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川本眼科だより

川本眼科だより 202物忘れ対策 2016年11月30日

恥ずかしながら、最近物忘れが多くなってきました。「歳だなあ」と嘆くことしきりです。

しかし嘆いてばかりもいられません。物忘れしやすいなら対策を立てればよいのです。記憶力が低下したことを前提に対策を立てて、それを習慣化すれば、それほど困らないはずです。

短期記憶が悪くなる

歳を取っても、昔のことはよく覚えています。ところが最近のことは覚えていられません。

歳を取ると短期記憶の引き出し(メモリー)が減ってしまい、同時に複数の作業を並行して進めることが困難になります。(ちなみに短期記憶は脳の中の海馬という部分に蓄えられるそうです)

私の感覚では、若い時には10くらい短期記憶の引き出し(メモリー)があって、その短期記憶をいつでも素早く取り出すことができました。今は引き出しが3つくらいしかない感じです。

1つの仕事だけを処理すればよいなら、記憶の引き出し(メモリー)は3つで十分です。順序を決めて1つ1つ処理すればよいので、処理が済んで不要になった情報は捨ててメモリーを書き換えてしまえるからです。

問題は作業の途中で別の仕事が割り込んできたときです。途端にメモリー不足が露呈します。割り込んできた仕事を済ませて元の作業に戻ろうとすると、必要な短期記憶が既に失われていて、何をしようとしていたのか忘れてしまっています。本当に困ったものです。

対策の第一は、一段落するまでは作業を中断しないことです。もっとも、それができないことも現実には多いのですが。

後回しにせずその場でやる

面倒くさいことはやりたくないもの。どうしても後回しにしたくなります。これが良くないのですね。その用件の存在自体を忘れてしまうのです。結構大事な用件でも覚えているとは限りません。

対策の第二は、仕事を後回しにせず直ちにその場で処理してしまうことです。そうすれば自分にとっても「用件を忘れてしまうリスク」を回避できますし、そのうえ依頼者にも「仕事が早い!」と喜んでいただけるので一石二鳥です。その場でやっても、1週間後にやっても、どうせ面倒くさいことには変わりないのですから。

外部記憶に頼る

「博士の愛した数式」という小説をご存じですか? 映画化もされました。ここに登場する博士は交通事故のため新しい記憶が80分しか持続しません。当然困ることがたくさん起こります。前日会っていても翌日には「はじめまして」です。

対策は、身体のあちこちにメモをべたべた貼り付けておくことでした。脳の内部に記憶を保持できないのなら、外部に記録を残しておけばよいわけです。

記憶力に自信がなくなった場合の対策の第三は何でも書き留めるメモ魔になることです。ただし、メモというと小さな紙片を思い浮かべる方が多いと思いますが、私は大事なことを書き留めた紙片がどこに行ったか分からなくなったことが何回もあります。紙片では紛失する心配があるのです。できれば、ノートのようなものを専用の備忘録にして、そこに日付を入れた上で記録することをお勧めします。

もし手元に備忘録用のノートがなくて、とりあえず紙片にメモをした場合には、できるだけ早くそれをノートに貼り付けておくべきです。紛失してしまわないうちに。

なお、いちいち紙片からノートに書き写すのは止めたほうがよいです。私の経験では面倒くさくて続かないからです。

アイデアを書き留める

私は毎月「川本眼科だより」を執筆していて、毎月題材や内容をひねりださなければなりません。当院に通っている方に興味を持っていただいて、しかも難しくなりすぎず、原則一話完結という条件を充たす必要があるのですが、なかなかテーマが思いつかず四苦八苦することもあります。

一生懸命考えて、なかなか決まらず難航しているようなとき、診察の合間に突然アイデアがひらめくときがあります。本当に、なんでこんな時に、と思うような時にそれはやってきます。(神の啓示とかセレンディピティとか呼ばれていますね)

しかし、悲しいかな、そのアイデアはすぐに消えてしまいます。短期記憶にとどめておくことができず、忘却の彼方へ雲散霧消し、後からいくら思い出そうとしても思い出せません。

こういうとき絶大な威力を発揮するのがメモです。断片でも書き留めておくとそれを手がかりにアイデアを取り戻せるのです。もっとも、あんまりあわててメモして字が汚すぎて後で見返しても判読できないこともありましたが。

長期記憶や経験でカバーする

加齢に伴い、短期記憶の点では若い人にかなわなくなりますが、それほど嘆く必要はありません。幸い、歳を取っても長期記憶は保たれています。長期記憶なら、量的にも質的にも若い人には負けません。知識だけではなく、身体で覚えた技術も、複雑に入り組んだ問題を解決するためのノウハウも、年長者には一日の長があります。

対策の第四は、長期記憶や経験の活用です。自分が強みを発揮できる土俵で勝負すればよいのです。そういう分野はたくさんありますし、むしろ、コンピュータや人工知能が高度に発達した社会にあっても、人間の存在意義を示せるのはそういう分野だと私は考えています。

逆に、コンピュータやインターネットなどは、短期記憶が衰えても、それを助けてくれる便利なツールです。上手に使いましょう。

前向きに考えよう

今回の話は物忘れの程度が軽症~中等症の場合です。重症の場合には本人の工夫や努力では限界があり、やはり周囲の見守りや対応が必要になってくるでしょう。

しかし、物忘れの大半は軽症であって、それはある程度の年齢になれば誰にでも起こることです。他人様に迷惑をかけないよう、それなりに対策は講じるにしても、多少の失敗はあまり気にせず、こんなものだと割り切り、前向きに生きることが精神衛生上も良いと思います。

(2016.11)