油が出てくるのをよく経験します。こんな風に固まってしまったら、涙の蒸発を防ぐ働きはほとんど期待できません。

温めれば固まった油が溶ける

人間の体温は普通36~37℃ですから、マイボーム腺の油の融点が36℃以下なら液体の状態で問題ありません。これが仮に融点38℃に変化したら固まってしまいます。

眼科医は固まった油を圧迫して取り除く処置ができますが、油はまたたまりますから数日ごとに処置しないと実効が上がりません。でも眼科医は忙しくてそんなことは不可能です。

まぶたを40℃くらいに温めれば油が溶けることが期待できます。もっとも表面を温めても深部は簡単には温まりません。報告によれば10分間くらい温め続ける必要があるそうです。

赤外線で温める「アイホット」

実は川本眼科にも赤外線でまぶたを温める機械が置いてあります。商品名を「アイホット」といいます。中京病院にもあります。

一時、実験的に一部の患者さんに試してみましたが、すぐにやめてしまいました。1週間に1回温める程度では十分な効果は得られないことがわかったからです。

本当は毎日根気よく続ければそれなりの効果があるのでしょうが、対象になりそうな患者さんはものすごく多く、そういう患者さんが大勢毎日通院したら川本眼科の外来はたちまちパンクしてしまいます。

温おしぼりはすぐ冷める

ご家庭で簡単にできる方法として「温かいおしぼり」を使ってみることをお勧めしたこともあります。濡れタオルを電子レンジでチンすれば作れるので簡単です。

しかし、この方法あまり評判がよくないのです。原因は適温を長時間維持できないことにありました。1分くらいすると冷めてしまい、その後は気化熱で逆に冷えるのです。「10分間くらい温め続ける」のは無理なのでした。

風呂に入りながら温める

結局、「10分間くらい温め続ける」のが可能なのは風呂に入っている時だけのようです。

湯船のお湯の温度は40℃くらいで最適です。お湯を絞っておしぼりを作り目の上にのせ、温度が下がってきたらまたお湯を絞って温めて目の上にのせる・・・というやり方をお勧めします。

眼の縁を清潔にするのも風呂場ならやりやすく、お金をかけないでできる方法としてはベストではないでしょうか。

使い捨て蒸気浴アイマスク

花王が使い捨てカイロの技術を使って、40℃くらいの蒸気が出てくるアイマスクを製品化しています。商品名を「めぐリズム」といいます。

http://www.kao.co.jp/megurism/eye/

鶴見大学・後藤英樹准教授との共同研究でドライアイやVDT作業による眼精疲労に効果があったと発表しているそうですが、研究内容はかなりラフな感じで信用してよいものか評価しかねます。ただ、少なくとも理屈には合っています。

私自身も試供品を試してみましたが、自覚的には気持ちがよくてリラックスできました。

温おしぼりでは適温を1分程度しか保てないのに、めぐリズムは40℃ほどを10分くらい保てるのが最大のメリットだと思います。

問題は価格でしょう。1枚100円ほどですから1ヶ月使えば3千円ほどかかってしまいます。効果は長続きしませんから、ずっと使い続けることになりそうです。1年使えば3万6千円?

確かに毎日眼科で「アイホット」治療を受けるより安くすみますが、しかし馬鹿にならない金額ではあります。しばらく隣のサンシバタ薬局に置いてもらうよう依頼しましたので、ご希望の方はどうぞ。今のところ類似品はないようです。

なお、私は花王とは何の利害関係もありません。もちろん宣伝を依頼された訳でもありません。念のため。

2009.6