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川本眼科だより

川本眼科だより 194白内障手術のメリット 2016年3月31日

白内障手術をすると得することがたくさんあります。単に濁りを取るだけではなく、近視、遠視、乱視、不正乱視なども改善させることができます。さらに、体内時計を正常化させる効果もあるので夜ぐっすり寝られるようになるかも知れません。認知障害にも良い影響があり、認知症が進行するのを抑える効果が期待されています。外出が増え、積極的に社会参加するようになります。
 白内障手術は老化防止(アンチエイジング)に有効で、高齢者の生活の質(Quality of Life) を向上させることが、近年報告された様々な研究から証明されています。

近視や遠視も直せる

白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、代わりになる人工レンズを挿入します。このレンズを「眼内レンズ」と呼んでいます。

眼内レンズには、メガネやコンタクトと同様に度数があります。手術前に患者さんのご希望をお伺いした上で、日常生活になるべく便利なように度数を決めています。どうしても測定誤差があるので、完全に狙い通りピッタリとはまいりませんが、それまで近視や遠視だった方を正視に近づけることが可能です。それまでメガネがなければ全く生活できなかった人が、裸眼でもそんなに困らなくなります。

白内障手術は屈折矯正手術(近視や遠視を直す手術)でもあるのです。白内障がまだそれほど強くなくても、近視や遠視が強い場合は早めに手術をお勧めしています。(逆に完全に正視の人は慎重に考えたほうが良いでしょう)

乱視を軽くできるかも

眼内レンズは乱視も矯正できます。残念ながら完全に乱視がなくなる訳ではなく、強い乱視を軽減できる程度ですが、術後の視機能を向上させるのに役立ちます。乱視矯正レンズを入れて効果があるかどうか術前検査で調べ、効果が期待できる人に使用しています。

なお、乱視矯正レンズを使わなくても、水晶体に起因する乱視は術後軽減します。ただし、水晶体乱視よりも角膜乱視のほうが影響が大きいので、術後必ずしも眼球全体の乱視(=水晶体乱視+角膜乱視)が軽くなるとは限りません。

高次収差を直せる

メガネで直せる乱視は、正乱視だけです。正乱視とは、円が楕円に変形して見える乱視のことで、乱視矯正レンズはその楕円を元の円に見えるように直すレンズです。それ以外の乱視を不正乱視と総称します。不正乱視はメガネでは直せません。

高次収差は不正乱視とほぼ同じ意味と考えてよいでしょう。(正確には少し違う)

白内障になると高次収差が増え、視力自体はそんなに悪くなくても見え方の質が大幅に低下してしまうことがあります。例えば、白内障になるとものが3つに見えることがあり、三重視と言って有名な症状なのですが、これも高次収差の一種です。これを直すには白内障手術を受けるしかありません。

白内障手術を受けて「よく見える」と喜んでいただけるのは、単に濁りが取れるだけではなく、高次収差が軽減するのが大きいのです。

老視対策の可能性

眼内レンズには多焦点レンズというものもあります。現時点ではまだ問題が多く、自費診療になるのですが、高額な治療費を出すほどの価値があるか疑問を持っています。ただ、将来的には大きな可能性を秘めていて、「白内障手術で老視も治す」という時代が来るかも知れません。

体内時計を正常化

体内時計は目から入る光の影響を強く受けます。最も影響するのは青色光(420~440nmの波長の光)です。覚醒-睡眠のリズムは、朝から昼にかけて青色光を浴び、夜は比較的暗い中で過ごすことによって、規則正しく維持されます。専門的には、網膜-視床下部-松果体という経路で刺激が伝達され、メラトニンというホルモンが関係していると考えられています。

青色光は近年悪玉のような扱いを受けていますが、体内時計にとっては必要不可欠なものです。

白内障になると水晶体は黄色くなり、青色光を吸収するため、体内時計のリズムが乱れます。その結果、夜寝付けなかったり、昼間に眠くなってしまったりします。

白内障手術を受けると、青色光が若い時と同じように網膜を刺激します。その結果、体内時計が正常化して、寝つきが良くなり、就寝中に覚醒することが少なくなり、睡眠の質が改善します。よく寝れば病気にだってなりにくいですよね!

認知障害にも効果

白内障になると本や新聞を読むことは億劫になります。テレビだって見えづらくなります。視覚で得られる情報が減り、認知症が進行するリスクになると考えられています。

白内障手術が認知症リスクを減らせるか多数の報告があり、有効だとする報告と変わらないとする報告と両方があります。詳しく検討してみると、進行してしまった認知症には無効で、元には戻りません。しかし、軽度認知障害には有効で、進行を防げると解釈できます。

つまり、認知症になる前、比較的若いうちに積極的に白内障手術を受けるのが得策ということになりますね。

人口の高齢化がどんどん進んでいるわけで、近い将来認知症も激増すると予想されています。少しでも効果があるなら、社会にとっての福音だと思います。

死亡率が下がる?

30年前には、白内障手術を受けた人たちの死亡率は高いと報告されていました。20年前には死亡率は変わらないという論文が出ています。最近10年の間に発表された論文はいずれも、白内障手術を受けたほうが死亡率が下がると報告しています。

なぜそうなるのか解釈はいろいろできそうです。手術法が進歩した、年齢が若いうちに、白内障がまだ軽いうちに手術を受けるようになった、等々。

手術で視力が向上すれば、転倒しにくくなる、事故に遭いにくくなる、外出したり運動したりするので生活習慣病になりにくい、病気になっても自己管理しやすい、などが期待できるので、死亡率が下がったという結果は当然だと思います。

(2016.3)